「バナナを頭に思い浮かべてください」。こう言われたとき、多くの人は過去に見たことがあるバナナの色や形をイメージするのではないでしょうか。

しかし中には、頭の中でイメージを浮かべることができない人が存在します。

こうした状態は「アファンタジア」と呼ばれ、日本人の約4%にこの特性があるとも言われています。

視覚的なイメージが頭に浮かばないというのは、いったいどのような状態なのでしょうか。自身もアファンタジアである記者が、この特性がありながらも絵を描くことに挑戦している女性を取材しました。

「見たものをイメージしようと思っても見ることができない」

日本人の約4%?「見たものを頭の中でイメージできない」アファ...の画像はこちら >>

色鮮やかな羽を細かく描き込んだハチドリ。いまにも水の中の魚を捕らえに行きそうなカワセミ。

その絵を描いたのは、大阪府吹田市に住む主婦の瀬戸口友里子さん(48)です。

(瀬戸口友里子さん)「絵を描く人が見たら『変な描き方しているな』って思われないかな」

瀬戸口さんの絵の描き方にはある特徴があります。スマートフォンに映った鳥の写真を見て色鉛筆で細かいところまで忠実に描いていきます。

日本人の約4%?「見たものを頭の中でイメージできない」アファンタジア 母の似顔絵が描けなかった女性が“写真を見て描く絵”で個展「人との違いを楽しみたい」【当事者の記者が取材】
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(瀬戸口友里子さん)「何かイメージ…例えば赤いリンゴとか、鳥でもいいんですけど、見たものをイメージしようと思っても見ることができない。私の場合はアファンタジアなので観察して描くのは得意なんですけど、何も見ないで描くのはすごく難しい

リンゴを思い浮かべても…頭の中は“真っ暗”

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瀬戸口さんのいう「アファンタジア」とはどういうものなのでしょうか。

例えばリンゴを思い浮かべてみてください。木になっているリンゴや店頭に並べられたリンゴ、中にはカットされたリンゴが思い浮かんだ人もいるかもしれません。

しかし、多くのアファンタジアの人の頭の中はほとんど真っ暗だといいます。

頭の中をディスプレイに例えると多くの人はそこにリンゴが浮かびますが…アファンタジアの場合はディスプレイの電源がオフになっているかのように画像が映らない状態だと説明する人もいます。

ただ、画像にはならなくてもリンゴが赤い、丸い、甘いといった情報は記憶しているためリンゴがどういうものかは分かります。

“お母さんの似顔絵が描けない”工作や絵が苦手だった幼少期

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今は美しい絵を描くことができる瀬戸口さんですが、幼いころは工作や絵を描くのが苦手だったといいます。

(瀬戸口友里子さん)「動物園に行ってゾウさんを見ました。で、次の日や翌週に『ゾウさんを粘土で作ってみましょう』と言われると、もうわからないんですよね。粘土の形を変形させるのが怖くて、四角いままで『どうしよう』みたいな感じですごく困っていた記憶があって。
「絵を描くのも、母の日の『お母さんの顔を思い出して似顔絵を描いてみましょう』とか『運動会で何か記憶に残っているシーンを描きましょう』というようなときには何も浮かばなくて。だからみんなが描けるのが不思議で仕方がなかったですね」

瀬戸口さんは2年前、偶然インターネットで「アファンタジア」という言葉を知りました。その時に多くの人が頭の中にイメージを思い浮かべることができると知って驚いたといいます。

(瀬戸口友里子さん)「みんな私と同じだと思っていたから、それが少ない(少数派)って知って。めちゃくちゃびっくりして、世界がひっくり返ったぐらいの衝撃でした」

聴覚や味覚がイメージできない人も そのメカニズムは未解明

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アファンタジアは2015年に提唱されたばかりの新しい概念です。

認知心理学などの専門家らが研究を進めていますが、アファンタジアの人は少なくないといいます。

Qどれくらいの人がアファンタジアだとみられている?
(福島大学・高橋純一教授)「基準にもよるんですけど、アンケート調査をすると大体4%という数値が得られることが分かっています」

ただ、アファンタジアだと明確に判定する基準やどのようなメカニズムなのかはまだわかっていません。一方で、アファンタジアは生まれつき持った特性であることが多く、視覚以外の感覚についてもイメージが浮かばない人がいることが分かってきています。

(福島大学・高橋純一教授)「視覚も聴覚も味覚も触覚も他の感覚もあるんですけど、全て浮かばない人もいるし、視覚だけが浮かばない人もいる」

撮影の仕上がりをイメージできない…でも先輩の評価は?

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取材した日、瀬戸口さんは以前働いていたガスコンロメーカーの先輩・金岡千嘉さんのもとを訪れました。18年前、2人でダッチオーブンを使ったメニューを紹介する料理本を制作しました。

しかし、料理の写真撮影の際に仕上がりをイメージできない瀬戸口さんはうまく準備ができなかったといいます。

(瀬戸口友里子さん)「どんなお皿にのせて、どんなクロスに合わせたら映えるのかとか、そういったことをイメージするのがすごく苦手だった」

一方で、先輩の金岡さんは考案したレシピ通りに料理が作れるかどうかや文章の誤りを丁寧にチェックする瀬戸口さんの仕事ぶりを覚えていました。

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(金岡千嘉さん)「撮影で迷惑をかけたとか、役に立たなかったとあなたは思っているけど、失敗したとき、できなかったのはなぜだろうかとか、そういうことを考える能力はすごく高かったですよ」

瀬戸口さんはイメージを思い浮かべることはできませんが、別の長所で仕事に貢献していました。

約3年前に絵を描く楽しさに気づく そして個展開催へ

絵を描くことが苦手でしたが、約3年前、友人が撮った写真をもとに絵を描き始めたところ、その楽しさにのめり込んでいきました。

(瀬戸口友里子さん)「写真を見て描いたらちゃんと描けるというのが自分の中で満足していて、せっかく描けるならもっといろいろ挑戦してみたいなと」

そして6月、瀬戸口さんはこれまでに描いた絵を集めて個展を開くことにしました。

日本人の約4%?「見たものを頭の中でイメージできない」アファンタジア 母の似顔絵が描けなかった女性が“写真を見て描く絵”で個展「人との違いを楽しみたい」【当事者の記者が取材】
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特にこだわったのは絵の「説明書き」です。

(瀬戸口友里子さん)「自分が絵を見るときに、絵からよりもそこに説明書きがあるほうが、そこからの情報をもらえて初めて絵が楽しめる。絵を見るときのヒントや参考になるようにつけてみました」

絵を見た人が”どんな想像をしたか”を聞くのが楽しい

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個展初日。吹田市にあるサロンの前に看板が置かれました。午前10時のオープンとともに多くの人がやってきました。

反応は上々。頭の中でイメージを膨らませることができない瀬戸口さんですが、絵を見た人たちがどんな想像をしたかを聞くのが楽しいといいます。

(絵を見た人)「この周りの景色が浮かぶ感じ」
(瀬戸口さん)「周りの景色が浮かぶ?」
(絵を見た人)「絶対木の上にいるから、それこそ低い位置にいる感じがする。

これ(カワセミの絵)なら絶対空からじゃないですか、飛んでいるから。空から水に向かう感じが浮かぶ」
(瀬戸口さん)「周りのイメージか全くないわ」

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(瀬戸口友里子さん)「羨ましいのとうれしいのと、ちょっと入り混じったような気持ちで、そういった感想を聞けることが私もすごく刺激になるので、楽しい。これからもアファンタジアについてはあまり深刻に考えるのではなくて、どちらかというと違いを楽しむ、ポジティブな感じで言葉が広まっていったらいいなと思います」

【取材後記】高校生のときに自分が「アファンタジア」だと知り…(MBS記者 太田愛美)

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「アファンタジア」という言葉が出たのは2015年。それから2年後、高校生だった私は、友人との会話の違和感からインターネットで調べてこの言葉に辿り着き「自分もアファンタジアなのではないか」と感じました。

今回取材した瀬戸口さんは自分がアファンタジアだと知って、その違いを面白いと思えたということでした。ただ、高校生だった頃の私は、頭の中でする「イメージ」に強烈な憧れを抱いていました。「カメラアイ」「記憶の宮殿」「共感覚」などさまざまな言葉を調べました。

アファンタジアが病気でも障害でもないなら、自分はいつか“イメージできる側”になれると思っていたのです。

私は、視覚だけではなく、嗅覚も聴覚も触覚もイメージすることができません。瀬戸口さんと同じように家族や親しい友人の顔は思い浮かばないし、旅行に行ったときのキレイな景色や美味しい料理も思い返すことはできません。頭の中に音楽が流れることもありません。

ただ「景色がキレイだったな」「料理が美味しかったな」「この曲好きだな」と思った記憶だけが残ります。

そう考えると、やはり、イメージできる人を羨ましいという気持ちは今もあります。しかし、私の場合は日常生活や仕事で困ることはありませんでした。なぜなら、生まれた時からイメージができないので、そもそもイメージを使って何かを取り組むことがないからです。

それでも今回、「アファンタジア」という言葉が広く正しく知られてほしいと思い、取材しました。

まずは自分がアファンタジアだと気づいていない人が気づくきっかけになってほしいと思っています。「どうしてほかの人と同じようにできないのだろう」などと悩んでいる人がいたら、私たちにはできること、できないことがあると知れば、工夫したり、思い切って環境を変えれば、うまくいくこともあるかもしれません。

そして、周りの人は当事者に同情したり、偏見を持ったりせず、当事者が「私はイメージすることが苦手です」と言いやすい社会が、いつか実現すればアファンタジアの人はより生きやすくなると思います。

「アファンタジア」は現在、障害でも病気でもありません。誰もが適材適所で力を発揮できるようになってほしい。特に教育現場などでは、できないことに対して「なんでできないの」「やりなさい」と言うのではなく、どうやったらやりやすいのか、1人1人が考え、模索することが大切だと思います。そして、今回の取材が、そうしたことを考えるきっかけになれば幸いです。

(2026年7月3日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特集』より)

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