※本稿は、小林義昭『「やること多すぎ世代」の快眠図鑑 忙しくても“自然と眠れる”ルーティン50』(小学館クリエイティブ)の一部を再編集したものです
■眠ることへの駆動力「睡眠圧」
× 一日中デスクワークで座りっぱなし
◯ 日常に“ながら運動”を取り入れる
眠気は概日リズムに加えて、「睡眠圧」というものによってもたらされます。睡眠圧は“眠ることへの駆動力”と言い替えることもでき、それは起きている間、脳内にたまるアデノシンの量によって高まります。 アデノシンは細胞内にあるエネルギーの素「アデノシン三リン酸(ATP)」が消費された後にできる代謝物質ですが、このATPを最も消費する、つまりアデノシンを多く生成するのが、全身の骨格を動かす骨格筋なのです。
仕事などで座りっぱなしになると、骨格筋を動かすことがほとんどなく、アデノシンの生成が十分ではなく、夜になっても睡眠圧が高まりません。
アデノシンの量を増やすための理想的な運動は有酸素運動で、実際、運動が睡眠の質を高めることや入眠をスムーズにすることは数多くの研究で報告されています(※1~3)。 不眠に悩む患者を対象としたドイツの研究では、週2回のノルディックウォーキングなど(もしくは同程度の強度の運動)を行った結果、1週間後から睡眠の質が改善したことが報告されたそうです(※4)。 とはいえ、「忙しくてそんな時間はない」という人も多いでしょう。
■「ながら運動」で睡眠の質を高める
そんな人たちにオススメなのが、すき間時間に行う“ながら運動”です。
例えば「片足立ち」。 コーヒーをいれる間に、片足ずつ1分間立っているだけでかまいません。片足立ちをすると思いのほか大きな負荷がかかり、左右それぞれ1分間の片足立ちをするだけで、50分以上歩くのと同じ負荷になるとも(※5)。
通勤時の速歩や仕事の合間にかかと上げやスクワットをするのも非常に効果的です。
また、就寝の約90分前までに運動を行うと、一度身体の深部体温が上昇するため、スムーズな入眠が期待できます。
ただし、激しい運動をしてしまうと交感神経が刺激され、副交感神経の働きが低下し、入眠が阻害されるため避けてください。
〈今日から試そう〉
・日常に片足立ちなどの“ながら運動”を取り入れる
・就寝90分前までにストレッチなど軽い運動をする
■”窓際の人”の方が睡眠の質が良い
× 出社後、会社から出ないことが多い
◯ ランチで外出して日光を浴びよう
社員食堂でランチを食べたり、持参した弁当をデスクなどで食べたりする人の場合、出社してから一歩も外に出ない日があるかもしれません。
朝日を浴びることで概日リズムがリセットされることは(本書の)第1章ですでに述べましたが、じつは、日中でも建物の外に出て日光に当たることにより、睡眠の質が改善されるという研究報告があります。
米国・連邦調達庁(GSA)のオフィスワーカー109人を対象とした実験によると、日光が差し込む窓際の席に座っていた人のほうが「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」のスコアが良好で睡眠時間も増えたとのことです(※6)。
PSQIは睡眠障害の程度や治療効果を調べるために使われる指標です。
また、同じ実験では睡眠の改善だけではなく、日中に日光に当たることで、抑うつの軽減といった効果も確認されています。
研究報告では、オフィス内の照明だけでは光量が足りず、上記のような効果は認められなかったそうです。
■夏場は15分、冬場は30分の日光浴
また、日光を浴びることで、骨を強くし、免疫機能を高めるビタミンDが体内で合成されるほか、“幸せホルモン”ことセロトニンの分泌も促進されます。セロトニンは眠気を誘うメラトニンの原料となるため、夜の入眠がスムーズになると考えられます。
ただし、長時間の日光浴は紫外線によるシミやシワの増加など、悪影響も懸念されます。
デスクワーク中心の人の場合、昼は社外のお店でランチを食べる、持参した弁当を屋上や公園で食べる、息抜きついでにコンビニに行く、といった行動でなるべく日光に当たることを意識してみましょう。
〈今日から試そう〉
・お昼はランチに出かけるか、外で弁当を食べる
・息抜きにコンビニに行く
・オフィス内の日光が入る窓際で仕事をする
■午後のコーヒーには要注意
× 常にコーヒーを飲んでいる
◯ コーヒーは昼食後の1杯で最後にする
抗酸化、抗炎症効果のあるポリフェノールを含むコーヒーには、心臓病や脳卒中、呼吸器疾患による死亡リスクを低減するなどの効果が報告されている(※7)ほか、コーヒーに含まれるカフェインには覚醒作用があるため、眠気覚ましに効果があります。
特に朝に飲む1杯のコーヒーは覚醒状態を持続させることから、身体に合う人にとっては望ましい習慣でしょう。しかし、午後に飲むコーヒーやその他のカフェインを含む飲料には注意が必要です。
■コーヒーは就寝の8時間前まで
カフェインが眠気を覚ますのは、睡眠圧の原因であるアデノシンの働きを阻害するためです。 アデノシンと形が似ているカフェインは、脳内にあるアデノシン受容体に先回りして結合することで睡眠圧の上昇を抑えるのです。 問題なのはその効果が消える時間。
個人差はありますが、効果が半減するまで2~8時間ほどかかるとされています。また、カフェイン100mg(コーヒー1杯程度)なら、就寝4時間前までの摂取で睡眠への悪影響はほぼ見られないものの、400mg(4杯程度)の摂取をすると、たとえ12時間前でも脳波上の悪影響が確認でき、8時間前だと中途覚醒の時間がやや増加するとした研究報告もあります(※8)。
また、2015年に米コロラド大学が発表した論文では、カフェインがメラトニンの分泌も抑制したと報告しています(※9)。 これはカフェインが体内時計を遅らせることも示唆しています。
つまり、寝つきをよくするためには、コーヒーは昼食後の1杯までを心がけましょう。 なお、コーヒー以外にもカフェインを含む飲料はあるので、注意が必要です。
〈今日から試そう〉
• コーヒーは昼食後で終わり。午後からはカフェインレスに
<参考文献>
※1 Wang H, Xin X, Pan Y. The best approaches and doses of exercise for improving sleep quality: a network meta-analysis and dose-response relationship study. BMC Public Health. 2025 Apr 11;25(1):1371. doi: 10.1186/s12889-025-22570-1. PMID: 40217183; PMCID: PMC11987399.
※2 Park I, Díaz J, Matsumoto S, Iwayama K, Nabekura Y, Ogata H, Kayaba M, Aoyagi A, Yajima K, Satoh M, Tokuyama K, Vogt KE. Exercise improves the quality of slow-wave sleep by increasing slow-wave stability. Sci Rep. 2021 Feb 24;11(1):4410. doi: 10.1038/s41598-021-83817-6. PMID: 33627708; PMCID: PMC7904822.
※3 林悠佳, 西平賀昭, 東浦拓郎, 林久仁則. 就床前に行う身体運動の運動様式の違いが睡眠に及ぼす影響. 臨床神経生理学 = Japanese journal of clinical neurophysiology / 日本臨床神経生理学会 編. 40(6)=187:2012,p.547-554. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I030738288
※4 林悠. 明日が変わる睡眠の科学大全. ナツメ社; 2025
※5 Sakamoto K, Nakamura T, Hagino H, Endo N, Mori S, Muto Y, Harada A, Nakano T, Itoi E, Yoshimura M, Norimatsu H, Yamamoto H, Ochi T; Committee on Osteoporosis of The Japanese Orthopaedic Association. Effects of unipedal standing balance exercise on the prevention of falls and hip fracture among clinically defined high-risk elderly individuals: a randomized controlled trial. J Orthop Sci. 2006 Oct;11(5):467-72. doi: 10.1007/s00776-006-1057-2. PMID: 17013734.
※6 Figueiro MG, Steverson B, Heerwagen J, Kampschroer K, Hunter CM, Gonzales K, Plitnick B, Rea MS. The impact of daytime light exposures on sleep and mood in office workers. Sleep Health. 2017 Jun;3(3):204-215. doi: 10.1016/j.sleh.2017.03.005. Epub 2017 Apr 23. PMID: 28526259
※7 Saito E, Inoue M, Sawada N, Shimazu T, Yamaji T, Iwasaki M, Sasazuki S, Noda M, Iso H, Tsugane S. Association of coffee intake with total and cause-specific mortality in a Japanese population: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Am J Clin Nutr. 2015 May;101(5):1029-37. doi: 10.3945/ajcn.114.104273. Epub 2015 Mar 11. PMID: 25762807.
※8 Gardiner CL, Weakley J, Burke LM, Fernandez F, Johnston RD, Leota J, Russell S, Munteanu G, Townshend A, Halson SL. Dose and timing effects of caffeine on subsequent sleep: a randomized clinical crossover trial. Sleep. 2025 Apr 11;48(4):zsae230. doi: 10.1093/sleep/zsae230. PMID: 39377163; PMCID: PMC11985402.
※9 Burke TM, Markwald RR, McHill AW, Chinoy ED, Snider JA, Bessman SC, Jung CM, O’Neill JS, Wright KP Jr. Effects of caffeine on the human circadian clock in vivo and in vitro. Sci Transl Med. 2015 Sep 16;7(305):305ra146. doi: 10.1126/scitranslmed.aac5125. PMID: 26378246; PMCID: PMC4657156.
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小林 義昭(こばやし・よしあき)
医療法人社団やまと日高見会理事長・こばやし内科クリニック院長
平成5年富山医科薬科大学医学部医学科卒業、新潟大学医学部大学院にて医学博士号を取得。新潟大学附属病院など県内の基幹病院にて内科・呼吸器内科の研鑽を積み、佐渡総合病院では平成14年に国内でいち早く睡眠時無呼吸外来を立ち上げた。平成24年、新潟大学医学部臨床准教授。平成28年、新潟市中央区に「こばやし内科クリニック」を開設。医療業の傍ら、在宅医療分野では令和元年「ご近所訪看リハビリステーション紫竹山」、介護事業分野では令和4年「ご近所ホーム山木戸」の運営を開始した。現在、睡眠時無呼吸症候群を中心とする睡眠医療において、日本有数の睡眠外来患者の診療実績を有する。日本睡眠学会指導医/日本内科学会総合内科専門医/日本呼吸器学会指導医/日本感染症学会指導医/日本アレルギー学会専門医。
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(医療法人社団やまと日高見会理事長・こばやし内科クリニック院長 小林 義昭)

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