和食は本当に健康にいいのか。岐阜大学名誉教授で循環器専門医の湊口信也さんは「魚中心で脂質が少ない日本食は優れている一方で、健康寿命をさらに延ばすには見直すべき点もある」という――。
(第4回)
※本稿は、湊口信也『果物野菜で100歳を生きる』(さくら舎)の一部を再編集したものです。
■果物と野菜をたっぷり摂る「地中海食」
米国人のアンセン・キースがギリシャのクレタ島を訪れて調査した結果、クレタ島の人々は長生きであり、その理由は、彼らの食事の内容に起因することが判明したため、その食事を地中海食と名付けました※1。地中海食は2010年にユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、広く知られるようになりました。
※1 佐々木 敏.栄養データはこう読む.女子栄養大学出版部、2015、3-333
登録されているのは地中海に広がるイタリア、スペイン、ギリシャ、モロッコ、キプロス、クロアチア、ポルトガルの7か国です。地中海食の特性は、地中海食ピラミッドに示されているとおり※図表1、①果物や野菜を豊富に使用する、②オリーブ油、ナッツ、豆腐、全粒粉(未精製穀物)のパンを食べる、③乳製品や肉よりも魚を多く食べる、④適量の赤ワインを飲む、⑤水を毎日飲む、などが挙げられています。
地中海食を示す図である地中海食ピラミッドの食の最下層には果物野菜が描かれていまして、地中海食の一番の基本は果物野菜を豊富に食べるということであることがわかります。
米国で38万人の食習慣を調べ、地中海食に沿った食事を摂っている程度を地中海食スコアで表して、5年間の追跡調査を行った結果、地中海食スコアが高い群では、地中海食スコアが低い群に比較して、総死亡率、脳心腎疾患(脳卒中・心筋梗塞)、癌による死亡率がそれぞれ20%程度低下したことが報告されています※2、図表2。
※2 Mitrou PN et al. Mediterranean dietary pattern and prediction of all-cause mortality in a US population: results from the NIH-AARP diet and health study. Arch Intern Med 167: 2461-2468, 2007
■心血管の死亡リスクが約4割下がった
さらに、38歳から68歳の7万4886名の女性を対象に20年間の経過観察を行ったNurses’Health Studyというコホート研究では、地中海食に沿った食事を摂っている程度を地中海食スコアで表すと、地中海食スコアが高い群では、地中海食スコアが低い群と比較して、冠動脈疾患のリスクは29%の低下、脳卒中のリスクは13%の低下を示し※3、心血管死亡率(致死的な冠動脈疾患と脳卒中の合計)は、地中海食スコアが高い群では、地中海食スコアが低い群に比較して、39%の低下を示したとの報告がなされています※3。
※3 Fung TT et al. Mediterranean diet and incidence and mortality of coronary heart disease and stroke in women. Circulation 119: 1093-1100, 2009
さらに、参加者総数が19万7965名の238のランダム化比較試験を対象にして18のメタ解析を行った結果、普通食に比較して地中海食を摂取した場合には、致死性心血管病リスクが10~67%低下し、非致死性心血管病リスクが40~53%低下したと報告されています※4。
※4 Hareer LW et al. The effectiveness of the Mediterranean Diet for primary and secondary prevention of cardiovascular disease: An umbrella review. Nutr Diet 82: 8-41, 2025
以上の複数の臨床試験の結果から、地中海食は脳心腎疾患、癌、全死亡を低下させる健康長寿のための食事であることが明らかになっています。地中海食の一番の特色は、地中海食ピラミッドの底辺には果物野菜があることから、果物野菜を豊富に摂取することが基本にあることがわかります。
■主食に白米よりも「玄米」を勧める理由
日本食では一般的に主食は白米ですが、地中海食では全粒粉を用いたパンを食べます。
したがって、日本の場合におきかえますと、白米ではなく玄米を食べるのが理想的です。全粒の玄米とまではいかなくとも、胚芽米、7分づき米、5分づき米、雑穀米、雑穀を混ぜた白米、麦を混ぜた白米などを習慣的に食べていくことを考えなければいけないと思われます。
ナッツ類には落花生やゴマなども入りますので日本で摂れるものが含まれます。野菜や魚介類も種類は問わないようです。地中海食では赤ワインもよく知られています。しかし、お酒についても、地中海食ではワインに限られてはいないようです。
したがって、日本食において最も多く飲まれる日本酒などは、地中海食における赤ワインに匹敵しているのかもしれません。一方、フランスではフランス人の喫煙率が高く、肉、バター、チーズなどの飽和脂肪酸を含む食事を沢山食べるのに冠動脈性心臓病の罹患率が少ないという逆説的な疫学的観察があります。
この理由として赤ワインを多く摂取するからであると考えられていて、フレンチパラドックスといわれています。赤ワインに多く含まれるポリフェノールが持つ抗動脈硬化作用や抗酸化作用が血管を保護し、冠動脈疾患になりにくい健康に良い効果を発揮しているのではないかと考えられています。
■「和食派」は果物と野菜が不足しがち
日本人の食習慣には地中海食に似ている部分がありますが、地中海食より優れた部分や劣っている部分もあります。日本食では地中海食のように健康に良いといわれている一価不飽和脂肪酸であるオリーブ油を常時使うわけではありません。

しかし、日本食には昔からよく使われている菜種油も一価不飽和脂肪酸なのです。和食は動物性脂質が少なく油脂の大部分を植物性食品でまかなっていますから、この点については地中海食よりも優れているといえるかも知れません。
日本食は赤身肉の少なさと魚の多さではそれぞれ世界一の可能性があります。日本では十分な量の果物野菜を摂取していないとの指摘はありますが、季節ごとに採れる果物や野菜も豊富なため、伝統的にある程度の量の果物野菜は摂取できています。
また、お酒(日本酒)も食事と一緒に摂取する習慣があります。このように考えますと、日本食と地中海食には共通点が多くあります。しかし、日本食がより地中海食に近づくためには次の3つのこと、すなわち、①果物をもっとたっぷりと食べること、②野菜をもっとたっぷり食べること、③精製度の低い穀物を主食にすること、などが挙げられます※1。
■「日本食×地中海食」で最強の長寿食に
これらの対策を取れば、日本食は従来の日本食と地中海食の良いところを併せ持つ世界一の長寿食になるであろうといわれています※1。なぜなら、地中海沿岸の国々は世界の長寿国の上位を占めていますが※図表3、世界一の長寿国は日本であるという事実があるからです。
※1 佐々木 敏.栄養データはこう読む.女子栄養大学出版部、2015、3-333
このように、日本食と地中海食が併せ持つ世界一の長寿食の共通点はやはり、果物野菜を食べることであると考えられます。
これまでに行われた数多くの臨床試験で、果物野菜の摂取量の指標である尿中カリウム排泄量が少ないと脳心腎疾患リスクと全死亡リスクが増大し、尿中カリウム排泄量が多いと、脳心腎疾患リスクと全死亡リスクが減少することが報告されていることから、果物野菜の積極的摂取が健康長寿につながることは明らかであると考えられます。
したがって、日本人は、今よりもっと多くの果物野菜を積極的に摂取して、主食は白米ではなく、玄米や精製度を低下させた米、麦、五穀米、精製度の低い穀物を使用したパンなどを食するようにすれば、日本食は世界一の長寿食になるでしょうし、日本人の寿命はさらに延びて、日本は圧倒的な世界一の長寿国になると考えられます。


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湊口 信也(みなとぐち・しんや)

岐阜大学名誉教授、岐阜市民病院心不全センター長(特別診療顧問)

1952年、和歌山県に生まれる。医学博士。1978年に岐阜大学医学部医学科を卒業し、1983年に岐阜大学大学院医学研究科博士課程を修了する。1988年に岐阜大学医学部助手(第二内科)を務め、1989年にオ−ストラリア、メルボルン大学医学部(Pharmacology)に留学。2007年に岐阜大学大学院医学研究科循環病態学/呼吸病態学(第二内科)教授、2012年に岐阜大学大学院医学系研究科副研究科長、2016年に岐阜大学大学院医学系研究科研究科長・医学部長を務める。2018年以降は岐阜大学名誉教授および岐阜市民病院心不全センター長(特別診療顧問)として勤務している。主な資格は循環器専門医、内科認定医、内科専門医(総合内科専門医)、高血圧専門医、産業医、心臓リハビリテーション指導士、循環器上級指導医(FJCS),心臓病上級臨床医(FJCC)などがある。受賞歴は2003年にBest of Scientific Session AHA(アメリカ心臓協会)賞、2017年度岐阜医学賞などがある。

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(岐阜大学名誉教授、岐阜市民病院心不全センター長(特別診療顧問) 湊口 信也)
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