ソフトロボット化で着衣の手間がグンと減る。韓国科学技術院(KAIST)とアメリカのスタンフォード大学の研究チームが、空気の力で植物のツタのように体を這い上がり、わずか10秒で着られる服型ソフトロボットを発表した。
服のほうから動き出し、自ら着せにかかってくるため、手を使う必要がほとんどない。
この技術は高齢者や体の不自由な人の着替えを助けるだけでなく、工場や医療現場での防護服の早着替えにも役立つと期待されている。
研究成果は『IEEE Robotics and Automation Letters[https://ieeexplore.ieee.org/document/11260958]』誌に2025年11月19日付けで掲載され、2026年6月にIEEE ICRAでBest Paper Awardを受賞した。
着替えに潜む見えない負担
服を着る動作は、多くの人にとってなんてことのない日常の一部だ。
だが加齢や病気で体の自由が利かなくなったり、筋力や柔軟性が低下すると、袖に腕を通したりボタンを掛けたりする単純動作でさえ、体の連携を必要とする難しい作業になる。
とりわけ高齢者や障がいをもつ人、リハビリ中の患者にとって、着替えが日々のハードルになるケースも少なくない。
そのため、ロボットを利用した服の着脱方法が模索されていた。
服の内部に組み込まれた植物型ロボット構造
この着替えの負担という課題に取り組んだのが、韓国科学技術院(KAIST)とアメリカのスタンフォード大学による共同研究チームだ。
開発した服は「SWAG(Self-Wearing Adaptive Garment:自ら着用可能な適応型衣類)」と名付けられている。 開発した服は「SWAG(Self-Wearing Adaptive Garment:自ら着用可能な適応型衣類)」と名付けられている。
仕組みを支えているのは、スタンフォード大学のアリソン・オカムラ教授(Allison M. Okamura)が開発した「バインロボット(vine robot、つる型ロボット)」だ。
バインロボットは、縁日やパーティーグッズにある吹き戻し(ピロピロ笛)のように、空気の力によって先端の部分をめくり返しながら伸びていく構造を持つ。
これまでは、がれきの隙間のような狭い場所や、人の体の内部を調べる医療用途などに使われてきた構造だが、KAISTの博士研究員キム・ナムギュン氏は、その仕組みが、手を使わずに着られる服にも応用できると考えた。
服のほうがスルスルと体を這い上がって着衣
実際の様子がこちらだ。服と化したバインロボットが、着用者の足元から肩へと這い上がっていく。
デザインはジャンプスーツらしきデザインだが、肩に到達するまでにかかる時間は、わずか数秒だ。
まるで植物のツタが壁を登っていくように、服のほうから着用者の体に沿って立体的に伸びていく。
腕まで通れば、あとは着用者自身がファスナーを閉めるだけ。簡単に着終えることができた。
映像の中でキム・ナムギュン氏は、SWAGが生まれたきっかけについても明かしている。
自転車に乗っていたときに雨が降り出し、両手がふさがっていても自動で羽織れるレインコートがあったら、と考えたことが、開発の動機になったという。
空気の力で体を包む仕組み
こうした滑らかな動きを支えているのが、SWAGの内部構造だ。その仕組みは、壁を這い上がる庭のツタの様子からひらめいた。
ツタは体全体を移動させるのではなく、先端部分だけを伸ばして進む。SWAGの内部に組み込まれたバインロボットも同様の原理で動く。
服の中に空気を送り込むと、内側にたたまれていた生地が裏返りながら広がり、着用者の腕や脚、体の輪郭に沿って伸びていく。
着終えるまでにかかる時間は、送り込む空気圧の大きさにより多少ばらつきがあるが、服1着なら最長でも10秒程度だ。
自転車と雨からひらめいた技術
前述したとおり、のちにSWAGとなる、服のソフトロボット化を思いついたきっかけはキム氏自身の雨天での自転車体験だった。
そのアイデアを実際の技術に落とし込むためキム氏は、KAISTの建設・環境工学科に籍を置く リュ・ジーファン教授のもとで研究を進めた。
リュ教授は、バインロボットを開発したスタンフォード大学のオカムラ教授の研究室と連携し、バインロボットの仕組みを衣服に組み込む共同研究体制を築いた。
服から全身スーツまで多様なデザインを試作
研究チームはこれまでに、袖だけのものから、ジャケット、ズボン、上下一体のスーツまで、さまざまな試作品を製作してきた。
なお着る動作を実現する方法には2種類ある。ひとつは、外付けの「ベースステーション」と呼ばれる装置を使う方法だ。
空気圧をためる筒、伸長構造を巻き取るリール、リールを回すモーターで構成されており、繰り返し使えるという利点がある。
もうひとつは、伸長する仕組みをあらかじめ服の中に仕込んでおく方法で、ジャケットやズボンの試作品はこちらの方式で作られ、実験では、過度な圧力をかけることなく、服が体の輪郭に沿って安定して広がることが確認されている。
AIソフトウェアに頼らない工学の力
リュ教授は、このソフトロボットの利点について狭い隙間を通り抜けたり、周囲の環境の形に合わせて成長したり、床が滑りやすくてもべたついていても関係なく動けるところを挙げている。
AIソフトウェアが注目を集める現在において、SWAGは機械工学の設計だけでも重要な課題を解決できる好例だ、とリュ教授は述べる。
なお論文では、この伸びる仕組みを逆向きに動かせば、脱ぐ動作にも応用できる可能性があるとしている。ただし脱衣の実験はまだ行われておらず、今後の研究に委ねられている段階だという。
まだ開発段階ではあるものの、動作の効率は非常に高く、応用の範囲は、高齢者や障害のある人の日常生活支援にとどまらない。
ちりやほこりが大敵の半導体工場のクリーンルームや、消防や医療現場など、速やかに所定の服を素早く着ることが求められる職場でも活用が期待されている。
世界最大級の学会で受賞
今回の研究成果は、学術誌『IEEE Robotics and Automation Letters』に2025年11月19日付けで掲載された。
2026年5月にKAISTが公開した以下の動画では、袖型のソフトロボットが腕を通る様子や、ジャケット型の動作も見ることができる。
この研究は、2026年6月にオーストリア・ウィーンで開催された国際ロボット工学会議IEEE ICRA(IEEE International Conference on Robotics and Automation)において、Best Paper Awardを受賞している。
なるほど、服を着るのではなく、服のほうから動いてくれる未来が一歩現実に近づいたわけだ。とりわけ服を着るのも一苦労の人にとってはこの先楽しみな朗報ではなかろうか。
筒状のピロピロ笛が下から這い上がるような構造からすると、ボトムスやオールインワンのような形のほうがシンプルに設計・利用しやすそう。
あと一見だぼだぼの服が体にジャストフィットするシーンとかSF映画であったりするけど、そうした自動調節技術もついでに実現しないかな。
References: KAIST team wins IEEE RA-L Best Paper Award for second year in a row | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1132958]











