個人投資家は普段、証券会社を通じて株式を売買している。そこで1つ、ふとした疑問がある。
この疑問について、答えのカギを握っている機関がある。証券保管振替機構、通称「ほふり」だ。今回は、ほふりの小泉さんと齊藤さんにインタビュー。知っているようで知らない、購入した株式の行方を追った。
株券が「電子化」された今、ほふりが担う役割
かつては株式を購入すると、紙の株券が与えられた。株券とは、株式の保有を証明するものであり、株主の名前や保有株式数などが記されていた。昔は株式の売買が行われるたびに、株券に記している株主の名義などを書き換えていたのである。
「しかし現在、紙の株券は廃止され、すべて電子化されています。具体的には、『振替制度』という仕組みのもとで、電子的な帳簿で記録されています。私たち“ほふり”は、この振替制度を運営しており、日本で発行されている上場株式は、ほふりが電子的な記録として保管しているのです」
私たちが購入した株式の行方について、小泉さんはそう説明する。
株券が電子化されたのは、2009年のこと。
しかし、「紙は紛失や盗難、偽造といったリスクがあります。また売買が成立するたびに名義を書き換える必要もあり、効率面でも課題がありました」と、齊藤さんは話す。そこで全面的な電子化を行い、現在の振替制度で運用されるようになった。
ちなみに、株式だけでなく、社債や投資信託など他の有価証券でもすでに電子化が行われている。むしろ、社債などの商品から段階的に始め、最後に株式に着手したという。株式はもっとも件数が多く、電子化には労力も時間もかかるためである。それほど難しいプロジェクトだったのだ。
証券会社、取引所、ほふり……それぞれの関係
投資家が株式を購入した時、ほふりではどのような処理が行われるのだろうか。たとえばA銘柄を100株購入する場合、まず投資家が証券会社を通じて注文を出す。次に、その注文を受けて取引所で売買が成立する。すると、その情報がほふりへ送られ、株主の権利が売り手から買い手へと移される。
「ただし、ほふりが日常的に管理しているのは、個々の投資家ごとの株数ではなく、証券会社ごとの株数です。A銘柄を100株購入した時、誰が買ったかという証券会社の先にいる投資家の情報までは把握していません。あくまで証券会社ごとの保有株数を把握しています。誰から誰に株式が移ったかではなく、どの証券会社からどの証券会社へ移ったかを記録しています」(小泉さん)
一方で、株式を発行している上場会社(発行会社)は、定期的に株主を確定させ、株主名簿を作成するタイミングがある。「基準日」と呼ばれるもので、配当金や株主優待の手続き、株主総会の通知などのために行われる。この時については、誰がどの株を保有しているかという個人レベルの情報をほふりが各証券会社から収集し、発行会社に送る。
なお、投資家の中には、同じ銘柄の株式を複数の証券口座で保有しているケースもあるだろう。A銘柄について、B証券の口座で100株、C証券の口座で200株持っているという形だ。
「この場合、ほふりでは同一人物の株数を合算する“名寄せ”を行っており、その方が該当銘柄を合計で何株持っているか、すべてトータルした情報を発行会社に通知していきます」(齊藤さん)
ほふりでは株式だけでなく、社債や投資信託、ETF、REITなど、多くの有価証券の取扱いを行っている。国債は日本銀行が管理しているものの、それ以外の主要な有価証券については、ほふりが関わっている。同社のような、有価証券の権利を管理する“振替機関”は「日本で唯一」となっている。
遺族の証券口座が分からない時は、ほふりに連絡を
ほふりには、私たちの“困りごと”を直接助けてくれる機能もある。その1つが「開示請求」だ。
たとえば家族が亡くなった時、「生前に株を持っていたらしいが、どこの証券会社に口座を開設していたのか分からない」と困るケースは少なくない。そんな時、ほふりに開示請求を行うと、故人の口座が開設されている証券会社を確認することができる。先述したように、上場会社(発行会社)が株主名簿を作るために、ほふりにおいて個人と証券口座の記録を登録している。その情報をもとに開示を行うのだ。
「私たちがお伝えできるのは、『その方がどの証券会社に口座を開設しているか』の情報のみですが、それでも、証券会社が判明すれば、そちらに問い合わせることで手続きなどを進められます」(小泉さん)
開示請求の方法や費用については、ほふりのホームページに詳しく記載されている。必要な人はそれを見るとよいだろう。なお近年は、開示請求の問い合わせ件数が増加傾向にあるとのこと。オンラインの証券口座が増えたため、故人が生前どの証券口座を使っていたのか、遺族が把握できないケースが増えているのかもしれない。
これからも続ける、「市場を止めない」努力
より円滑な取引を実現するため、ほふりではさまざまな改善を行っている。たとえば株式市場では、売買が成立(約定)してから実際に株式が受け渡されるまでに一定の期間が設けられている。現在、日本では約定から2営業日後に受け渡しが行われる仕組みだが、この期間は市場全体で効率化を進める中で、少しずつ短縮されてきた。
「ほふりだけの取り組みではありませんが、市場参加者の皆さまと連携しながら、マーケット全体で期間の短縮を進めてきました」(小泉さん)
一方で、こうした効率化以上に重要なのが「市場を止めない」ことだ。株式市場は、一日たりとも止めることができない社会インフラ。自然災害やシステム障害などの事態が起きても、市場を止めず、投資家が安心して取引できる環境を維持しなければならない。
ほふりでも、そのための仕組みの構築に注力し続けている。
「日本は災害の多い国です。だからこそ、どんな状況でも止めない体制を作ることが重要だと考えています。実際に、当社でもシステムのバックアップ拠点を設け、メイン拠点で有事が起きた場合も、サブ拠点で運用を継続できる体制を敷いています」(小泉さん)
証券市場のインフラを支える、ほふり。その存在を知る人は、決して多くないかもしれない。しかし、ほふりの名前を知らないのは「何も問題が起きていないからでもあり、それは私たちにとって望ましい状況ともいえます」と、齊藤さんは明るい表情で伝える。これからもほふりは、市場の裏側で、静かに、しかし重要な役割を全うしていく。
※記事の内容は2026年7月現在の情報です
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

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