あっという間に終わってしまった学生たちの夏休み。その期間中、ひょっとしたら日本でいちばん濃密な時間を過ごしたかもしれない高校1年生がいる。
彼女の名前は、さとうもも。現役高校生としてアイドル活動をする傍ら、7月にはプロレスラーとしてデビュー。夏休みのあいだに2度も後楽園ホールのリングに上がり、アイドルフェスでもプロレスラーとして試合を展開。プロレス、アイドル、高校生の『三刀流』レスラーに注目!

【写真】三刀流レスラー・さとうももの得意技は「ニールキック」【2点】

このところ観客動員が好調な東京女子プロレス。その理由のひとつに「第1試合から面白い!」というファンの高い評価がある。

もともとメインやセミのクオリティーは高かったが、前半戦の内容に関してはちょっと弱いかな、というのが正直なところだった。しかし、ここ数年、新人が続々とデビューしたことで選手層がグッと厚くなり、前座戦線も充実。8月29日には2023年以降デビュー組だけによる特別興行が開催されたほど。それだけ「未来のチャンピオン候補」がたくさん待機しているわけで、今だけでなく、近未来の闘い模様まで充実することは、もう間違いのないところだ。

8・23後楽園ホール大会はメインイベントで東京プリンセスカップの決勝戦(鈴芽vs辰巳リカ)が組まれた。こういうときはどうしても決勝戦に観客の興味が集中してしまいがちだが、この日はビッグマッチ級のカードがズラリと並び、満足度の高い興行となった。そして第1試合も観客から高い注目を集めていた。


この日、オープニングマッチに組まれたのは神嵜志音vsさとうもものシングルマッチ。どちらも今年デビューしたばかりのルーキーで、勝ったほうが初勝利を飾る、というなかなかヒリヒリするシチュエーション。試合は7か月ほどキャリアの長い神嵜が制したが、デビューからわずか1か月のさとうももが必死に食らいつく好勝負となった。

さとうももはデビュー前から注目されていた。というのも、彼女は小学生のときからプロレスリングHEAT UPが主宰するプロレス教室に参加しており、当時の映像(これがなかなかの動きなのである!)が公開されたことで「とんでもない逸材が加入した」と期待感が高まっていた。

「私が参加していたのはキッズクラスだったので受け身とかはとらなかったんですよ。ロックアップとかヘッドロック、あとはタックルとか基本的なことをリングで教えてもらっていました。小学2年生から通いはじめたんですけど、5年生のときにアイドルになったので、それでプロレス教室は辞めてしまったんです。ずっとやっていたわけじゃなくて、4年ぐらいブランクがあったんですよ」

アイドルグループ『原宿LAND』のメンバーとして活動しているさとうももだが、道場に通わなくなっても、プロレスとは太いつながりが残っていた。それは2歳上の兄である佐藤大地が現役のプロレスラーでDDTのリングで活躍している、ということ。もともと兄が道場に通っているのを見て、まったくプロレスには興味がなかったけれども、リングで練習するようになったのだという。

そんなバックボーンを知ったDDTの髙木三四郎がスカウトし、3月29日に両国国技館大会にアイドルとして参戦。
試合後、本格的にプロレスデビューを目指すことを発表。わずか4か月後にはスピードデビューを果たし、すぐさま東京プリンセスカップにエントリーされる、という大抜擢を受けた。トーナメントは1回戦で敗退してしまったが、プロレスラーとして大きな経験を積むことができた。

8月にはTIF(トーキョー・アイドル・フェスティバル)で開催された『TIFプロレス』のリングにも参戦。

「TIFには過去にアイドルとして参加した経験があるんですよ。そのときには私がプロレスラーになるなんて考えてもいなかったので、今年はなんか不思議な感覚でTIFプロレスに参加していましたね」

さまざまなことが起こりまくった怒涛の1か月。それが実現した裏には、まるっと夏休み期間だった、というスケジュールの妙があった。そう、彼女はまだ高校1年生。9月に学校が再開したことでプロレスラー、アイドル、そして高校生という『三刀流』生活が本格的にスタートすることになる。

「そうですね、大変だとは思うんですけど、今、プロレスがすごく楽しいんですよ! 学校がはじまっても、できるだけプロレスラーとしての活動もしていきたいなって思っています。このあいだの後楽園で初勝利を逃してしまって悔しい思いをしたので、今はとにかく勝ちたいです!」

小学生のときからリングに親しんできたこと、アイドル活動で人前に立つのに慣れていたこと、そんな経験値があるので、デビュー戦から堂々として見えた。それだけでなく、新人選手が使いこなすのは難しいエルボーもドスーンと鈍い音をたててヒットさせるなど、プロレスラーとして素質の片鱗は早くも見え隠れしている。
試合の流れを一瞬で変えるニールキックの切れ味もまさに新人離れ、だ。

「もともと好きな技で、デビューが決まってから練習し始めたんですけど、まだまだ未完成なので、これからもっと磨いていってニールキックで勝てるようになりたい」

これからの目標を聞いてみると『お兄ちゃんを超えたい!』と即答した。

普通だったらチャンピオンになりたい、とか世界で活躍できるプロレスラーになりたい、といった夢を語るルーキーが多いので、ちょっとびっくりしてしまった。

「もちろん、そういう夢もありますし、そのためにも勝ちたいんですけど……やっぱりお兄ちゃんを超えたいです!」

同じプロレスラーではあるが、なにをもって兄を超えた!といえるのか、なかなか曖昧なところだが……まぁ、よくよく考えたら高校1年生の夏に抱く将来の夢というのは、誰だって、これぐらい曖昧なものだったはず。ましてや、プロレスラーとしてのキャリアはまだ1か月の未勝利選手なのだから、具体的な夢を語れないのも当たり前のことなのかもしれない。

多くの人が人生の進路を決断することになる高校3年生の夏に、もう一度、将来の夢を聞いたら彼女はどう答えるだろうか? ひょっとしたら、すでに腰にはチャンピオンベルトが巻かれ「もうお兄ちゃんを超えました』と笑っている可能性すら、今の彼女からは感じてしまう。前代未聞の『三刀流』レスラーの挑戦から目が離せない。

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