「第3のビール」が消滅する10月の酒税法改正。金麦、本麒麟、クリアアサヒが、お買い得なまま一斉に「ビール」へと生まれ変わります。
(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博)
「第3のビール」終焉
始まる「新ビール戦争」
この10月に酒税法が改正されて第三のビールが酒税でビールと一本化されます。350ml缶の税金はビールが9.1円安くなる一方、第三のビールは7.26円値上がりします。
この法改正をうけて第三のビールの売れ筋だった金麦、本麒麟、クリアアサヒが一斉にビールのにレシピを変更することになりました。これまで50%未満だった麦芽比率を50%以上に変更してビールとしてリニューアルするのです。
しかも味はビールになる一方で、これまで各社のビールの主力製品だったザ・プレミアム・モルツ、一番搾り、スーパードライよりも低価格に設定することで第三のビール時代からの手軽さを引き継ぐ戦略を採用する見込みです。
この秋、ビール戦争が激化しそうです。その背景とこれから起きることについて、3つの視点から検証してみましょう。
視点1
なぜ低価格を維持できるのか?
なぜビールになるにもかかわらず金麦、本麒麟、クリアアサヒは安さを維持できるのでしょうか?ビールになるということは麦芽が多くなるためコストは上がると思いがちですが、増えるコストは意外と限定的です。
ずいぶん昔、第三のビールの麦芽比率は25%未満でした。当初、麦芽以外の原料で作る第三のビールもありましたが、人気が出たのは麦芽比率がビールよりも低い発泡酒に麦由来の蒸留酒を足したタイプの第三のビールでした。
その後、税制が変わり、第三のビールは麦芽比率50%未満となりました。金麦、本麒麟、クリアアサヒはビールらしい味を追求してきたため、リニューアルで原料構成はビールに近いものになっていきました。
そして10月からは50%未満だった麦芽比率を50%以上に変更して副原料を多少見直すだけでビールの定義を満たせます。
とはいえ、一缶あたり7.26円の税金のコスト増でも価格を維持するのは大変です。そこで価格を下げるために行う重要な戦略判断が「ブランドを変えない」ということです。
ビール類で新しいブランドを立ち上げて認知させるには、数百億円規模の莫大な広告投資が必要です。しかし金麦、本麒麟、クリアアサヒの名称をそのまま使えば初期広告費は抑えられます。そのうえで「ビールになりました」というシンプルなメッセージに絞った販促ができますから、新商品としてのコスパはよくなるのです。
視点2
何を達成しようとしているのか?
では金麦、本麒麟、クリアアサヒについて、この秋のリニューアルで何が達成できれば事業戦略として成功だといえるのでしょうか?
重要なことは販売数量です。最低限でも現在の数量を維持、可能な限り数量シェアを上げることが各社の狙いです。
もともと新ジャンル、つまり第三のビールは日本経済が低迷して家計が苦しくなる中で、ビールと比べて圧倒的に価格が安かったことで庶民に支持され広がったジャンルです。2020年にはビール類の販売数量に占める第三のビールの割合は46%に達していました。
その後、過去2回の増税で徐々に需要が減り、2025年はビール類の中で26%弱まで比率が下がってきています。ただ今回の増税は、これまで2回の第三のビールのコスト増とは違います。なにしろ味が良くなるのです。
はっきり言えば、2018年以前の第三のビールは税金のゆがみが生んだ「まずい」飲み物でした。優秀な技術者が税金を減らすために、先端テクノロジーを投入してビールに似たスピリッツを開発してきたのです。私はあの時代は、日本のビールの歴史におけるの暗黒時代だと捉えています。
しかし麦芽50%以上となると話は違います。実は、アメリカで大量に飲まれているバドワイザーがちょうどこの比率なのです。
バドワイザーはもともとコメ由来の原料を30%、ないしはそれ以上用いることでライトな飲み口を実現しています。今回のリニューアル製品は、あの「軽快でクリスプなアメリカンラガー」の飲み口が狙えるのです。
さらに言えばザ・プレミアム・モルツ、一番搾りなど麦芽100%の製品とも味の違いで棲み分けが可能です。この美味しさを武器にこれまでの第三のビール時代のシェア26%を最低でも維持、可能であれば押し上げることが各社が狙うゴールになるでしょう。
視点3
実際にどうなりそうなのか?
では各社のこの戦略は実現するでしょうか?
この秋のビール戦争のゆくえを予測するにあたって重要なことがあります。これまでの第三のビールの競争は、ハイボールや缶チューハイなどRTDと呼ばれるお酒との戦いだったということです。
先述したように、2020年にビール類の半分近くを占めていた第三のビールが26%まで構成比を落とした大きな理由は、RTDを消費者が強く支持したことです。
このトレンドが生まれた一つの背景に居酒屋の飲み放題コースがあります。
第三のビールが市民権を得るようになった2010年代以降、通常の飲み放題コースでは原価が高いビールが飲み放題メニューから外され(ビールが入っているのは、プレミアム飲み放題として1000円ぐらい高くなる)、庶民は第三のビールかハイボール、チューハイをひたすら飲み放題で注文することになりました。
この場合、正直、酒飲みのひとたちから見ればビール類よりもハイボールやチューハイのほう方がおいしく酔えます。その体験がコンビニで買って自宅で飲むアルコールにも反映するようになります。
こうしたトレンドからわかるとおり、この10年でハイボールやチューハイなどのRTDが急速に市場を席捲するようになってきたのです。
そして、ここが面白いところですが、この秋から通常の飲み放題メニューにはビールが含まれるようになりそうなのです。居酒屋での体験としてはハイボールやチューハイを注文するか、それとも金麦、本麒麟、クリアアサヒを注文するかを顧客が選べるようになるのです。
つまり、ここがかつての第三のビールのブランドが盛り返せるかどうかの最大の山場です。
ビールに戻った金麦、本麒麟、クリアアサヒを飲んでみて、あらためて、「やっぱりビールはおいしいな」と消費者が再認識すれば金麦、本麒麟、クリアアサヒの勝ちです。
そうではなく、「やはりハイボールの方が手軽だし酔えるね」と思われたら旧第三のビールの負け。
つまりこの秋に起きるビール戦争は、新たにビールになる製品と缶チューハイ、ハイボール缶との戦いなのです。

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