アメリカやカナダでは野生の鹿が道路に侵入することが多く、あちこちで交通事故が起きている。
アメリカ太平洋岸北西部で行われた最新の調査で、ピューマが鹿と人間による交通事故を防ぐ役割を果たしていることが判明した。
研究チームがワシントン州で調査を行ったところ、ピューマが生息する地域では、人間が運転する車と鹿の深刻な衝突事故が最大76%も激減していたのだ。
その理由は、ピューマの存在を恐れた鹿が、道路から離れた奥地へ移動し、夜間の活動を控えるようになるからだ。
この研究成果は『Current Biology[http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2026.06.072]』誌(2026年8月5日付)に掲載された。
アメリカ大陸に生息するネコ科の捕食獣「ピューマ」
南北アメリカ大陸に広く生息するピューマは、体長100~190cm、体重は35~110kgに達するがっしりとした体格を持つ大型の肉食動物である。
地域によってクーガーやマウンテンライオン、パンサーとも呼ばれるが、すべてネコ科ピューマ属に分類される「ピューマ(Puma concolor)」のことだ。
大型ネコ類の中で唯一、分類学的にヒョウやライオンよりイエネコや小型ヤマネコに近い。
人間にとって家畜を襲うなどの危険なイメージが強いピューマだが、実は人間のにとって大きな恩恵をもたらしていることが判明した。
アメリカの太平洋岸北西部で行われた新しい研究により、ピューマが鹿を道路から遠ざけ、自動車事故を激減させていることがわかったのだ。
5年間で鹿と車の衝突事故を最大76%防いでいた
アメリカの保全科学パートナーズに所属する野生生物生態学者、ジャスティン・スラシ氏らの研究チームは、太平洋岸北西部に位置するワシントン州のオリンピック半島に生息するピューマと鹿の個体群を調査した。
大規模なカメラトラップの映像データと、野生動物が絡む自動車事故のデータを分析した結果、ピューマの存在感が高い地域では、人間が運転する車と鹿の衝突事故が大幅に少ない傾向が明らかになった。
研究チームの計算によると、ピューマの活動が活発な場所では鹿関連の自動車事故の可能性が67%減少した。
さらに5年間という期間で見ると、予想される事故の総数を最大76%も削減できると推定されている。
捕食ではなく「恐怖」で鹿を夜間の道路から遠ざけていた
ピューマがどのようにして自動車事故を減らしているのかについても、重要な事実が明らかになった。
ピューマが鹿を捕食して個体数を減らしていたわけではなかった。
野生ネコ科動物の保護団体であるパンテラ(Panthera)のマーク・エルブロック氏によると、ピューマは健康な鹿の個体数にそれほど大きな影響を与えないという。
最大の理由は、ピューマが鹿を怖がらせることにあった。
ピューマが存在する地域では、鹿はピューマに襲われるリスクを避けるために空間と時間の使い方を変える。
道路の多い地域にいる可能性が15%低くなり、代わりに人里離れた安全な生息地で過ごすようになる。
さらに、鹿は日中により活動的になり、最も危険な衝突事故が発生する夜間の活動を控えるようになるのだ。
恐ろしい捕食者との共存が人間にもたらす目に見えない恩恵
鹿が夜間の道路に近づかなくなることで、結果的に人間と鹿の深刻な交通事故が未然に防がれている。
ピューマはある意味、人間を交通事故から守ってくれているのだ。
研究チームは次に、オリンピック半島のピューマによって交通事故が激減したことで、車の修理代、人間の医療費、事故処理にかかる費用がどれだけ節約できたのかを、金額的に試算する予定だという。
2019年のアメリカの研究でも、ピューマの食べ残しが多くの昆虫や動物に食料と生息の機会を提供し、周囲の生物多様性を高めていることが明らかになっている。
こうした生態系の要となる生物は「キーストーン種」と呼ばれているが、ピューマは人間をも含めてオリンピック半島の生態系を守ってくれているようだ。
References: DOI 10.1016/j.cub.2026.06.072[http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2026.06.072] / Pumas make roads safer for drivers | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1138139]











