米メディアBloombergが輸出管理指示の文書を入手し報じたところによると、両モデルは「軍事情報の最終用途または軍事情報の最終利用者への使用、あるいはそれらへの転用の容認できないリスクが存在する」という。これによって「世界中のすべての目的地およびすべての外国籍者に対する、両モデルの輸出、再輸出、または米国内でのみなし輸出、およびみなし再輸出移転には許可が必要である」とされた。今回の措置によって、少なくとも外国籍を持つ社員は自社の最新モデルであるMythosにアクセスできなくなった。既にAIモデルの開発そのものにもMythosが使われていた現状では緊急事態だ。AIモデルの開発は、1カ月、1週間単位で目まぐるしく変化している。わずか数カ月の空白であっても、極めて重大な遅れになってしまう。同社から競争力を奪い致命傷を与えかねない。同社のAI開発において、多くのキーマンが外国籍だからだ。
例えば共同創業者 兼 政策責任者でAIガバナンスと国際規制のリーダーでもあるジャック・クラーク氏は英国籍。共同創業者 兼 解釈可能性研究チームリーダーのクリス・オラー氏はカナダ国籍。アライメント・サイエンスチーム共同責任者で世界的なAI安全研究者ヤン・ライケ氏はドイツ国籍だ。パーソナリティー・アライメントチームの責任者でClaudeに魂と倫理を吹き込む指導者とも言われる、哲学者のアマンダ・アスケル氏も英国籍だ。AIの安全性をつかさどる中心人物が、その安全性を理由に最新モデルへのアクセスを禁じられる構造になってしまっている。彼らを抜きに米国人だけでAI開発を継続するのは事実上不可能だろう。
Anthropicは声明で、今回の措置が技術的事実や透明性に基づかないものだと批判しつつ、早期復旧への決意を示した。同社は水面下で米政府に対し、即座にみなし輸出ライセンスの特例申請を行っていることだろう。米政府は申請を受け、特定の外国籍従業員に対する例外アクセス許可を速やかに与え、社内でのアクセスを許すべきだ。問題はその許可がいつ下りるか。通常、国家安全保障が絡む複雑な案件は、許可までに6カ月程度かかると言われている。半年後ではあまりにも遅すぎる。
政府による非公開の書簡一本で民間AIモデルの流通が強制停止されたのは前代未聞だ。影響はAnthropic1社にとどまらず、OpenAIやGoogle、xAIなどAIモデル開発にしのぎを削っている全ての米企業に及ぶ。「強力なAIを開発してしまうと米政府に止められる」となれば、AI開発のスピードはぐっと遅くなる。あるいは米政府が恣意的にAI開発を許可したり止めたりするような事態になれば、開発に携わる外国籍の天才たちは米国外に流出してしまうかもしれない。こうしたAI開発の「内紛」で、漁夫の利を得るのは中国勢だ。なりふり構わず猪突猛進する彼らが世界のAI覇権を握る可能性を高める。米政府のAnthropicに対する今回の措置は究極の愚行だ。(BCN・道越一郎)
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