2026年8月。夏の夜空をペルセウス座流星群が彩るころ、ヨーロッパでは日食がこれに重なって、宇宙に思いを馳せる機会がいつにも増して多くなった。
そんな中、スペインで撮影されたある映像が世界中の注目を集めた。皆既日食が起こった瞬間、太陽と月が重なる漆黒の円を背景に、鮮やかに宙を舞う1つの影。
その影の主は、マドリード出身のダニー・レオンさんだ。彼は東京とパリの2回のオリンピックに、スペイン代表として出場しているプロスケートボーダーである。
レオンさんはこの一瞬とも言える短い映像のために、1年以上前から構想を練り、場所を探し、専用のランプまで用意して、この瞬間に挑んだのだそうだ。
イベリア半島で1世紀以上ぶりの皆既日食
この映像は2026年8月12日、スペインで見られた皆既日食を舞台に撮影されたものである。
今回の日食の皆既帯(皆既日食が見られる細い帯状の地域)は、北極圏から始まり、グリーンランド・アイスランドを経由して、スペインを西から東へ横断した。
スペインでは本土の北半分の大部分とバレアレス諸島で、日没に近い時間帯に皆既日食が観測されたのだ。
スペイン国立地理院(IGN)によると、この日の皆既日食はイベリア半島で見られるものとしては、なんと1世紀以上ぶりだったという。
その日食を背景に撮影を行おうとダニーさんたちが選んだ場所は、スペイン北東部、アラゴン州ウエスカ県のノバレスである。
今回の企画に参加したのはダニーさんのほか、「JaiCano[https://www.jaicano.com/]」として活動する写真家のホセ・アンヘル・イスキエルドさんらのチームだった。
そして下の動画が、今回彼らが撮影した「世紀の瞬間」の映像である。
太陽、月、そして皆既日食へ
ダニーさんとホセさんが、天体を背景にしたスケートボードの写真を撮影するのは、実は今回が初めてではない。
2025年4月には、沈む太陽を背景にした撮影を行っている。
ダニーさんは当時の撮影について、こう振り返っている。
太陽が沈んで、どんどん低くなっていったので、本当に秒単位の勝負でした
さらに2026年4月には、満月を背景にした撮影にも挑戦した。このときダニーさんとホセさんは約500m離れ、イヤホンを使った通話で位置を調整。
ダニーさんはイヤホンを通して、「もっと左」「もっと右」といったホセさんの指示を受けながら、ジャンプを繰り返したのである。
月は数分で狙った位置から移動してしまう。天体を相手にした撮影は、いつも時間との闘いでもあったのだ。
そして沈む太陽と満月に続く次の挑戦として彼らが選んだのが、2026年8月12日の皆既日食とういうわけなのだ。
ダニーさんは、日食を使った撮影のアイデアが生まれたのは1年以上前のことだったと語っている。そして2026年4月から、具体的な準備に取りかかったという。
準備は慎重に行われた、まず、ホセさんがアプリを使って太陽の位置を調べ、狙った構図で撮影できる場所を探した。
その結果見つけたのが、今回の舞台となったノバレスにある私有地で、土地の所有者から許可を得て撮影場所に決定したんだとか。
この場所にはスケート用の設備がなかったため、スケートパークやランプの設計・製作を手がけるスペイン企業「SB RAMPS」が撮影用のランプを用意した。
ランプとは、スケートボードで斜面を駆け上がり、ジャンプやさまざまな技を繰り出すための設備のことだ。
日食前日の8月11日には現地でランプを組み立て、夕方の太陽に合わせて位置などを調整した。
この撮影地点で皆既となるのはわずか30秒
千載一遇のチャンスに、失敗は許されない。そのためダニーさんは、当日の朝早くから練習を行い、19時からは部分食が進む中でジャンプと撮影を繰り返した。
朝の7時から10時まではトレーニングとテストをしていました。その後朝食をとり、17時までには全員が揃って、何が起こっても対応できるように準備を整えました。
1時間トレーニングした後、さらに1時間休憩し、19時にスタート。21時半にすべてが終わるまで、休みなくトレーニングを続けていました
さらに、皆既となる時間内に何回「トリック」を決められるのかも、事前に計測していたという。
ここでいう「トリック」とは、ジャンプや回転など、スケートボードで繰り出すさまざまな技のことである。
皆既日食は観測地点によって、その継続時間が異なる。今回の日食では、アイスランド付近で継続時間が最長2分18秒に達した。
だが、ダニーさんたちが選んだノバレスのこの撮影地点で、月が太陽を完全に覆う皆既の状態が続くのは、わずか30秒程度だった。
長い準備の末に迎えたこの30秒について、ダニーさんはそのプレッシャーをこう振り返っている。
ここでは絶対に成功させなければならないという責任がありました。トリックを失敗するわけにはいかないし、すべてを完璧に決めなければなりません。もう自分の動きだけの問題ではなく、写真と映像もかかっていたからです
ただし、本人の話によると、東京とパリのオリンピックに出場したときの方が、はるかに大きなプレッシャーを感じたそうだ。
皆既日食を背にしたトリックの撮影に成功
そして皆既の瞬間がやってきた。ダニーさんは太陽が完全に隠れた約30秒の間に、3回のトリックを行った。
そのうち2回は、太陽の円周にごくわずかな光が残っていたが、1回は月が太陽を完全に覆った状態とピタリと重なった。これがSNSで広く拡散した写真である。
ダニーさんは、この渾身の1枚以外にも、異なる姿勢で撮影された写真があることを明かしている。
皆さんがご覧になった、あの話題になった写真は、僕がやった3つのトリックのうちの1つです。
ほかには、例えば逆立ちのような姿勢になって、ランプの上で完全に上下逆さまになっているものもあります。
こんな写真を撮れたなんて、本当にすごいことです
世界中が見た日食を、本人だけは見られなかった
こうして皆既日食とスケートボードを重ねた写真と映像が完成したわけだが、実は当のダニーさん自身は、この世紀のスペクタクルをその目で見ることができなかったそうなんだ。
皆既になると周囲は暗くなり、さらに突然風も吹き始めた。ダニーさんはランプと自分の動きに集中しなければならず、日食を見る余裕はなかったという。
見逃してしまいました。何も見えなかったんです。
辺りは真っ暗になり、ほとんど何も見えない状態で滑らなければなりませんでした。そこへ突然、強いまで吹き始めて、さらに困難な状況になりました。
日食は僕の右側だったんですが、僕はただランプをまっすぐ見て、トリックに集中していました。
照明を2つ設置していて、そちらを見たらもっと目がくらんでしまうので、プラットフォームの方向にある地面だけを見ているしかなかったんです
あの巨大な黒い太陽を背に飛んでいた本人は、その光景を実際に目にすることなく、ひたすら目の前のランプに集中していたのである。
「人生で一番のトリック」が世界中に拡散
ダニーさんは完成した写真と映像を、自身のSNSで公開した。この投稿は瞬く間に世界中へ拡散し、翌8月13日にはInstagram[https://www.instagram.com/p/Db89wBgRB3B/]の投稿は1億回以上再生され、「いいね」は1000万件を超えていた。
その投稿のキャプションには、次のように書かれていた。
EL TRUCO DE MI VIDA: ECLIPSE MODE!
(人生で一番のトリック:日食モード!)2度あることは3度あります。まず太陽、次に月、そして今日はこの日食で歴史を作ることができました。
これを可能にしてくれたチームの全員に感謝します
なお、次の皆既日食は2027年8月2日に起こり、スペイン南部から北アフリカ、中東にかけて観測できる。
ダニーさんたちが、再び皆既日食を背景に撮影するつもりかどうかは、今のところ明らかにされていない。
一方で、日本で次に皆既日食を見られるのは2035年9月2日。関東北部から能登半島にかけて皆既帯が通る予定だ。
まだしばらく先の話だけれど、皆既日食を狙って何かやりたい!という人は、早めに準備をしておくといいと思う。
References: Watch: Olympic Skateboarder Times Perfect Jump With Solar Eclipse[https://www.ndtv.com/offbeat/watch-olympic-skateboarder-times-perfect-jump-with-solar-eclipse-11903462]











