ソーシャルワーカーとして性加害を行った子どもたちの専門外来と再加害防止プログラムを実践する斉藤章佳さんと、助産師として全国で年間150回以上、包括的性教育の講演を行う櫻井裕子さん。二人は今年3月、共著『10代のための「性と加害」を学ぶ本』(時事通信社)を出版しました。


 性にまつわるトラブルは決して「特別な子」の話ではなく、誰もが当事者になり得る、私たち全員に関わるテーマです。親にとって難しいテーマを扱った本書ですが、イゴカオリさんの漫画で斉藤さんと櫻井さんの話がわかりやすく描かれています。

 前回の記事では、性加害を起こす子どもたちの多くが、生活態度や環境などもごく普通に見えるというお話を聞きました。そう聞くと、「では、親としてどうすればいいのか?」「何ができるのか?」と不安に感じる人も多いのではないでしょうか。とくに子どもが思春期を迎えると、性についての話題は切り出しづらくなり、親としてどう向き合えばよいのか悩むことも少なくありません。

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 そこで今回は、子どもを加害者にも被害者にもしないために、家庭でどのようなコミュニケーションを心がければよいのかについて、斉藤さんと櫻井さんに話を聞きました。専門家として、そして思春期の子どもを育ててきた親でもある二人が実践してきたこととは――。
「わが子への性教育、何を話せばいい?」専門家の“意外な答え”。「教える」より大切な“親子の習慣”とは<漫画>
『10代のための「性と加害」を学ぶ本』著:櫻井裕子、斉藤章佳、画:イゴカオリ(時事通信社刊)※以下同じ


「わが子への性教育、何を話せばいい?」専門家の“意外な答え”。「教える」より大切な“親子の習慣”とは<漫画>
10代のための「性と加害」を学ぶ本


「わが子への性教育、何を話せばいい?」専門家の“意外な答え”。「教える」より大切な“親子の習慣”とは<漫画>
10代のための「性と加害」を学ぶ本


「わが子への性教育、何を話せばいい?」専門家の“意外な答え”。「教える」より大切な“親子の習慣”とは<漫画>
10代のための「性と加害」を学ぶ本


「わが子への性教育、何を話せばいい?」専門家の“意外な答え”。「教える」より大切な“親子の習慣”とは<漫画>
10代のための「性と加害」を学ぶ本

思春期の子どもに、先回りして「教える」ことは難しい

――前回、子どもたちを取り巻く環境の変化によって、性加害のハードルが低くなっているというお話を伺いました。性加害をした子どもには高校生など思春期の子どもが多いとのことでしたが、親はこの時期の子どもとどのように向き合えばよいのでしょうか?

斉藤章佳さん(以下、斉藤):親が先回りして、あらゆる問題を防ぐことは難しいと思っています。子どもは成長するにつれて、何が良くて何が悪いのかを理解するようになりますから、親に知られたくないことは隠すようになります。

 SNSで問題のある行動をしていても、スマホを取り上げられるかもしれないと考えれば、親の目から逃れようと必死になります。

――そうなると、「親には何もできないのでは」と不安になります。

斉藤:親としては何かを教えるよりも、日常のなかで「気づきを共有する」ことが大切だと思っています。
その積み重ねによって、親子の認識が少しずつ共有できていくんです。

 私自身の話ですが、以前、息子と電車に乗っていたときに、私が居眠りをしてしまったことがありました。目を覚ますと、息子がスマホで車内の写真を撮っていたんです。本人は何気なく風景を撮っただけだったようなのですが、公共交通機関内での撮影は意図せず他人が写り込むなどで誤解を招くことがあります。盗撮と疑われる可能性もありますし、思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。

 実際、学生を狙って「盗撮していただろ」と言いがかりをつけ、お金を要求するようなケースもあります(通称:盗撮ハンター)。そこで私は、そうしたリスクがあることを息子に伝えました。問題行動でなくても、「少し危ういな」と感じたときに伝える。これも一つの“気づきの共有”です。

――何か大きな問題が起きてから慌てて話すのではなく、日常のなかで少しずつ伝えていくのですね。

斉藤:そうです。日常のなかで生まれた小さな気づきを親子で共有する。
その積み重ねが、「これは危ないかもしれない」「こういう見方をされることもあるんだな」という感覚を育んでいくのだと思います。

「教える」のではなく「受け止める」ことから

――そのためには、日頃から親子で話しやすい関係をつくることも大切になりそうですね。

斉藤:そうですね。会話の内容は、特別なものでなくていいんです。我が家では、夜に一緒にゴミ出しへ行くときや、お風呂上がりに外で涼んでいるとき、塾から帰ってきてソファで休んでいるときなど、ちょっとした時間にたわいもない話をします。

 そうした何気ない会話の積み重ねがあると、何か起きたときの話の伝わり方が全然違うんです。普段ほとんど会話をしていない状態で急に大事な話をしても、なかなか届きません。日頃から話していると、親が伝えたいことのニュアンスも理解してもらいやすいし、子どもも相談しやすくなる。結果として、問題が起きたときにも早めに対応できると思っています。

――話しやすい関係をつくるうえで、親はどのような姿勢で子どもと向き合えばよいのでしょうか。

櫻井裕子さん(以下、櫻井):思春期の子どもたちが求めているのは、教えてもらうことよりも、自分の体験や気持ちを受け止めてもらうことだと感じます。親は知識や情報を持っていますし、大人として伝えたいこともたくさんあります。だから、つい会話の中でアドバイスしたり、教えたりしたくなってしまうんですよね。


 でも、まずは子どもの話を聞く。その姿勢こそ、子どもが困ったときに相談しやすい関係を築くうえで大切だと思います。

子どもの行動に「危うさ」を感じたときこそ、学びの機会に

――子どもが性加害の入り口に立つ行動をしていたら、親はどのように対応すればよいのでしょうか。

斉藤:大切なのは、起きてしまったことを「なかったこと」にしないことです。その都度きちんと話し合い、必要であれば家族のルールも見直していく。その積み重ねが、行動がエスカレートするのを防ぎ、自分で思考する力をつけ、加害行動になる前に立ち止まる力を育てるのだと思います。

櫻井:自分の子どもが性加害の入り口に立っていたことを知れば、親はパニックになってしまうかもしれません。取り乱してしまうこと自体は自然なことです。でも、そこで子どもの尊厳を踏みにじるような言葉を使わないよう気を付けたいですね。少し落ち着いたあとに、「なぜ自分はこれほど動揺したのか」「何が心配だったのか」を、子どもと一緒に話し合えたら理想的です。

「意図せぬ妊娠」を一緒に考える

――お二人は、ご自身のお子さんに「性」についてどのように伝えてきたのでしょうか。

櫻井:私が子どもたちと「性」について話すとき、一番考えてほしかったのは「望まない妊娠をしないこと」でした。今なら別のテーマを中心にすると思いますが、子どもたちが思春期のころは、意図せぬ妊娠関連のドキュメンタリー番組やニュース番組の特集などを一緒に見ながら、話をする機会を意識的につくっていました。

――一緒に考えるということですね。


櫻井:そうです。「望まない妊娠をしたら、させたら、どうなるのか」を具体的に考えてもらいたかったんです。そのために、テレビ番組等で取り上げられる実際の事例を基に話していました。とくに、自分たちと年齢の近い子どもたちの事例には関心を持って耳を傾けてくれましたね。

 脅すわけではありませんが、実際どのようなことが起こり得るのかを知ったうえで、「自分ならどうするのか」「どうすれば幸せな選択ができるのか」を考えてほしいと思っていました。

親が全部教えなくていい

――性や性加害について子どもに話すことに、難しさを感じている親も多いと思います。

櫻井:親がすべてを担う必要はないと思います。苦手な分野は外部の委託もありです。たとえばNHKでも、性教育に関する質の高いコンテンツがたくさんあります。信頼できる本や動画を一緒に観たり、「読んでみたら?」と渡すだけでも十分です。親が完璧な知識を持っていなくてもいい。子どもと一緒に学ぶことも子どもへの励ましになります。


斉藤:私も、親が「教える」のではなく、「一緒に学ぶ」という姿勢が大事だと思っています。親が何でも知っていて、子どもに教えなければいけないと思うと、どうしても親が教える側、子どもが教わる側という上下の関係になってしまいます。親の失敗体験を話してもいい。わからないことは「教えて」と子どもに聞いてみてもいいんです。子どもたちのほうが、新しいアプリやSNSの使い方をよく知っていることもありますからね。親も一緒に学ぶ姿勢を持つことで、親子のコミュニケーションはずいぶん取りやすくなると思います。

――とはいえ、仕事や家事に追われるなかで、なかなか子どもと向き合う時間を取れないという親御さんも多いと思います。

櫻井:いつでも子どもの話を正面から受け止めなければいけない、と思わなくていいです。「今は手が離せないから、あとで聞くね」でも大丈夫。ただ、「あなたの話を聞く気はあるよ」という姿勢だけは、伝えておいてほしいです。子どもが求めているのは、完璧な親ではなく、自分の話を親身になって聞いてくれる人です。その存在になれるかどうかが、いざというときに大きく影響してきます。


斉藤:まずは日常の会話からでいいと思います。内容は本当にどんな話でもいいんです。親側の雑談力や聴く力が問われます。そうしたやり取りの積み重ねが、何か問題が起きたときの「話しやすさ」につながっていく。親が伝えたいことも届きやすくなりますし、子どもも相談しやすくなります。気負わなくて大丈夫です。まずは日常のちょっとした時間のなかで、子どもと話す時間を少しずつ増やしてみてください。

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「先回りして教えること」よりも、「日頃から話せる関係をつくること」。お二人が共通して強調したのは、特別な性教育の機会よりも、日常のコミュニケーションの積み重ねの大切さでした。

【斉藤章佳(さいとうあきよし)】
西川口榎本クリニック副院長(精神保健福祉士/社会福祉士)
1979年滋賀県生まれ。大卒後、我が国最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、25年にわたりアルコール依存症を中心に様々なアディクション臨床に横断的に携わる。その後、2024年10月から現職。専門は加害者臨床で現在まで3500名以上の性犯罪加害者の治療に関わり、その家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。最新刊として『校内盗撮』(集英社インターナショナル)が8月7日に刊行される。

【櫻井裕子(さくらいゆうこ)】
助産師(さくらい助産院開業)  
産後ケア、養育支援、看護・助産専門学校非常勤講師を務める傍ら、小中高大学生や保護者に包括的性教育やプレコンセプションケアについての講演を年間150回以上実践。2021年より斉藤氏と共に性犯罪加害者臨床で包括的性教育を行っている。
著書に『10代のための性の世界の歩き方』『性的同意は世界を救う』『10代のための「性と加害」を学ぶ本』共に時事通信出版局。

<取材・文/大夏えい>

【大夏えい】
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作中。
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