Mrs.GREEN APPLE、藤井風、サカナクションからHANA、M!LK、=LOVE(イコラブ)など、日本を代表するトップアーティストが集結し、華々しい授賞式を繰り広げたMUSIC AWARDS JAPAN 2026(以下、MAJあるいはミュージックアワード)。ところが、この日本最大級の音楽祭に、誹謗中傷動画問題渦中の高市早苗首相が出席し、非難の声が殺到している。
6月12日夜、都内で行われたMAJの前夜祭(Gala Party)。司会のクリス・ペプラーが「Ladies and gentleman please welcome, Prime Minister Takaichi Sanae!(みなさん、高市首相をどうぞお迎えください!)」と声をかけると、会場からは拍手が巻き起こり、満面の笑みを浮かべた高市首相が登場。「みなさまー、こんばんは」と例のハイテンションで挨拶し、「みなさまとともに、力を合わせて、日本の音楽を世界の高みに押し上げてまいりましょう」「グローバルマーケットをなんとしても獲得してまいりましょう」などと語った。
「日本スゴイ」的な文脈でしか音楽を語れない薄っぺらなスピーチ内容もさることながら、音楽ファンにとっては首相の登壇そのものがありえないことだったようで、SNSでは、驚きと同時に嘆き、批判、不満の声があふれている。
なかでも多かったのがやはり「音楽の政治利用」をした高市への怒りと、それを許したMAJへの失望だ。
〈音楽アワードを政治利用するなよ〉
〈こんなん出るんだったら定例会見しろ!! あと、音楽に政治介入するな!!〉
〈権威におもねる音楽はださい 音楽を政治利用する政治家は悪〉
〈MAJ、高市が出てきた時点でゴミになってしまった〉
〈高市が出た時点で政治的祭典になってしまった 2回目にしてオワコン #MAJ〉
〈MAJ、高市を呼んでるのガチで文化的センス無し〉
〈高市のMAJスピーチ登壇もムカつくわ本当 音楽を好きな気持ち、とかアーティストが作ってきた全てを「自分らの手柄」「自分らの資源」みたいに使えると思っとんねん 本当に音楽が好きなら首相の責任として台湾有事への発言を謝罪して、コンサートの取りやめとか防いでくれたらよかったやん〉
〈ミュージックアワードジャパンってやつらしいんですが、前夜祭とはいえ普通に高市呼んでるのどういうセンス?どういうつもりで?となる。こいつの発言のせいで公演飛んだアーティストはたくさんいたし、そもそもこいつは表現の自由の敵(これに関しては明確に「敵」だろう)なんですが…?〉
アーティストがトランプ政権に批判的な声をあげているアメリカの音楽界と比較する声も少なくなかった。
〈Music Aword Japan というのが開催されて高市が出てきて グローバル産業が云々言ったことを知る グラミー賞にトランプが出てきたら 辞退者続出だと思うよ〉
〈本家のグラミー賞では、アーティストがトランプ政権批判スピーチするのに、日本は逆に高市総理がスピーチしました。 政府が協力して、総理大臣が出席する音楽賞に価値は感じられません。〉
もちろん、高市に政治利用されたアーティストたちやファンの複雑な思いを代弁するような投稿もあった。
〈授賞式に呼ばれたアーティストの中にも高市が出てきて「こいつマジか」ってなった人いるんやろな、気の毒よな〉
〈高市が某アワードに出てきた件ほんとに反吐が出るんだけど、そこに集まったアーティストの人たちは事前に知らされていたんだろうか。騙し討ちで政治に利用されて平気?〉
〈高市のMAJスピーチ登壇もムカつくわ本当 音楽を好きな気持ち、とかアーティストが作ってきた全てを「自分らの手柄」「自分らの資源」みたいに使えると思っとんねん 本当に音楽が好きなら首相の責任として台湾有事への発言を謝罪して、コンサートの取りやめとか防いでくれたらよかったやん〉
〈高市が来てプロパガンダに使われるってわかってたらあんな賞見向きもしなかった 純粋に頑張った各アーティストのファンの気持ち全部踏みにじって汚した 本当に最低〉
なかにはミュージックアワードや日本の音楽界にそもそもの政治忖度体質があるという鋭い指摘。
〈ミュージックアワード見てて感じた違和感は、「国策」感だ。 日の丸デザインで高市出てるアワードに表彰されて喜ぶ海外のアーティストはいるんだろうか?北朝鮮の祭典みたい…。クールジャパンは失敗がはっきりしたのに。〉
〈音楽で大東亜共栄圏みたいに見えてしまう某アワード。高市がスピーチしたとかで気持ち悪いし、そういえば複数の音楽団体で自民党応援みたいなことが前段としてあったなと。〉
たしかに、MAJは、今年3月まで文化庁長官だった作曲家・都倉俊一が旗振り役となり、日本レコード協会、日本音楽事業者協会など5つの音楽団体によって、昨年から始まった国際音楽賞。文化庁や経産省も「協力」に名を連ねている。そこに、自己宣伝として「音楽好き」をやたらアピールしたがる高市首相が乗っかってきたということだろう。
そういう意味では、今回の高市首相のMAJ政治利用は、日本の音楽業界が抱える問題点を映し出したともいえるかもしれない。
少し前、小泉今日子のライブで憲法9条の朗読音源が流れたことについて、小泉が「政治的」などと理不尽な猛バッシングを受けたように、日本ではアーティストが政権批判をすると「政治的」などとバッシングを受ける。
そのため、ミュージシャンや芸能人の多くは自分の身を守る為に「政治について意思表示しない」「政治から距離をとり続ける」という姿勢をとり続けてきた。
しかし、それはアーティストたちが完全に政治と無関係でいられるということにはならない。
本サイトでは、コロナ禍の緊急事態宣言でステイホームが呼びかけられていた2020年4月に、星野源が「うちで踊ろう」という楽曲をSNSにアップしコラボレーションを呼びかけた際、当時の安倍首相がその星野のコラボ企画に乗っかった問題を取り上げ、音楽の政治利用について検証した。
以下に、その記事を、再録するので、ご一読いただき、政治家による音楽の政治利用、音楽と政治について、あらためて考えていただきたい。
(編集部)
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●安倍首相に利用された星野源がエッセイに書いていた“音楽が政治に利用される危険性” 「X JAPANを使った小泉純一郎のように」
安倍首相が星野源のコラボ動画に乗っかった問題。星野源が「うちで踊ろう」を歌う画面の右側で、ソファに座った安倍首相が黒い犬とじゃれ合ったり、マグカップで飲み物を飲んだり、ネトウヨ本か何かわからないが本を読んだり、テレビをザッピングしたり、と優雅にくつろぐ……。新型コロナウイルス感染拡大が止まらないなか、感染の恐怖に怯えながら医療現場や生活インフラを維持するために働いている人びとや、補償なき休業要請のため生活が困窮している人びと、感染し症状に苦しんでいる人びと、多くの人間が苦しい生活を強いられているなか、一刻も早くその対策を打ち出すべき立場にある安倍首相のこの所業には、一夜明けても、「何様のつもり!」「貴族か!」「ルイ16世か!」と怒りと批判の声が止まない。
そんななか、星野源が自らのインスタグラムのストーリーで、安倍首相の動画についてコメントした。
〈ひとつだけ。
安倍晋三さんが上げられた“うちで踊ろう”の動画ですが、
これまで様々な動画をアップして下さっている
沢山の皆さんと同じ様に、
僕自身にも所属事務所にも
事前連絡や確認は、事後も含めて
一切ありません。〉
安倍首相からの連絡や確認は一切なし。まさかとは思っていたが、安倍首相はやはり勝手に便乗、政治利用していたというわけだ。
しかも、このストーリーでは、ミュージシャンや芸能人、一般の学生などが投稿したコラボ動画をアカウトと合わせて紹介、星野からの感謝のコメントや動画に対するコメントも付けている。
ハッキリ言葉として表明しているわけではないが、星野にとって、今回の安倍首相による「うちで踊ろう」の政治利用が不本意だったことは明らかだろう。
この安倍首相による星野源の政治利用をめぐって、12日夕方頃から星野のある文章が、ツイッター上で注目を浴びている。
実は、星野源はかつてエッセイ集『働く男』(2013年発行、マガジンハウス/2015年発行、文春文庫)のなかで、音楽が権力者に利用されることの危険性について指摘していたのだ。
〈今でもたまに、「音楽で世界を変えたい」と言う人がいる。僕は「音楽で世界は変えられない」と思っている。無理だ。音楽にそんな力はない。他の業界に比べて音楽業界は夢見がちな人が多い気がする。スタッフには「元ミュージシャン」とか表舞台に名残がある人も多いから、社会性のない人も多い。
そんなもんは戯れ言である。国を変えるのはいつでも政治だし、政治を変えるのはいつでも金の力だ。そこに音楽は介入できない。できたとしても、X JAPANの楽曲を使って型破りというイメージを定着させた小泉純一郎のように、ただ利用されるだけだ。
でも、音楽でたった一人の人間は変えられるかもしれないと思う。たった一人の人間の心を支えられるかもしれないと思う。音楽は真ん中に立つ主役ではなく、人間に、人生に添えるものであると思う。〉
そう。星野はかつてX JAPANが小泉純一郎首相に利用されたことを例に出して、「音楽はただ政治利用されるだけだ」とシニカルに語っていたのだが、今回、まさに自分自身がまんまと安倍首相に利用されたのだ。
実際、安倍首相はAKB48や吉本興業、ニコニコ動画、オタクカルチャーとの蜜月、SNS戦略などに顕著なように、小泉純一郎よりもはるかに巧みに芸能人や若者文化をイメージ戦略に利用してきた。
今回も、星野がこのムーブメントに込めた思いとは関係なく、補償や給付をしない政権への批判をかわすために、星野の“ふわっとした”“いい感じ” といったイメージを利用して、自分のイメージアップをはかったのだ
まったく卑劣極まりないし、危惧していたのに利用された星野はさぞかし忸怩たる思いを抱いたはずだ。
しかし、これは同時に星野自身のスタンスが招いたものでもある。なぜなら、政治に利用されるのは、常に「政治を忌避し距離をとろうとする者たち」「自分は政治と関係がないというポーズをとる者たち」だからだ。それは、この間、安倍首相にまんまと利用されてきた芸能人たちの顔ぶれを見れば明らかだろう。
星野は、上述したように、エッセイで、「音楽で世界は変えられない」し、「国を変えるのはいつでも政治」だが、「音楽でたった一人の人間は変えられるかもしれない」と言い、実際、「政治」を忌避し距離を取るというスタンスを明確にしてきた。
しかし、政治と距離を置くことなど、本当に可能なのか。たったひとりの生活に寄り添い、人生を後押しするということだって、政治とは無縁ではいられない。うちで踊るには、本当は、まずうちで踊れるような環境を政治が整えないと、うちでは踊れない(今回そのまさに整えるべき立場にある総理大臣が、それをせず「うちで踊ろう」とやったから、批判を受けているのだ)。
表現者がそのことを自覚し、その政治性から逃げずにいれば、政治勢力と確信犯的につながることはあっても、政治に利用されることはない。
そして、政治と無縁ではいられないにもかかわらず、個人の生活を徹底的に政治と切り離すポーズをとることは、逆に、政治に利用され、政治の問題点を見えなくする役割を担わされる。
星野はまさに後者だった。この間、SNS上で大きな話題になったムーブメントは、医療従事者にみんなで拍手を送るとか、世界中で星野源の動画以外にもいくつもある。
ようするに、星野は政治性を忌避してきたことで、逆に安倍政権に「こいつは使える」となめられ、道具にされたということだ。
しかし、星野はこの状況になってもまだ、政治から距離を取ろうとするポーズを変えていない。これだけ自分の意図と違うかたちで利用されたのに、「安倍晋三さんから連絡は一切ありません」と表明するのが精一杯で、「みなさんに自由にコラボしてほしかったですが、安倍さんにだけはコラボして欲しくなかった」と批判もせず、「補償もお願いしますね」とひと言釘を刺すことすらしなかった。
イベント中止に追い込まれている音楽業界のみならずこれだけ多くの人間がそれこそ“右も左もなく”補償を求めているなかで、その程度のコメントで、別に政治的とかイデオロギーとか、たいしたハレーションが生まれるとも思えない。無料で勝手に人の楽曲を利用したんだから、それくらい言ったって誰も文句は言わないだろう。
しかし、安倍官邸は、星野源が絶対にそんなこと言ってこないとタカをくくっていたに違いない。だから、あのコラボに安心して乗っかったのだ。
そして、案の定、星野は安倍首相を真っ向から批判しなかった。その結果、安倍官邸はまったく反省しないまま開き直っている。菅義偉官房長官は「若者の新型コロナ感染が非常に多く、(外出自粛を)訴えるために、配信は極めて有効だと思う」「過去最高の35万以上も『いいね』をいただいて、多くの人にメッセージが伝わった」と強弁した。
そういう意味では、今回の安倍首相による星野源コラボ動画乗っ取り事件は、国民の窮状なんかつゆほども考えていない安倍首相の”貴族“ぶりや、官邸の狡猾なイメージ操作の手口を暴露しただけではない。「政治について意思表示しない」「政治から距離をとり続けている」という姿勢に内包されているリスクを表現者に突きつけたと言えるだろう。

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