【再発見 ちょうど10年前のテレビ】#9


 テレビ東京系の深夜ドラマといえば、真っ先に思い浮かぶのが「孤独のグルメ」だ。今年は何とシーズン11。

平成生まれの長寿番組となった。


 今からちょうど10年前の2016年6月、土曜深夜に放送されていたのが「昼のセント酒」だ。セント酒とは、銭湯に入った後で飲む、うまい酒のことである。


 主人公は小さな広告会社に勤める営業マン、内海孝之。売り上げがイマイチであることは気になるものの、外回りで訪れた町で銭湯を見つけると入らずにはいられない。そして、風呂上がりには一杯やらずにいられない男だ。多少の罪悪感はあるのだが、「今日は特別」とばかりに仕事を早めに切り上げ、「風呂と酒」という“禁断の快楽”に足を踏み入れていく。


 内海を演じたのは戸次重幸だ。大泉洋音尾琢真などと同じ「TEAM NACS(チーム・ナックス)」のメンバー。ドラマではクセのある脇役として光ることが多いが、本作では堂々の主役に抜擢された。


 銭湯内のシーンでは、戸次が完全なスッポンポンで入浴する。当時、これほど男のナマ尻を見せられるドラマは珍しかった。

いや、画期的だった。半端なボカシなどは一切入らない。視聴者は驚きを込めて「ケツテロ」と呼んだ。裸で歩き回る戸次の度胸は見上げたものだが、その股間を風呂桶や飾ってある花で隠し続けるカメラも、アッパレな名人芸だった。


 さらに、「こら! 銭湯の中で騒ぐんじゃない!」と、やんちゃな子供を叱る近所のオヤジの存在もうれしい。昭和30~40年代には自宅に風呂を持たない家は珍しくなかった。銭湯は町内の社交場であり、子供の社会教育の場でもあった。そんなことを思い出す視聴者も多かったのではないか。


 原作となったのは、「孤独のグルメ」で知られる久住昌之のエッセー集だ。ドラマには毎回、実在の銭湯と飲食店が登場するが、実は単純に原作をなぞっていただけではない。


 たとえば北千住の場合、原作では「大黒湯」を堪能した後、居酒屋「ほり川」へと向かった。だが、ドラマの中では、「タカラ湯」と「東光」のチャーハンにスポットを当てている。

また、原作の銀座編は「金春湯」と、そば「よし田」の組み合わせだった。しかし、ドラマでは金春湯は同じでも、新橋のやきとん「まこちゃん」まで歩いて、シロとカシラを味わっていた。こういうのは地道なロケハンの成果だ。見ていると、仕事カバンの中にタオルをしのばせ、ふらりと寄ってみたくなる。


 このドラマの功績は、〈食〉にこだわる先行ドラマ「孤独のグルメ」をアレンジしながら、〈銭湯〉という新たなアイテムを発見し、後の「サ道」への道筋をつけたことだろう。


「自分が好きなもの」があるなら、細かいことは気にせず、とことん淫してみる。「そんな生き方もいいな」と思わせてくれる、罰当たりな深夜ドラマだった。


(碓井広義/メディア文化評論家)


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