ビジネスの現場でも商談やプレゼンの場でも、相手の興味・関心を集めることは重要なスキルだ。企業向けにコミュニケーションの研修などを行う筆者から見ても、本田氏の解説には「人を惹きつけるコミュニケーション」のヒントがつまっている。今回は、その具体的な要素を3つの視点から解説する。
■「感情」と「論理」の絶妙なバランス
本田氏の解説で最も特徴的なのは時に「感情」をあらわにするストレートな物言いであろう。初戦のオランダ戦でも相手選手の巧みな攻撃に対して「11番、めっちゃうざいっすね!」、日本選手がファウルの判定を受けると「なんでやねん!」とレフリーにツッコミを入れ、日本がゴールを決めると「よし!いえええす!」と絶叫する。
しかしとても感情的な一面を見せたかと思えば、「なぜ今選手がそのポジションを取っているのか」「どのスペースを狙っているのか」といったピッチ上で起こっていることを客観的かつ論理的に解説する。
今までのスポーツ解説者といえば、どちらかというとその競技の専門知識と経験をもとに試合中に起こっていることを「淡々と説明する」印象が強かった。しかし本田氏の解説は「感情」と「論理」が絶妙なバランスで絡み合っており、視聴者を飽きさせない。
これは視聴者が試合を見ながら感情が動き、戦術やプレーの意図について情報を求めるという視聴者ニーズに対して的確に応えていることになるのだ。
■「選手」と「視聴者」のダブルポジショニング
本田氏の解説者としての最大の強みは実際に自身が「ワールドカップに出場した選手」であることだ。そのためワールドカップという舞台で初戦に向かう選手の気持ちやフィールドの状況に対して、「選手の立場」で代弁することができる。
経験に基づいたコメントはリアリティーがあり、説得力がある。
本田氏の解説者としての違いは見ている「視聴者」の立場にも立つ点にある。本田氏の解説を聞いていると、意外と選手に関する情報や新しいルールについて知らないことが多いと気付く。
選手の所属先についても「どこの選手ですか?」、今大会から飲水タイムとして導入された「ハイドレーションブレイク」には「これなんすか?」と率直に疑問を投げ掛け、それを実況者が説明するなどの場面が見受けられた。
これはルールに詳しくない視聴者と同じ視点であり、視聴者が知りたいことを本田氏が代わりに聞いてくれるというもう1つの「代弁者」の役割を果たしてくれていたのだ。
■「実況」と「解説」のコンビネーション
ここまで本田氏が自由に解説できるのも、その横で試合の状況を冷静に伝えながら本田氏からの質問にも応える実況者の存在があるからだ。まさに感情を全面的に出す解説者の本田氏が「動」であるならば、冷静さを持って的確な情報を伝える実況者は「静」として絶妙なコンビネーションを見せていた。
最も印象的なシーンは初戦のオランダ戦で相手のキーパーソンを本田氏が「1にガクポ、2にガクポ、3にガクポ」と独特な表現で表すと、実況のNHK小宮山晃義アナウンサーが「4は誰ですか?」と問い掛けた場面だろう。まるで漫才コンビかのようなやりとりに視聴者は引き寄せられた。
その後ゴールが決まると本田氏と小宮山アナがハイタッチする様子もあり、解説と実況の名コンビぶりが印象的だった。解説者として本田氏のよさが引き出されていたのは、それを二人三脚でサポートする実況者の存在があってこそであった。
■「心地よい予定不調和」を生む大切さ
筆者は企業に対するコミュニケーションの研修や講師養成に携わっているが、本田氏の解説者としての在り方や話し方から学ぶことは多い。
研修の場面でも、用意された投影スライドや配布資料をそのまま淡々と読むだけでは、予定調和過ぎて受講者の興味や関心を惹きつけることはできない。時に自分の思いや感情をそのまま素直に出すことで、相手の心に響くメッセージを発することができると感じている。
これは企業の大切な商談やプレゼンの場面でも同様だ。提案する側の立場だけでなく、時に提案を受ける側の立場や、その商品・サービスを利用する顧客側の立場に立ち、率直な疑問や共感を示すことで、初めて相手との距離が縮まることも多い。もし自分が感情的に話す人ならば、横で冷静に論理的に補足してくれるパートナーを見つけるのも1つの手だろう。
本田氏の解説の魅力を一言で表現するならば、既存の概念にとらわれない「心地よい予定不調和」を生んでくれる点にある。それによって視聴者は驚きや納得、面白さを体感することができるのだ。
日々の仕事の場面でも、時に既存のレールから外れて「心地よい予定不調和」をコミュニケーションの中で生んでいくことが、人を惹きつけることにつながっていくのではないだろうか。
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