「バニラの花は、わずか数時間しか咲かない」
 そう聞くと、少し意外に感じるかもしれません。
 私たちが普段口にしているバニラの香りですが、その背景には、想像以上に繊細で手間のかかる工程があります。

 バニラは自然に実をつける作物ではありません。人の手による受粉が欠かせません。
 しかも花が咲くのは年に1度、そしてわずか数時間です。その限られた時間の中で、一つひとつ丁寧に受粉を行います。
 多い時には何千もの花が一斉に咲くため、一つでも多く実につなげるための集中力とスピードが求められます。
 さらに、収穫しただけでは、あの甘い香りは生まれません。
 発酵・乾燥・熟成を重ねる「キュアリング」という工程を経て、半年ほどかけて少しずつ香りが引き出されていきます。
 温度や湿度によって仕上がりは大きく変わるため、毎日の細やかな管理が欠かせません。少しずつ香りが立ち上がってくる瞬間には何度経験しても喜びを感じます。
 こうした工程を経て完成した読谷バニラは、この6月28日に開催される「シェフ・オブ・ザ・イヤー・オキナワ2026」決勝大会の食材の一つとして採用されることになりました。
 県内トップクラスのシェフの皆さまが、この香りをどのような一皿として表現するのか、私自身も今から楽しみにしています。
 私自身、パティシエとして働いていた頃は、バニラの背景を深く意識することはありませんでした。

 しかし作る側になった今、その一本に込められた時間と手仕事の重みを強く感じています。
 何げなく使われている一本にも、多くの人の手が加わり、時間が積み重なっています。
 その背景ごと味わっていただくことで、読谷バニラの香りが、少し特別なものとして感じてもらえたらうれしく思います。そして、その香りが誰かの記憶に残れば幸いです。
(読谷テロワール代表取締役)
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