流浪の月』と『汝、星のごとく』で2度の本屋大賞を受けた凪良ゆうさん。2作品とも実写映画化されるなど、彼女のどの作品も巧みな人物造形や心理描写が丁寧な筆致で表現されていて心をつかまれる。

デビュー以来、コンスタントに作品を送り出してきたが、前作からは2年半ぶりである待望の最新刊『多類婚姻譚』が刊行された。本作は、結婚をテーマにした連作短編集だが、この間に心境の変化などがあったのだろうか。また、結婚にまつわる様々な物語を軸とした内容にちなんで、公私共にできうる限り答えていただこう。まずは『多類婚姻譚』を書こうと思ったきっかけは何だったのか。<インタビュー#1公開>



【凪良ゆうインタビュー#1】 多様性の時代、結婚にまつわる多...の画像はこちら >>





【多様性の時代に結婚は成り立つか】



「結婚自体が身近なテーマであったこと。既婚者も独身の人も離婚した人も、するしないにかかわらず、結婚について一度も考えたことがないという人は少ないのではないでしょうか。結婚は、自分とは違う人間がひとつ屋根の下で暮らしていくのですから、『我慢』と『譲り合い』がないと破綻しますよね。でも、多様性が重んじられ、自分のスタイルを持って自分らしく生きていく、そのことと、自分の人生を大事にすることとはなかなか相入れないわけです。じゃ、どこで妥協すればいいの? どこで譲り合えばいいの? ということで、結婚する前の話し合いが昔よりずっと大事な時代になってきています。そんな多様性の時代に、結婚にまつわる多様な在り方や考え方を、自分なりの視点で書きたいと思ったのがきっかけです」





 長編小説とは違い、短編集は何の関連性もないものを書き分けることもあるが、今作はテーマ性があったほうがいいと、婚姻をテーマに書いた。いつも人物像はカッチリ決めて書くが、読み手によって登場人物の性格や捉え方まで違うので、あとは読者にゆだねているという。





「だいたい私はスラスラ書けることがないんですけど、中でも手ごわかったのは4編目の『Position Talk』で、唯一男性視点のお話です」と語る。



 考えさせられるのは、主人公の佐々木律の立場だ。物語の内容は、男女や夫婦の対等な関係を強く求める同僚の恋人・朱里に対して、律は男性優位社会の様々な事柄を真摯に考え、反省し、誠実に対応しているのに、30代男女の結婚観はなかなかかみ合わず……。男性が当たり前のように見逃してきた、あるいは気づかないふりをして通り過ぎてきた女性の本音を、突き付けられる律。果たして2人が出した結末とは。





【凪良ゆうインタビュー#1】 多様性の時代、結婚にまつわる多様な在り方や考え方を自分なりの視点で書きたかった
撮影:Haru



「律のような今の若い男性たちは、多様な価値観も認められるから女性の立場も理解しているけれど、でも、朱里からするとまだまだ不十分で、職場での昇進なども男性が優先される状況は変わっていない。その憤りを律にぶつけてしまうわけです。彼女の思いをしっかり受け止めているゆえに律も苦しみを抱えてしまうのですが、20代の男性担当編集者さんに言わせると、律ですらまだまだで『表向きは女性に理解のある意識の高い男性みたいに見せかけているけど、朱里の主張に心の中ではずっと反論してますから、実際の根っこは古い人なんです』となるんですね。それを聞いたときは『えっ、そうなの~』って(笑)。女性の意見が尊重される時代だけれど、それをふまえて男性にも言い分があるだろうと、男性の意見を掬い上げようと思って書いたつもりが、それがとんでもない思い上がりだったと、若い編集者さんの意見を聞いて学びました。もちろん世代ですべてをくくれるはずはなく、若い世代でも意見は様々に分かれるという前提ですが、彼は『朱里の言ってることのほうが正しいし、僕は朱里のほうが支持できます』と。書き手として時代感覚のアップデートは常に気をつけていたはずが、無意識のうちに自分の感覚も古くなってきているというのを突き付けられて、すごく難しかったです」



【凪良ゆうインタビュー#1】 多様性の時代、結婚にまつわる多様な在り方や考え方を自分なりの視点で書きたかった
撮影:Haru



【なぜ男女ともに生きにくい時代なのか】



 欧米では結婚前に結婚誓約書を取り交わすのは一般的であり、夫婦別姓も当たり前だ。女性の社会進出が一般的になってきているにもかかわらず、日本だけが法整備なども遅々として進んでいない。





「男性が読むと、大抵の人は朱里のような気の強い女性は嫌だよ、というほうに傾くかもしれません。夫婦別姓にしても今の政府での成立は難しそうです。そういうことを声高に言う女性は怖がられるけれど、私は本当に怖がってくれるなら本望だと思います。まともに怒ってくれる男性なら救いはありますが、『はいはい、女性の皆さんは頑張ってますねえ』という馬鹿にした態度をとる男性は本当に始末に悪い。他者の立場に立って考えられる度量や優しさがないから、議論の場に立たないことでしかプライドを守れないんだなと」





 まだまだ閉鎖的な世の中で、自分らしく生きることは大変だ。離婚も増え、結婚自体しなくなってきています。





「男女同権と言っても実際に結婚生活になるとどっちに負荷がかかるかというと、今の時代でも、やはり女性側です。『Position Talk』の中でも書きましたが、男性に悪気があるかというと一切ないんですよね。ただ、気づかない。ゴミ捨てをしたから家事を手伝っている、と男性は言いますが、でも、そのゴミって分別したりして袋の口をきゅっと縛ってまとめるまでが大変なわけです。「名前のない家事」はすごく目に見えずらい。ただ、律と朱里の最後の言い争いについて、私はどっちの言い分にも利があるように書いたつもりではいます」





 それにしても、律のように、自分を「普通」よりは理解があるはず、と自認する男性でさえ戸惑うことが多いわけで、なかなかに生きにくい世の中だ。



(インタビュー#2につづく…)





【凪良ゆうインタビュー#1】 多様性の時代、結婚にまつわる多様な在り方や考え方を自分なりの視点で書きたかった





取材・構成:大西展子/撮影:Haru





【凪良ゆうインタビュー#1】 多様性の時代、結婚にまつわる多様な在り方や考え方を自分なりの視点で書きたかった
撮影:Haru



凪良ゆう(なぎら・ゆう)

京都市在住。2007年に初著書が刊行され本格的にデビュー。BLジャンルでの代表作に連続TVドラマ化や映画化された「美しい彼」シリーズなど多数。17年に『神さまのビオトープ』を刊行し高い支持を得る。19年に『流浪の月』と『わたしの美しい庭』を刊行。20年『流浪の月』で本屋大賞を受賞。同作は22年5月に実写映画が公開された。20年刊行の『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。22年刊行の『汝、星のごとく』は第168回直木賞候補、第44回吉川英治文学新人賞候補、2022王様のブランチBOOK大賞、キノベス!2023第1位、第10回高校生直木賞などに選ばれ、翌年、自身2度目となる本屋大賞を受賞。同書は26年に実写映画化される。23年には『汝、星のごとく』の続編となる『星を編む』を発表。本書『多類婚姻譚』は著者2年半ぶりの文芸新刊となる



 

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