【あの頃、テレビドラマは熱かった】
「過ぎし日のセレナーデ」
(1989年/フジテレビ系)
◇ ◇ ◇
昭和が終わり、4月には消費税が導入された1989年。近所の小さな個人商店で3%が上乗せされるたびに「納入するほどの売り上げないだろ」と苛立っていた秋、そのドラマが始まる。
上司にお供した銀座で、和服の美女が水割りを作りながら僕に言った。
「あれだけはビデオに録ってるの。田村正和と古谷一行の『過ぎし日のセレナーデ』。マサカズ様がすてきすぎて」
前年、ダブル浅野の「抱きしめたい!」でトレンディードラマ時代を予感させたフジテレビの“木曜劇場”が、89年秋から放送したのは、全然トレンディーじゃなかった。
ざっくり言うと、「財閥の腹違いの兄弟が運転手の娘を巡って繰り広げる半世紀の確執を、2クールで描いた恋愛大河ドラマ」。で、その異母兄弟がマサカズ様とイッコー様だった。
既に世を去ってしまった田村さんと古谷さんが46歳当時。“男の色気満開”の2人の間で揺れたのは、当時34歳の高橋恵子。彼女が演じた“志津子”は今なら炎上しそうなキャラだけど、その神々しいまでの美しさは、同年代のトレンディー女優とは別格だった(関根恵子時代を知る個人の感想です)。
主題歌は「愛されてセレナーデ」。シューベルトのメロディーに「♪愛したひとたちを~」と乗せた序盤から入って、Bメロからサビへと“愛に生きる女の覚悟”を歌い上げたヤン・スギョンの声も歌詞も、ドラマのタイトルと同時に耳に蘇る。「カインとアベル」的な兄弟の確執を柱にしつつも、実は主役は高橋恵子だったんじゃないかと思った。
さらに、マサカズ様に思いを寄せた池上季実子(当時30)、イッコー様の愛人だった高木美保(当時27)の思いまで歌に入ってるじゃないか、とも。
トレンディードラマの発信源だった局が、その全盛期目前に2クールで放送した、ベタなメロドラマ。それを記憶に残る作品にしたのは、主題歌だ。歌ったのが韓国人歌手だったことも、ドラマへの没入感を高める大事な要素だった。見知った日本人歌手だと、歌詞でその人の人生がチラついたり、曲だけで世界ができちゃうから。主題歌と作品が絶妙に噛み合うって、こういうこと。
まあ、中森明菜版の「愛されてセレナーデ」は聴いてみたいとは思うけど。
兄弟の確執と宿命といえば、フジテレビは2016年にそのまま「カインとアベル」をタイトルにしている。弟が山田涼介(当時23)で兄が桐谷健太(同36)、ヒロインは倉科カナ(同28)。主題歌はHey!Say!JUMP。いや、ついでに思い出しただけで、他意はありません。
(亀井徳明/テレビコラムニスト)

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