自分が汗水流して働いて貯めた預金は、当然ながら自分自身のものである。必要になったときに銀行へ行き、自由にお金を引き出して使う。
それが私たちが当たり前として信じている社会の前提だ。しかし、いまの中国において、この当たり前の権利は完全に崩壊している。中国各地の銀行窓口では、自分の預金を引き出そうとする市民と、それ拒む銀行との間で、連日のように激しいトラブルが発生しているのだ。

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中国政府と金融当局は、市民の預金引き出しに対して非常に厳しい制限を課し始めた。自動預払機(ATM)を使って1日に引き出せる現金の限度額は、わずか5000元。日本円にして約10万円程度にまで抑え込まれている。これ以上の現金を窓口で受け取ろうとした場合、事態はさらに深刻となる。1万元(約20万円)を超える現金を引き出すには、なんと2週間も前に銀行を訪れて事前の申請を行わなければならないのだ。

さらに恐ろしいのは、その申請の際に行われる厳重な取り調べである。「引き出したお金を何に使うのか」「なぜ今現金が必要なのか」といった質問を受け、使途を証明する書類の提出を求められる。銀行側がその用途を正当だと認めない限り、どれほど口座に十分なお金が存在していても、1円たりとも引き出すことは許されない。

この血も涙もないルールのせいで、命が脅かされる痛ましい出来事が起きている。
ある地方都市の銀行窓口で、若い女性が泣き叫びながら職員に頭を下げて懇願していた。彼女の父親が突然重大な病気で倒れ、病院へ救急搬送されたのだ。一刻を争う緊急手術が必要であり、その費用として日本円で約100万円の現金が求められていた。中国の病院は現金の前払いが絶対の条件となっており、お金を支払わなければ手術室に入れてもらえない仕組みになっているからだ。

女性は父親の命を救うため、自分の口座から100万円を引き出そうと窓口に駆け込んだ。しかし、対応した職員は無表情のまま「ルールに従い、1日10万円までしか渡せない。毎日通って5日間かけて揃えなさい」と冷たく言い放ったのだ。緊急を要する患者が5日間も待てるはずがない。女性は「父が死んでしまう! 私のお金を返して!」と床に伏して涙を流し続けた。

だが、その後に起きた出来事はあまりにも残忍であった。周囲から助けの手が差し伸べられるどころか、警備員と警察(公安)が駆けつけ、泣き叫ぶ女性の身体を強引に押さえつけると、そのままどこかへ連れ去ってしまったのだ。残された父親がどうなったのか、その後の消息を知る者は誰もいない。


銀行がこれほど頑なに現金の支払いを拒む理由、それは中国全土の銀行から現金が底をついているからに他ならない。過去3年間のうちに、中国に約7600個存在していた農村部などの小さな銀行のうち、実に1600個もの銀行が影も形もなく消滅した。中には、市民から預かったお金を抱え込んだまま、何の前触れもなく突然店をたたんで失踪した悪質な銀行も多数含まれている。

市民が一斉に銀行へ押しかけて預金を引き出そうとする「取り付け騒ぎ」を防ぐため、当局はなりふり構わぬ手を使っている。中国ではスマートフォンのアプリを使った決済が生活の主流となっているが、最近では特定の銀行アプリが突然「接続不能」となり、画面が開かなくなる現象が相次いでいる。

アプリが停止すれば、他口座への送金も買い物の支払いも不可能となる。銀行側は「システムの不具合だから窓口へ来てほしい」と釈明するが、窓口へ向かえば先述の通り厳しい引き出し制限が待っているのだ。つまり、政府と銀行が結託してアプリを意図的に遮断し、市民のお金を金庫に閉じ込める「事実上の預金封鎖」を行っているのである。

自らの預金を人質に取られ、大切な家族の命すら救うことができない。これが、いまの中国で生活する人々が突きつけられている恐ろしい現実だ。国民の財産を守るべき銀行と国家が、自らの崩壊を防ぐために市民の命綱を奪い取っている。この狂った金融の連鎖は、もはや留まるところを知らない。

【編集:af】
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