「最近の若者は…」「今の子どもって…」という勝手なイメージが世にあふれています。でもそれって本当でしょうか?

先ごろ刊行された『君たちはどう生きてもいい』(河出書房新社)は、恐山の禅僧である南直哉(みなみ・じきさい)さんが、5人の中高生と一対一でじっくり対話した本です。


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不登校、学級崩壊、親の離婚、性的マイノリティ――。驚くほど率直な中高生の言葉と、南さんの解説は、10代から親世代まで誰が読んでも発見があるでしょう。

南さんは20代でサラリーマンを辞めて出家し、永平寺で約20年修行した人ですが、悟りすました「答え」を出したりはしません。子どもの頃から深く思い悩んできた“先輩”でもある南さんに、話を聞きました。

「人生で大切なのはお金」と言い切る14歳が、本当は伝えたかったこと――禅僧と10代たちの対話
君たちはどう生きてもいい

お金お金と繰り返す14歳に透けて見える、強い不安

――南さんは、様々な悩みをもった人と一対一で話す、ということを30年続けてきたそうですね。今回対話された10代が、すごく色々と考えているので驚きました。

南:「人生は簡単にはいかない」ということを、彼らもよくわかっているんですよね。

僕は人と話す時、「本当は何を言おうとしているのか?」と考えるんです。
例えば、海斗くん(仮名、14歳、中2)は、しょっぱなから「どうやったらお金を稼げるの?」と質問してきました。そんなの坊さんに聞かれてもねぇ(笑)。

彼は、「人生で大切なのはお金」「ガンプラが欲しいのにお金が足りない」……金、金、と何度も言っている。こういうふうに、人が同じことを連呼するときって、何か別のことを言いたいんですよ。それを探っていかないと。


――彼は、本当はどんな想いを抱えているのでしょうか?

南:強い「不安」を感じてるんだと思います。
彼はお父さんと死別して、母1人子1人。小3から不登校で、「今の中学校は楽しい」と何度も言っていたのに、最後のほうで、実は「月1回しか行ってない」と。
働くお母さんの苦労もわかってるだろうし、自分の将来への不安も自覚している。本当に欲しいのは、「お金」ではなくて、「安心」なんじゃないか、と感じました。

僕と話して、彼自身もある程度、そのことに気づいたんじゃないですかね。ただの金銭欲や物欲の話じゃない、という“ゆらぎ”が生じたと思うんです。
僕の言うことが正しいかどうかはどうでもよくて、本人が気づくことが大事なんです。

それと、彼の言葉で印象に残っているのは、「ウニョウニョしてる道」という言葉です。

――「ウニョウニョしてる道がたくさんありすぎて、どれを選べばいいか迷っちゃう」と。

南:今の子どもは、選択肢が多い。僕は昭和33年生まれですけど、当時は例えば「学校に行かない」という発想がなかったでしょう?
「ウニョウニョしてる道」のどれを選べばいいのか、正解はないし、本人たちに試行錯誤してもらうしかないと思いますね。


「人生で大切なのはお金」と言い切る14歳が、本当は伝えたかったこと――禅僧と10代たちの対話
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15歳女子が明かした「女の人のほうが好き」

――沙希さん(仮名、15歳、中3)との対話も驚きました。「親にも言ってないけど、女の人のほうが好き」という言葉が、ほぼ初対面の女子中学生から出るとは。

南:びっくりしましたね。最初、「あれ? 弟さんが来たのかな」と思ったぐらい、ボーイッシュだったんですよ。でもいきなりは聞けないから、その日は触れませんでした。
そして、後日「ジェンダーやセクシャリティの話を聞きたい」と、彼女だけ2回目の対話をお願いしたんです。断られるかと思ったら、本人も親御さんもOKしてくれて。

小4で不登校になって、自分と向き合う時間が2~3年あったことで、自分の気持ちに気づいたそうです。

――今の中学校には、楽しく通えているんですよね。学校で差別的な発言をされたことは全くないと。

南:ただ、これから先は大変なこともあると思います。「味方を増やす努力はしておくといい」と話しましたけれど。多様性の時代と言われつつ、バックラッシュ(反動)が来ていますからね。


差別の原因はすべて「する側」の無知にある

――この対話を受けて、南さんが差別について書いていますよね(以下、同書から一部要約して引用)。

<性的指向や容姿、出自や育った環境など、どんな条件であれ、「差別される側」には責任も問題もまったくありません。
問題があるのは「差別する側」です。
なぜなら、差別の原因はすべて、する側の「無知」にあるからです。>

<差別する人は、相手を「こういう存在だ」と固定し、「自分が正しい」と思っています。しかしそれは、単なる思い込みであり、妄想です。>

<このように現実を正しく見られない状態を、仏教では「無明(むみょう)」と呼びます。>

「人生で大切なのはお金」と言い切る14歳が、本当は伝えたかったこと――禅僧と10代たちの対話
南直哉さん

差別をする人も、また苦しんでいる

――全くおっしゃる通りだと思いました。ですが今、差別と排除を明らさまに言動に出す大人がすごく増えています。長年日本で働いている外国人にも、「国に帰れ」とか言ってしまう。

仏教では、「無明」は「苦しみの根源」とされますよね。ということは、差別をしている人たちは、同時に、苦しみも抱えているのでしょうか。

南:そうです。苦しいから差別するんですよ。
自我に対する不安を抱えている。

みんな「私」という存在には何の根拠もないと薄々気づいているんだけど、その不安が臨界点を超えると、外に敵を見つけるようになるんです。「私はちゃんとやってるのに、報われないのは、あいつらが悪い」みたいにね。
他者を攻撃する理由をどこかで調達してくるようになって、外国人とか性的マイノリティとかを理由にするわけです。

差別というのは、自我の強度を上げる手段として使えるわけですよ。
しかし、そんな手段で自我に対する不安はなくならない。苦しみは消えないのです。

自分の子も「他人」で「わからない」前提に立つ

――大人も病んでますよね。教育関係の人に取材すると、「子どもが不調を抱えている場合、実はたいてい親のほうに問題がある」と言うんです。

南:だいたいそうでしょう。
大人の悩みを聞いていても、かなりの確率で、最後に親との関係に行き着きます。「もしかすると親御さんとの間に…」と振ると号泣し始める人もいるし、70~80代でまだ親への恨みつらみを抱えている人もいる。親子関係は一生に影響を与えますね。


――そんな中で、親は子どもにどう接すればいいのでしょうか。

南:まずは、「子どもは他人」で「わからない」という前提に立つこと。僕の息子は、知的障がいを伴う自閉症でアウトプットができないので、意思がわからない人と付き合う難しさは痛感しています。
でも、障がいがなくても、他人のことはわからないんですよ。「俺は君のことをよくわかってる」と言われると、腹が立つでしょ?「お前ふぜいに何がわかるんだ」って。子どもも同じです。

「人生で大切なのはお金」と言い切る14歳が、本当は伝えたかったこと――禅僧と10代たちの対話
南直哉さん

親が子にできることは2つだけ

――「親ができることは2つだけ」とも、本に書いていますね。

南:ええ。「あなたがいてくれて嬉しい」と伝えること。経済的に自立するまで衣食住の面倒を見ること。この2つしか親にはできないと、僕は考えています。

親はつい、「あなたのため」と言って、生き方まで指導してしまうんですが、これは危ない。
「親の言うことを聞くんだったら愛してあげる」という、“取引”になってしまう。
このお定まりの構図にどっぷりはまって、大人になっても親に縛られて悩んでいる人と、数えきれないぐらい会いました。

子どもを「導く」んじゃなくて、「味方になる」。親にできるのは、それぐらいですよ。
(以下、後編)

【南直哉(みなみ・じきさい)】
恐山菩提寺院代、霊泉寺住職。1958年長野県生まれ。サラリーマンを経て、1984年に出家得度。曹洞宗大本山・永平寺で約20年間の修行生活を経て、2005年より恐山へ。2018年、『超越と実存』で小林秀雄賞受賞。著書多数。

「人生で大切なのはお金」と言い切る14歳が、本当は伝えたかったこと――禅僧と10代たちの対話
南直哉さん

<文/増田結香 撮影/我妻慶一>
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