特に現代では、昆虫を食べる文化や習慣が根付いていないと、日本でも虫を食べることに抵抗を感じる人は多い。
だが西欧人の昆虫食に対する嫌悪感は全体的に見ても強いと言われている。
その理由を解明すべく、スペインの進化生物学研究所(IBE)の研究チームは、古代人の歯石に残るDNAと遺伝子を解析した。
その結果、ヨーロッパからロシアにかけての人々は、数万年前の時点ですでに昆虫をほとんど主要な食料にしておらず、昆虫の殻を消化しにくい遺伝子を約9千年前から持ち続けていたことがわかった。
この研究成果は『Science Advances[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aec6939]』誌(2026年6月5日付)に掲載された。
昆虫食への嫌悪は食文化のせいなのか
世界では数億人が日常的に昆虫を食べている。
しかしヨーロッパや北米の多くでは、昆虫を食べることに今も強い嫌悪が向けられる。
昆虫食への嫌悪は、暮らす土地の食文化や習慣によるものだと長く考えられてきた。
スペインのバルセロナにある進化生物学研究所(IBE)の研究チームは、嫌悪の理由が文化だけではないのではないかと考えた。
そこで研究チームは、西欧の古代人が実際に昆虫を食べていたかどうかを、歯石に残るDNAから調べることにした。
北ユーラシアの古代人はほとんど昆虫を食べていなかった
歯石は、歯に固まってこびりつく汚れである。食べたもののDNAが長く残るため、古代人が何を食べていたかを知る手がかりになる。
研究チームは、ユーラシア各地で見つかった古代現生人類、ホモ・サピエンスの歯石745検体を解析した。最も古い歯石は3万3千年前のものである。
解析の結果、ヨーロッパからロシアにかけて暮らしていた古代人の歯石からは、昆虫のDNAがごくわずかしか見つからなかった。
中には昆虫のDNAも発見されたが、その多くは、食べた動物の死骸や飲んだ水にまぎれて偶然口に入ったものと考えられ、昆虫を目当てに食べていた証拠にはならなかった。
北ユーラシアの古代人は、昆虫を主要な食料にする習慣を持っていなかった。
ただし同地域のネアンデルタール人は昆虫を食べていた
研究では、ネアンデルタール人18体の歯石も調べられた。
ネアンデルタール人は約4万年前まで存在した、現生人類に近い別種の人類である。
現生人類と近い環境で暮らしていたにもかかわらず、ネアンデルタール人の歯石には多くの昆虫のDNAが含まれていた。
昆虫のDNAの量は、昆虫を食べて栄養を補うニシチンパンジーと同程度だった。
最も多く見つかったのは、ハエと蚊のDNAである。
ネアンデルタール人は狩った獲物の死骸を水辺にためて食べており、死骸にわいたハエの幼虫を肉ごと口にしていたと研究チームは推測している。
昆虫を集めて食べていたのではなく、肉を食べる過程で一緒に飲み込んでいたことになる。
熱帯付近の人類は昆虫を消化できる遺伝子を持つ
ネアンデルタール人は、昆虫をよく消化できる遺伝子も持っていた。
そこで、研究チームは、昆虫の殻を作る成分であるキチンを分解する酵素の遺伝子を調べた。
キチンは消化されにくい物質で、酵素がよく働く遺伝子を持つほど昆虫を消化しやすい。
古代から現代までの現生人類を調べたところ、熱帯付近で暮らす人類は、古代でも現代でも、酵素がよく働く遺伝子を持っていた。
熱帯にはシロアリやバッタのような昆虫が大量にいて一年を通じて手に入るため、集める労力に見合う食料になったと考えられる。
北ユーラシアの人類は昆虫を消化しにくい遺伝子
一方で、寒い地域では昆虫の数が少なく、冬には姿を消してしまうため、集める労力に見合う食料にならなかった可能性がある。
ヨーロッパからロシアにかけての北ユーラシアで暮らす人々には、キチンを消化しにくい遺伝子が、農耕の始まった約9千年前から現在まで受け継がれていたことがわかった。
西洋人が昆虫食を嫌う理由は、消化できない遺伝子に関係しているのかもしれない。
昆虫の乏しい土地で暮らすうちに昆虫を消化する力が弱まり、弱いままの状態が9千年以上にわたって受け継がれてきたことが背景にあると研究チームは考えている。
時代の変化により昆虫食が減少傾向
昆虫食から遠ざかる流れは、日本にもある。
日本も、熱帯から離れた場所で暮らしてきたため、ヨーロッパの人々と同じように昆虫を消化しにくい遺伝子を受け継いでいるとみられる。
それでも海のない長野県では、貴重なタンパク源として蜂の子やイナゴ、ザザムシ、蚕のさなぎを食べる文化が古くから根づき、群馬県や岐阜県、宮崎県の一部にも同様の食習慣が残っている。
かつては昆虫も豊富にいて、タンパク質を補給するための暮らしの知恵だったのだ。
ただし長野県伊那市の調査によると、昆虫を食べる頻度は下がり、昆虫を食べない若い世代が増えている。
現代の加工技術を使えば、キチンを消化しにくい遺伝子を受け継いでいても、昆虫を食べられないわけではない。
キチンを消化する必要を減らしたうえで昆虫を食料にでき、養殖による大量生産もできる。
だが、現代人は虫に対する忌避感があるようだ。
貴重なたんぱく源としていくら国連が推奨しても、様々な食品に加工されたものがでてきても、実際に食文化がないところでは浸透しづらいよね。
ちなみに私の地元栃木県では「いなご」の甘辛煮とか結構昔は食べられていたけど、そういや最近見ないな。
References: doi.org/10.1126/sciadv.aec6939[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aec6939] / Why You Hate Eating Bugs: DNA Reveals a 9,000-Year-Old Legacy[https://scitechdaily.com/why-you-hate-eating-bugs-dna-reveals-a-9000-year-old-legacy/]











