中国・貴州省貴陽市には、高架道路が10棟以上の集合住宅の真上を通っている、奇妙な景観の場所がある。
上空から眺めると、建物そのものが道路を支えているようにも見えるのだが、実際には橋脚が住宅のすぐ脇や建物内を貫くように配置されているのだ。
最近になってこの光景がSNSで拡散され、「高速道路が住宅の上を通っている」「マンションが橋脚代わりになっている」と世界中で注目を集めている。
1997年に完成した水口寺大橋
実はこの奇妙な景観は、最近生まれたものではない。「水口寺大橋」と呼ばれるこの高架橋の完成は1997年で、その後に下の集合住宅群が建設された結果、現在のような姿になったのだ。
水口寺大橋は貴陽市東部に位置する全長670mの橋で、1993年に着工し、1997年5月に完成した。
当時の貴陽市では道路網の整備が進められており、水口寺大橋も市中心部と東側地区を結ぶ重要な交通路として建設された。
SNSで話題になっている映像を見ると、高架橋が既存の住宅群の上に後から建設されたのかと思ってしまうかもしれない。
しかし実際には順番が逆で、先に高架橋が完成しており、その後1999年になって、その下の空間に集合住宅が建てられていったのである。
下の写真は、水口寺大橋完成直後と思われる時期に撮影された画像である。高架道路の下に、まだ建物は建っていないのがわかると思う。
橋の下に生まれた住宅街
当時の貴陽市では、都市開発が進むにつれ、立ち退きを余儀なくされる住民が増えており、彼らの移転先となる住宅の不足が問題となっていた。
高架橋の建設にあたっては、周辺の土地の取得が進んでいたが、完成後も高架下には利用可能な「空間」が残っていた。
そこで行政当局は、この空いている空間を「住宅用地」として活用することにし、立ち退いた住民の移転先や社宅など、低家賃の住宅として整備したのである。
こちらは上と同じ場所の、開発の進んだ後の写真である。周囲には高層ビルが立ち並び、高架下の空間は集合住宅で埋まっている。
こうして橋の下には10棟以上の集合住宅が建設されることとなった。高層のものは8階建て、低いものは2階建てで、橋の傾斜に合わせるように配置されている。
場所によっては屋上と橋の床版との距離が1mにも満たず、上を見上げると巨大なコンクリート構造物が、圧迫するように覆いかぶさっている状態だ。
本格的な入居が始まったのは1999年頃からで、多くの住民たちが、この高架下という環境で新しい生活を始めたのだ。
「地震だと思ったら大型トラックだった」
もちろん、住民が暮らし始めてからも、この特殊な立地による問題も山積していた。最も深刻だったのは、上を通る道路から来る騒音と振動である。
当時の水口寺大橋は大型トラックの通行も多く、橋を通過するたびに橋全体が揺れ、その振動が住宅へ伝わった。
引っ越してきた初日の夜は、まったく眠れませんでした。大型トラックが通るたびに、まるで天井全体が揺れているように感じられ、ドアや窓ガラスもガタガタと音を立てていました
最上階に住む楊さんは、入居初日の夜をこう振り返る。彼は頭から布団を被り、耳に綿を詰めて、何とか騒音をやり過ごそうとした。だが、建物そのものの揺れだけはどうすることもできなかった。
ベッドで寝ていても、ベッド自体が絶えず揺れていました。頭の皮膚までしびれるような感じで、何とも言えない不快感がありました
楊さんは最初の1か月間、毎晩明け方になるまで眠ることができず、神経衰弱のような状態に陥ってしまったという。
それでも慣れとは恐ろしいもので、楊さんは次第にこの騒音や振動が気にならなくなっていったそうだ。
やがて橋の上を走る車の音を聞くだけで、どんな種類の貨物車が通ったのか大まかにわかるようになったんだとか。
また、5階に住む別の住民は、自宅のウォーターサーバーがしょっちゅう振動していたと話している。
長年この場所で暮らしていた別の住民は、2008年の四川大地震の揺れが貴陽市まで伝わった際、最初はいつもの大型車による振動だと思ったと語っている。
それほどまでに、高架道路からの騒音と振動は、住民たちの生活の一部になっていたのである。
大型車の規制で環境は改善されつつあるが…
住民たちを悩ませたのは騒音だけではなかった。道路が住宅の上を覆っているため、日照条件は非常に悪かった。
低層階はもちろん、最上階ですら日光が十分に入らず、天気の悪い日には昼間から照明が必要になることも。ある住民は、入居以来一度も布団を外で干したことがないと語っている。
さらに橋の継ぎ目からは、車両が巻き上げた埃がひっきりなしに落ちてくる。朝掃除をしても、午後には再び薄く積もるほど。もちろん窓も開けられない。
橋の上から物が落下する危険もあった。
この環境がようやく改善されたのは、2009年のことだった。貴陽市の交通規制が見直され、市中心部への大型貨物車の乗り入れが大幅に制限されたのである。
これにより、水口寺大橋を通過する大型トラックも減少し、橋下にある住宅への騒音や振動は、以前よりだいぶ軽減された。
さらにその後、上を通る道路に遮音壁が設置され、住民の生活環境はある程度改善されているとのこと。
もっとも、日照不足や埃の問題が完全になくなったわけではない。高架橋が住宅の上を覆う構造がそのままである以上、根本的な解決は難しいのだ。
当局は再整備を計画中?
2012年には、当局がこれらの集合住宅群を撤去し、跡地を緑地帯として整備する案を検討していることが報じられた。
しかし、住民の移転先や整備費用といった問題が山積しており、具体的な計画や実施時期が決まらぬまま、立ち消えになったようである。
貴陽市は現在、400万人以上の人口を抱えており、急速な都市開発による住宅不足という問題に直面している。今後、この集合住宅群が、再び開発の対象となる可能性は十分にある。
これは過去から残されてきた、非常に複雑な問題です。水口寺大橋下の住宅については、行政も以前から注視してきたのです
この住宅を管轄する、貴陽市南明区の住宅都市農村建設局局長、袁也氏はこのように説明している。
現時点では具体的な計画も日程も決まっていないものの、調和の取れた都市居住環境を整備するという大きな流れの中で、水口寺大橋下の住宅の移転・撤去と再整備は、いずれ実施されるであろう問題なのです
一方で、住民たちの困惑は大きい。現在では移転にかかる費用が以前とは比較にならず、多数の世帯を移転させるには莫大な資金が必要になるからだ。
2025年から2026年にかけて、ドローン映像やショート動画がSNSで拡散されたことで、水口寺大橋下の住宅群は、世界中の注目を集めることになった。
- 橋の下に住んでいるって言ったら、ホームレスだと思われそう
- 見物に来る人には面白いかもしれないけど、住民にとっては悪夢だろうね
- この街は重慶みたいに、すごくサイバーパンクな雰囲気がある
- 見た目はすごいけど、よほど徹底した防音対策でもない限り、住民には同情するよ
- 騒音問題を解決できたとしても、大気汚染の問題は残るよ
- 中国は今、道路を走る車の約60%が電気自動車だったはず
- すごくいいね!……でも、自分が住みたいかと言われると微妙かな
- これは見事だ。都市版・省スペース住宅のアイデアだね
- 感心すべきなのか、嫌悪すべきなのか分からない
- 空間を有効活用するには本当に良い方法だと思う
- 空港の近くで航空機の進入ルート下に住むだけでも悪夢なのに、橋の真下で暮らす人たちがどんな思いをしているのか想像もできない
撤去と立ち退きの不安がつきまとう日々
居住環境の改善に長い時間がかかったため、新築当時からの住人の多くは既に引っ越していった。
中には高架下住宅の部屋を他人に貸し、その家賃で別の家を借りて暮らす人もいるという。当初からの住人は、既に全体の2割を切っている。
そもそも、ここは何よりも家賃が手頃な上に、立地自体は悪くなく、市の中心部へのアクセスも便利な場所にある。
今も住み続けている住民たちは、既に絶え間ない騒音と振動という環境に折り合いをつけており、住環境への不満を漏らす人はごくわずかなんだそうだ。
開発計画に何度も翻弄されてきた住民たちが望むのは、末永く安定・安心して、快適に生活できる住居を得ることだ。
先述の楊さんの収入は、月にわずか700元(約17,000円)、妻の収入を合わせても、日本円で約2万円ほどにしかならないそうだ。
もっと快適な住居に移りたくても、現状では引越しをする余裕はない。
References: Suspended Motorway in China Passes Straight Over a Dozen Apartment Buildings[https://www.odditycentral.com/architecture/suspended-motorway-in-china-passes-straight-over-a-dozen-apartment-buildings.html] / 大桥下的蜗居生活[https://news.ifeng.com/c/7fcvyycEUcK]











