智弁和歌山が全国制覇を成し遂げ、今夏もお茶の間でも話題を生んだ高校野球。いまや一般的にも広まるコンテンツと化しているが、その在り方を巡って議論が続いている(C)産経新聞社

7回制が一気に現実味を帯びている理由

 延長戦でのタイブレーク方式導入、球数制限、従来よりも低反発化した新基準の金属バット、甲子園大会でのVTR検証など、近年の高校野球ではあらゆる改革が行われている。

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 その中で、現在最も大きな議論となっているのが、7イニング制の導入だ。

2024年8月に暑さ対策の一環として日本高野連がワーキンググループを設置。2025年12月の検討会議において「2028年春の第100回記念選抜大会をめどに全公式戦で7イニング制採用が望ましい」とする最終報告書が提出され、一気に実現化が現実味を帯びた。

 ただ日本高野連が行った加盟校へのアンケートは約7割が反対、一般のファン向けにインターネット上で行われたアンケートでも約9割が反対となっている。今年5月と6月に行われた有識者と指導者を交えた意見交換会においても、大阪桐蔭の西谷浩一監督が断固反対する意見を述べて話題となった。先述した最終報告書の通り、このまま2028年春から7イニング制が導入となれば、現場の納得感が得られないままのスタートとなることは間違いないだろう。

 筆者も取材現場において、あらゆる指導者、関係者と7イニング制について話をする機会も多いが、全面的に賛成という意見を聞かない。代わりによく聞かれるのが、「導入前提で議論が進められている」「野球の根本となるルールに手を入れる前にできることは他にもあるのではないか」という2点だ。

 前述した加盟校、一般向けのアンケートの結果を見ても、7イニング制の導入に対して積極的に賛成する割合は圧倒的少数である。それでも導入を白紙に戻すような論調は全く出てこない。また、西谷監督のように表立って反対意見を述べることは望ましくないという空気感も感じる。「9イニングでやりたいのはみんな同じだが、命を守るためには仕方ないから導入するしかない」というストーリーが最初から決まっているように感じている関係者は非常に多い印象だ。

 全てを多数決で決める必要はもちろんない。

だが、十分な賛同が得られないまま物事を進めることは、後々に様々な問題を生み出す可能性は高いだろう。

見直すべきはコスト面?

 とくに気になるのが、「野球の根本となるルールに手を入れる前にできることは他にもあるのではないか」という懸念だ。最終報告書の一部を抜粋すると、以下のような記述がある。

「高校野球は学校教育活動の一環である部活動として行うものであり、生徒の学業の妨げにならないという前提の上で、全国大会開催にあたっては長期休業中に行うべきであると考える」

「また、全国高等学校野球選手権大会および選抜高等学校野球大会は1924(大正13)年8月の甲子園球場開場以来、100年以上にわたって同球場を会場としてきた。甲子園は「聖地」とも呼ばれ、高校野球そのものを指す代名詞にもなっているのみならず、他の文化的活動、イベントなどでも「〇〇甲子園」といった呼称が広く浸透している。歴史的、社会的な見地から、今後も甲子園球場において両大会を開催することが望ましい」

 単純に要約すると、学業の妨げとならないために春休みや夏休みの長期休業中を利用し、これまでの歴史を築いてきた甲子園球場で行う使用は変えないということだ。

 この点に議論の余地は本当にないのだろうか。例えば、時期については全試合を一気に行うのではなく、何度かに分けることで長期休業期間以外に行うことも可能なはずだ。そうすれば、真夏に試合を行う必要はなくなってくる。

 また、甲子園球場での開催についても、全試合を行うのではなく、分散して早朝や夕方に行えば、ある程度は暑い時期でも選手、関係者、観客への身体的負担を減らすこともできるだろう。

 そして、こういった抜本的な改革を行う際に重要になってくるのは、大会を運営するコスト面だ。当然ながら大会期間が延びれば、選手、関係者の滞在費が必要となる。また、甲子園球場以外を使用するとなれば、当然使用料も増える。ただ、逆を言えば、潤沢な資金があれば、そういった異なる運営方法も可能になってくるのだ。

 となると、まず改革すべきは、高校野球における財政面ではないだろうか。

 高校野球と大学野球は日本学生野球憲章によってあらゆるルールが定められているが、特に厳しいのが、商業利用についてだ。学生を商業的に利用して利益を得ることは望ましくないという考え方も分からなくはないが、現状のようにコンテンツとして大きくなったことを考えると、今以上の収益増加は可能なはずである。

 一つ例を挙げれば大会の放映権だ。これだけ多くの注目を集める大会でありながら高野連は放映権料をNHKから受け取っておらず、伝統的に無料で提供し続けている。仮に他の配信サービスなどに有料で提供しようとすれば、かなりの金額を得られる可能性は高い。

 また、ここ数年は大会の入場料も値上げしているが、一日通し券の販売となっており、午後の試合は空席が目立つことも多い。この点も売り方を変えれば、利益の最大化に繋げられるはずだ。

 まず暑さ対策が必要なのは確かであり、7イニング制の導入も対策方法の一つではある。だが、それで全てが解決するわけではない。他のやり方をもっと幅広く検討して、それにかかる費用などを算出することも行うべきで、そのためにより収益を上げる方法も考えるということも重要ではないだろうか。

 世間一般にも波及するほど影響力が大きくなり、伝統もある高校野球だからこそ、より多くの人が納得する形で議論が進められていくことを望みたい。

[取材・文:西尾典文]

【著者プロフィール】

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。

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