※本稿は、マーカス・デュ・ソートイ『世界のエリートが学んでいる数学的思考法』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■暮らしにも役立つ「一次方程式」
線形とは、関数に対して入力と出力を設定すると、グラフが直線になって表れることを意味します。出力が入力の一定の倍数となる場合、物事が直線的に変化することは皆さんもご存じの通りです。つまり、モデル化しようとしている対象の変化率が一定であるため、このような状況では物事を簡単に数学的にモデル化できます。
例えばプラム1個の価格が3ポンドの場合、プラム10個の価格は30ポンド、プラム100個の価格は300ポンドになり、値の増加率に変化はありませんよね。微積分の分野では物事が非線形に変化する可能性があり、その場合はモデル化が非常に難しくなります。
これは実のところ、学生たちがかなり早い段階で触れる数学の分野でもあります。学校では線形方程式(一次方程式)と呼ばれるものを理解し、2つの方程式と何らかの形で線形関係にある2つの未知の変数に出会うでしょう。
興味深いのは、この問題の起源がかなり古いことです。物事の線形変化を理解するという考え方は、中国最古の教科書の一つにも記されていたのです。古代中国は広大な帝国であり、時を経るごとに成長を遂げていきました。
広範囲に及ぶ課税制度や標準化された度量衡制度、貨幣制度を理解するためには数学に精通した商人や官僚が必要でした。その官僚の教育に用いられた書物の中に、今から2000年近く前に書かれた『九章算術』という数学書がありました。
■量らずに重さを当てる数学のおもしろさ
この書は、貿易、賃金の支払い、税金といった実用的な分野における246個の問題を収録しています。そして、そこには、線形方程式を扱った難題が数多く含まれていました。
ここでは、線形問題を理解するための例題を挙げましょう。例えば、果物の重さを量る場合、特定の種類の分銅しか持っていないので、天秤の片側に果物を乗せ、それらの分銅を組み合わせる必要があります。重さは5グラム、10グラム、15グラムの3種類しかないとします。そして、天秤の片側にプラム1個と桃3個を乗せ、反対側に15グラムの分銅を乗せるとバランスを取ることができました。
同様に、プラム2個と桃1個が10グラムの分銅とつりあいました。この2つの結果は実は立派な方程式であり、これらから十分な情報が得られます。そして、ここにはいわゆる線形計画法の要素が隠されています。古代中国でも導入されていた手法で方程式を操作すると、プラム1個は3グラム、桃1個は4グラムという答えが明らかになります。
もちろん、プラムと桃の重さを直接的に計測したわけではありません。これが線形計画法の面白いところです。手持ちの情報を組み合わせて、数学的に答えを導き出すことができるのです。これらは、皆さんが普段目にする様々なパズルにも似ています。
与えられた断片的なヒントを適切に活用して、その全体像を解明するパズルのようなものです。これこそが線形方程式の本質とも言えるでしょう。
■最短ルートで最大の結果を掴む思考法
私たちは日々、様々な線形方程式を目にしています。中には正確なものもあれば、そうでないものもあります。例えば、工場で何種類かの製品を製造する際の利益を最大化しようとする場合にも方程式を作成します。X個の製品AとY個の製品Bを作りたいときに、利益を最大化するXとYの最適な組み合わせを考える、という問題です。
しかし、商品のコストや機械の稼働時間には限界があるため、製品の製造に関連する一連の要素をすべて包含した方程式を構築する必要があります。そして、多くの場合、こうした制限が課題となります。
例えば、できるだけ多くの製品を製造しつつ、必要な資材の量を一定値以下に抑えたい場合や、工場の稼働時間をできるだけ短くしたい場合など、様々な制約を適用した方程式を作成することが求められます。
そして、話題はプログラミングに移ります。プログラミングは非常に複雑な連立方程式を解く際に役立ちます。シンプルな方程式に頼っているだけでは、最善の解を導くことは不可能です。ですから、私たちの手元にある情報と、私たちが考慮すべきすべての要素をもとに方程式を書き直すことで、利益を最大化するために必要な選択を示してくれる方程式に徐々に近づいていきます。
そして、非常に複雑な連立方程式から、答えを示すシンプルな連立方程式にたどり着くための最善の戦略を見つけることが鍵となります。
■学校で習った「方程式」は仕事で使える
変数や制約が1つ増えるごとに、方程式は複雑になっていきます。幾何学的にも同じことが言えます。
というのも、複雑な方程式を視覚的に理解しようとすると、表れてくるグラフも複雑なものとなるからです。XとYという2つの変数からなる線形方程式は、基本的にグラフ上の直線です。しかし、X個とY個を作るのに使える時間は限られているといった制限もあるでしょう。
そのような制限を加えると、別の直線が描かれることになります。
ここで重要となるのは、XとYの値、そして様々な制約に左右される空間の中で、実際に工場が最適に稼働する方法を見つけ出すことです。変数が2つだけであれば、単純な直線を描くだけで製造方針が見えてきます。しかし、変数を8つに増やした場合はどうでしょうか。
視覚的に理解しようとしても、現代の人類には全く理解できないような複雑な姿を見せることでしょう。特にそのような場合に、最も効率的な方法を見つけるために線形計画法の数学が必要になります。これは非常に魅力的な学びであると私は確信しています。
しかし、読者の皆さんの多くは、学校で必死になって方程式を勉強していたことを思い出して「一体なぜあんなことをやっていたんだろう?」と不思議に思うことでしょう。
■人生の決断で役立つ「ネイピア数」
代数学とは、ある意味では数の働きを表す文法のようなものでもあります。私たちは3次元の図しか描くことができません。だからこそ、幾何学が限界に達したとき、代数学は非常に強力な武器となるのです。
レストランやスーパーマーケットで有意義な時間を過ごすのと同じように、線形計画法を使って人生のパートナーを見つけ出すことができるかもしれません。あなたがパートナーに求めるすべての要素を書き出し、それをもとに方程式を作成すれば最適化を図ることができます。しかし実際には、数学を使って最高のパートナーを見つけるための、より興味深い方法があります。
それは、数学という広大な世界の中で最も有名な、いや2番目に有名な数字を利用したものです。なぜなら、最も有名な数字は皆さんも知っているであろう円周率であるからです。2番目に有名なその数字は定数e(ネイピア数)と呼ばれています。
これは実際には指数関数の分野に出てくる定数で、18世紀の偉大な数学者であるレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)の名前にちなんで名付けられました。なぜなら、オイラーはこの定数の重要性を書き記した人物のうちの一人だからです。2.71828から始まり、円周率のように無限大に向かっていくこの数が、一体なぜ人生のパートナーを見つけるのに役立つのでしょうか。
■婚活や家探しで後悔しない見極めライン
例えば、理想の住まいを探すときや、目的地にできるだけ近い駐車場を見つけようとするときを想像してみると、多くの人はたくさんの選択肢を丁寧に検討しながら「これはちょっと違う」と不満を漏らし続けるものです。
一方で、一度諦めたものに戻るという選択が非常に困難であることを皆さんは知っているはずです。これは特に、パートナー探しの例に当てはまります。
これは実は、すでに本書でお話ししているサンプリングと確率に関する話題に似ています。ここで必要となるのは、「これが最適な判断である」と確信を抱くためには何人のパートナーに出会えばいいのか、ということです。
あるときは「まだ他に素敵な人がいるかもしれない」と決断を先送りにして、その後、どこかのタイミングで「よし、この人に決めた」と、長かった旅を終わりにしなければなりません。つまり、自分にとって最良のパートナーになりそうな人を自信を持って選ぶためには、どれくらいの人を見なければならないのか、という問題に行き着きます。
■「1÷e」回目まで見送ると確率が高まる
数学のアルゴリズムは、その時点で出会ってきたすべての人たちよりも優れた相手を選ぶように指示します。そして、3回に1回は、100人の中で最高の人を見つけたことを保証してくれます。ただし、最初の38人の中に最も素敵な人がいた可能性もあるので、必ずしも保証されるわけではありません。しかし、3回に1回は、可能な限り最高のパートナーに出会えるでしょう。それがポイントです。
こうした戦略は実際にゲーム番組にも応用できます。あるゲーム番組では参加者の目の前に20個の箱が用意されており、その中にはそれぞれ額が異なる賞金が入っています。ここでも、先に十分なデータを見ておく必要があります。20個のうちの38%を見てから、次の箱を選びます。なぜなら、箱を開けたら、それを選ぶか拒否するかのどちらかだからです。
つまり、「これまでの傾向からして、次の箱の方がより良いのかもしれない」と推測するのです。こうした戦略は、人生、レストラン、恋愛、そしてゲーム番組など、様々な場面で役立ちます。
もちろん人生のパートナーを選ぶ場合は、相手の同意が必要なのは当然のことではあるのですが。ここで絶対に忘れてはならないのは、この方法を使うのであれば、「あなたは数学的に選ばれた最高のパートナーだよ」と正直に伝えるのはやめるべきである、ということです。なぜなら、その奇妙な事実を相手はきっと嫌がるからです。
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マーカス・デュ・ソートイ
オックスフォード大学数学研究所教授
1965年生まれ。「科学啓蒙のためのシモニー教授職」を務める。英国王立協会フェロー。これまでに9冊の著作を執筆。『素数の音楽』(新潮社)は世界的なベストセラーに。最新刊は『Blueprints: how math shapes creativity』(4th Estate)。また、ロンドンのバービカン劇場で上演され、自身が主演も務めた『I is a Strange Loop』(Faber)など、2本の戯曲を執筆。BBCの画期的な4部作『The Story of Maths(数学の物語)』をはじめ、数多くのラジオ・テレビシリーズの司会も務める。
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(オックスフォード大学数学研究所教授 マーカス・デュ・ソートイ)

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