6月29日に最終回を迎える『銀河の一票』(カンテレ・フジテレビ系)。元議員秘書の星野茉莉(黒木華)がスナックのママ・月岡あかり(野呂佳代)を東京都知事にすることを目指し、政権与党「民政党」の若手議員・日山流星(松下洸平)など、強力な候補者と対峙する様子を描いた政治ドラマになっている。


『銀河の一票』で大活躍の“56歳俳優”から目が離せないワケ。...の画像はこちら >>
魅力的なキャラが多数登場するため、各キャラのスピンオフドラマを作ってほしいとさえ思う。中でも、“ガラさん”こと五十嵐隼人(岩谷健司)はひときわ目を引く存在だ。なぜ五十嵐に注目したくなるのか、 岩谷健司という役者を掘り下げながら考えたい。

物語を動かすよりも「引き締める」俳優

現在56歳の岩谷はこれまで数多くの作品に出演してきたが、主に物語を「動かす」よりも「引き締める」役割を担ってきた。

2026年4月から放送された、医学部の不正入試問題をテーマにしたドラマ『対決』(NHK BS・BSプレミアム4K)では、主人公・檜葉菊乃(松本若菜)が所属する日邦新聞東京本社社会部の部長・東海林を演じた。詰めの甘い追及でスクープを逃しかけた菊乃を厳しく糾弾し、事態の深刻さを突きつける役回りだ。

2025年度後期の連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)では、借金取りの森山善太郎として登場。松野家へ定期的に取り立てに訪れる強面の存在として、トキ(髙石あかり)たちが置かれた絶望的な状況を示す。その威圧感が十分に機能していたからこそ、善太郎の死後に取り立てを引き継ぐ息子・銭太郎(前原瑞樹)が懸命に父親を模倣してすごむ場面が微笑ましく、かつ可笑しく映えた。岩谷の“フリ”が前原の演技の輝きを増幅させていた。

こうした緊張感の付与は、ドラマに限らない。芸人たちが様々な罵倒を浴びせられるコメディ番組『罵倒村』(Netflix)では、「刑事の取り調べというシチュエーションでのドラマ撮影」という体裁のもと刑事役を担い、高圧的に、あるいは粘着質に芸人たちを追い詰めた。フォーマットが変わっても、場の空気を支配するその存在感は揺るがない。


緊張感と笑いを両立させる絶妙な塩梅

『銀河の一票』においても、その機能は変わらない。本作は政治系ドラマでありながら、くすりと笑える瞬間を随所に散りばめた作りになっている。肩の力を抜いて楽しめる一方で、政治・選挙をメインテーマとする以上、「シリアス」に切り替えなければならない瞬間は少なくない。そうした局面で五十嵐が口を開くことで、作品に緊張感を与え、「ただただ楽しいだけのドラマ」に流れるのを防いでいる。

また、第8話の、民政党都議団団長・洋野(瀬口寛之)の離党報道を目にした茉莉が、あかりを出馬させたために多くの人の人生を狂わせたことへの罪悪感を口にする場面は象徴的だ。

「そんな人生を捨てるみたいに……」と沈む茉莉に対し、五十嵐は「お嬢、それは失礼」「捨てるのか、取り戻すのか、他人がジャッジできることじゃない」とピシャリ。口調は鋭いが、上から目線の押しつけがましさはなく、嫌味にもならない。その絶妙な塩梅が、登場人物と視聴者の双方を引き締めている。

モジモジする“親戚のおじさん”を見ているよう

しかし、『銀河の一票』における岩谷は、これまでの出演作とは一線を画している。

後援会長を務める樫田敦史(岩松了)と“おじさんノリ”で盛り上がったり、自身の異名「テン・サウザンド」をいじられたりなど、人間味が滲み出るシーンが目立つ。普段の五十嵐との、さらには岩谷がこれまで演じてきた役とのギャップも相まって、なんだか「いつもムスッとしているけど、親族に過去の恥ずかしいエピソードをばらされてモジモジしている親戚のおじさん」を見ているようなほっこり感がある。

とはいえ、こうした「隙」の演出は諸刃の剣だ。そのキャラが持つ威厳を損ない、本作で言えば五十嵐が担ってきた作中の緊張感を弛緩させるリスクがある。さらには「お嬢、それは失礼」など、セリフの切れ味まで鈍らせかねない。


「切れ者」と「人情家」の両立

ただ、本作ではそうなっていない。その理由は、元市長・雲井蛍(シシド・カフカ)にある。蛍もまた、五十嵐同様に作中の緊張感を担う人物だ。蛍がいることで、五十嵐が多少の茶目っ気を見せても雰囲気が大きく崩れることはない。2人が互いにバランスを取り合い、コメディとシリアスの振り幅を絶妙にコントロールしている。

蛍がいるからこそ、「偉そうだが実は可愛げがある」という、ありがちな“ゆるキャラ”のようなキャラ像に堕することなく、「切れ者」と「人情家」という二つの側面を共存させることができている。

五十嵐には、岩谷がこれまで演じてきた役柄と重なる部分が多い。しかし、それでいてどこか似て非なる体温がある。この温もりこそが、五十嵐、ひいては岩谷健司という俳優にこれまで以上に、多くの視聴者が惹きつけられているのではないか。

『孤独のグルメ』シリーズの松重豊をはじめ、中高年男性を主人公にしたゆるいテンションのドラマは人気だ。『銀河の一票』では湯たんぽのような、程よい温かさを感じられる演技を披露したが、今後岩谷を主人公にした、ただただ動物と触れ合ったり、ただただご飯を食べたりなどするドラマが制作されることに期待したくなる。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。
社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
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