『流浪の月』と『汝、星のごとく』で2度の本屋大賞を受けた凪良ゆうさん。2作品とも実写映画化されるなど、彼女のどの作品も巧みな人物造形や心理描写が丁寧な筆致で表現されていて心をつかまれる。
【男と女の奥深さと業の深さ】
最新刊『多類婚姻譚』の5編目『C’est la vie』は、フレンチレストランを舞台に、メインシェフ・祥子(しょこちゃん)とオーナーシェフ・伸一郎(しんちゃん)の40代不倫カップルを描いた物語だ。
「しょこちゃんは、経済的にも自立していて結婚に関してはすごく自由な女性。足りないものは日々の潤いやときめきだけなので、その相手としてのみ、しんちゃんが必要なわけです。私は、何歳になっても人生ってコントロールしきれない、という作品を最後に残しておきたくてこの物語を書きました。正しいことだけを選んで生きていければすごくラクだけれど、必ずしもそうはならず、何歳になっても失敗はしますし。私が若かったころ今の自分の年齢になると、もう恋だ愛だという関係はなくなると思っていたんですね。でも、実際は同年代の友達も、もっと年上の女性も変わらず恋愛しているんですよ。そんな男と女の奥深さとか業の深さみたいなものを書いておきたかった」
心理が丁寧に描かれているが、凪良さんの体験に根差しているのか。そういえば、以前、「あまり幸福ではない家庭のことは書けるが、幸せな家庭のことは経験していないから書けない」と話していた。
「そうですね。わたし自身が問題の多い家庭で育ったので、幸せな家庭を主に据えた話を私が書いても、自分が合格点を出せるレベルの説得力が伴わないんですよ。そこを書ける作家はわたし以外にもたくさんいるので、わたしはわたしだから書ける部分を深めていけばいいと思っています。そういう意味では2篇目の『Beautiful Dreamer』は自分の若いころに経験した混乱や不安が色濃く表れた話だと思います。」
『Beautiful Dreamer』の主人公である花織は20代後半で、派遣社員として大手食品会社の健康食品部門で働く、結婚願望の強い女性である。
「花織は地方から上京して働いている女性ですけど、朝から定時まで頑張って働いているのに1か月暮らしていくのは、この東京ではやっと。それって別段珍しい話でもなくて、むしろそういう女の子はすごく多い。今は景気も悪いし、お給料の手取りは上がらない。そのわりに社会保険料はすごく高い。それだけならまだしも老後資金を数千万貯めなければならないわけです。若い女性、特に高収入を得られる仕事についていない女性が、結婚以外の方法でひとりで老後の資金を用意するのはほぼほぼ不可能です。対して花織の恋人である恵斗は東京の富裕層出身、高学歴、大企業の正社員です。」
「『生まれてくる子供は親を選べない』といったことは昔から言われるけれど、今は「親ガチャ」という用語として一般に認知されるようになりました。そのぐらい、どの親の元に生まれるかで人生が左右される時代。
【作家になるきっかけは元夫の一言だった】
専業主婦だった30代のころ、家事がおろそかになるほど小説を書くのに夢中になっていた凪良さんに元夫が「そんなに小説が好きだったらプロになれば」と言ったのが作家になるきっかけだったとか。
「そうです。もともと子供のころから漫画家になりたくて、10代のころから少女漫画を描いて集英社に送ったりしていました。でも、全然ダメで、一度は創作全部やめてしまったんですよ。それが30代になってから、またふいに描きたくなった。でも10年以上もブランクがあって、もう漫画は描けなくなっている。じゃ、小説を書こうと思って書き始めたらびっくりするぐらい楽しかったんです。そんなときに、元夫から言われた一言にカチンときて(笑)」
「プロになれるものならなってみろ。どうせ無理でしょ? だったらきちんと奥さんをやってくれ」と。
「そうです(笑)。当時はたまにパートで仕事をするぐらいでほぼ専業主婦だったので、家のことを放ったらかしにしていると怒られても、まあ、確かにな、やるべきことをやっていないんだから、とは思いました。
(インタビュー#3につづく…)
取材・構成:大西展子/撮影:Haru
凪良ゆう(なぎら・ゆう)
京都市在住。2007年に初著書が刊行され本格的にデビュー。BLジャンルでの代表作に連続TVドラマ化や映画化された「美しい彼」シリーズなど多数。17年に『神さまのビオトープ』を刊行し高い支持を得る。19年に『流浪の月』と『わたしの美しい庭』を刊行。20年『流浪の月』で本屋大賞を受賞。同作は22年5月に実写映画が公開された。20年刊行の『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。
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