※本稿は、中尾正一郎『減塩より実は簡単! 週末「無塩・無糖」のすすめ』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■血圧「上が96~106、下が56~64」で安定
本稿では、25年以上「無塩・無糖」生活を続けてきた私たち夫婦と患者さんたちのエピソードも交えながら、「無塩・無糖」のメリットについて、それぞれ説明していきましょう。
メリット① 高血圧の予防と改善
「無塩・無糖」のいちばんのメリットは、やっぱり血圧が下がることです。
日本人の高血圧の9割は食塩のとりすぎが原因と考えられるので、食塩をとらない「無塩」、そしてしょっぱさを隠してしまう砂糖をとらない「無糖」を同時に実践すれば、血圧は下がります。
私自身も、高血圧と診断されるまでではないものの、加齢とともに右肩上がりに推移していた血圧が、「無塩・無糖」を実践することで下がりました。
「無塩・無糖」生活をはじめる前には上が130mmHg、下が85mmHgくらいまで上がっていましたが、「無塩・無糖」を25年以上続けて70代になった今は、上が96~106、下が56~64で安定しています。
私の外来では、まず血圧が上がっている原因を調べます。
ホルモンの異常はないか、腎臓の病気はないか、睡眠時無呼吸症候群はないか、薬の副作用はないか……、つまりは二次性高血圧の可能性を探ります。
そのうえで、食塩摂取量を調べます。二次性高血圧の可能性が否定されて食塩の摂取量が多い場合は、高血圧の原因は食塩です。
「あなたの高血圧は食塩が原因の食塩高血圧ですよ」と患者さんに伝えると、ほとんどの方はびっくりされます。
そうすると、患者さんによって、「減塩をがんばります」とおっしゃる方もいれば、ときには翌日から「無塩・無糖」を実践される方もいます。
これまでに私が診てきた患者さんで、「無塩・無糖」を実践された方は、例外なく、血圧が下がっています。
■1日の食塩摂取量を5g減らせば、薬が1つ減る
ところで、「食塩感受性」という言葉があります。食塩をとったときにどのくらい血圧が上がりやすいか、食塩に対する反応の度合いを表す言葉です。
人間には個性がありますから、同じような食生活をしていてもすぐに体重が増えやすい人もいれば、あまり見た目には表れにくい人もいるように、食塩に対する感受性も、人によって差があります。それは当たり前のことです。
ただ、勘違いしてほしくないのは、食塩をとると血圧が上がるということは共通しています。その上がり方、上がる度合いに、感受性の差があるということです。食塩に対する感受性の「ない」人はいません。
だからこそ、「無塩・無糖」を実践すると、皆、血圧が下がるのです。
さらに、食塩を控えることで、これまで飲んでいた降圧薬(血圧を下げる薬)を減らせたり、降圧薬がいらなくなったりする患者さんも複数出ています。
1日の食塩摂取量を5g減らせば、薬が1つ減ります。10g減らすと、薬が2つ減ります。そして、1日の食塩摂取量が2g以下になれば、薬は不要になります。
■「無塩・無糖」が禁忌になる人が服用する薬
高血圧の患者さんは、降圧薬を飲んで血圧をコントロールしている方が多いと思います。ただ、「薬だけでは上の血圧が130mmHg、下が80mmHg以下にはなりにくい」ということが専門家の間で指摘されていることも事実です。
上の血圧が130、下が80以上になると高値血圧といわれます。でも、重度の高血圧の人の場合、薬を飲んでも130/80以下にまでなかなか下がらないのです。
ただ、そういう患者さんも、減塩にしっかり取り組むことで血圧が下がります。ですから、降圧薬を飲んでいる人も、「無塩・無糖」の食事を取り入れたほうが、血圧のコントロールはうまくいきます。
さらにいえば、二次性高血圧の患者さんにとっても、「無塩・無糖」は有用です。ホルモンの異常や腎臓の病気が血圧を上げているだけではなく、それらに加えて、食塩のとりすぎによる血圧上昇も重なっていることが多いからです。
ただし、「無塩・無糖」食の人にとって、腎臓でのナトリウムの再吸収を抑えるタイプの薬は禁忌です。
■ヘモグロビンA1cの値から食後高血糖をみる
メリット② 糖尿病の予防と改善
「無塩・無糖」は、糖尿病や高血糖が気になる方にもおすすめです。
私たち夫婦が、「無塩」に加えて、完全な「無糖」にも至ったきっかけは、妻のヘモグロビンA1cがやや上がったことでした。
ヘモグロビンA1cは、過去1~2カ月の血糖状態が反映される数値です。6.0%未満が正常とされますが、その範囲内であっても、5.6%以上の人は、食後に血糖値が高い状態が続く「食後高血糖」が隠れている可能性が高い。
そのため、5.6%以上6.0%未満の場合、普段の血糖値(空腹時血糖値)が正常であっても、一時的に高くなりやすい可能性があるので、安心できません。
妻の場合、5.8%にまで上がっていたので、食後高血糖の可能性が否定できず、思い切ってお菓子もやめることにしました。それ以前から、1日3回の食事は「無塩・無糖」になっていたので、食後のささやかな楽しみだったお菓子をやめたことで完全な「無塩・無糖」生活になったのです。
その結果、妻のヘモグロビンA1cは5.5%を切るようになりました。私自身は、もともと5.5%程度で心配はありませんでしたが、今は5.0~5.2%程度とさらに改善されています。
■「どんな糖質から減らすか」という順番が大切
ここで、改めて糖尿病や血糖値について、簡単に基本をおさらいしておきましょう。
血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度のことです。
高血糖状態が続くと、全身の血管が傷つけられ、もろくなります。そのまま放置しておくと、神経障害や網膜症、腎症、脳梗塞、心筋梗塞、足の動脈が詰まって起こる足壊疽(えそ)など、やがて全身に合併症を引き起こします。この合併症こそが、糖尿病の怖さです。
最近すっかり有名になった糖質制限は、血糖値をダイレクトに上げる糖質を控えることで、血糖値を上げないようにしようという健康法です。
糖質とは、炭水化物から食物繊維を取り除いたもののこと。ご飯やパン、麺類といった主食や、イモ類や果物、お菓子などに多く含まれます。
これらの糖質は、血糖値を上げる原因になるとはいえ、体にとって大事なエネルギー源でもあるので、必要な栄養ではあります。
ただ、現代ではとりすぎている人が多いので、とりすぎている場合は減らしましょう、糖尿病の人はもう少し減らしましょう――というのが糖質制限の基本的な考え方であり、私も正しいと思っています。
ただし、「どんな糖質から減らすか」という順番が大切です。
■一気に吸収される果糖ブドウ糖液糖
「無塩・無糖」の「無糖」は、砂糖をとらないことを指します。糖質をとらないわけではありません。
ご飯も食べますし、パンは無塩パンをホームベーカリーで作って食べています。カボチャやサツマイモといった糖質の多い野菜、果物もほぼ毎日食べています。
例えば果物は、果糖が多いとはいえ、食物繊維やビタミン、ミネラルも豊富で、厚生労働省も1日200gとるように推奨しています。
一方で砂糖は、主成分はショ糖で、ほぼ糖質のかたまりです。原料となるサトウキビやテンサイは自然界のものなのでいいのですが、砂糖は搾り汁を煮詰めて濃縮させています。ほんのひと口砂糖を口にしただけで、高濃度のショ糖が体に入ってくるので、血糖値がすぐに上がりやすいのです。
そういう意味で、糖質を減らす際は、まずは砂糖を多く使うお菓子、甘い飲み物などから控えるべきです。
また、甘い清涼飲料水や加工食品には、よく果糖ブドウ糖液糖と呼ばれる甘味料が使われています。
果糖ブドウ糖液糖は、単糖(それ以上分解されない糖質)であるブドウ糖と果糖がそれぞれ単独で存在しているので、分解というひと手間なしに一気に吸収されてしまいます。そのため、こうした甘味料も、やっぱり血糖値を上げやすく、「無塩・無糖」ではとりません。
■お腹はいっぱいになるのに眠気がこない食事
ところで、糖質の多い食事をとると、食後高血糖を起こしやすいといわれます。
思えば、寿司を食べたあとにはだるさがありました。また、今でも年に数回、孫の誕生日だけはケーキを食べるのですが、口にした瞬間はおいしいものの、食べ終えたあとにやっぱりだるさに見舞われます。
それは、食後高血糖を起こしているのでしょう。
「無塩・無糖」の食事の場合、食後にだるさや眠気に襲われることはありません。
先日も、「無塩・無糖」の懐石料理を体験した人から、「お腹はいっぱいになったのに、眠気はまったくきませんでした。むしろ、スッキリしていました」と感想が寄せられました。「『無塩・無糖』だと眠くならない」という感想は、ほかの人からも聞きます。
しかも、そのときの懐石料理は1000kcal前後あり、炭水化物の量も1食で100g前後あったのに、それでも眠くならなかったのです。
砂糖(ショ糖)に比べると、自然な食材に含まれる糖質は、吸収が緩やかです。
「無塩・無糖」の食事は、糖質を避けるわけではないものの、より速やかに血糖値を上げやすい砂糖や甘味料をとらないことで、食後高血糖が起こりにくいのだと思います。
■毛細血管をダメにする犯人
メリット③ 腎臓の機能を保つ
血圧を上げない、血糖値も上げにくい「無塩・無糖」は、ひと言でいえば、血管にやさしい食生活です。
血管は、全身の臓器に酸素と栄養を運んでいるので、血管にやさしい食生活は全身の健康を守ることにつながりますが、なかでも恩恵を受けるのが腎臓です。
腎臓は、数ある臓器のなかでも、非常にユニークな臓器なのです。
例えば、肝臓には肝細胞があり、毒物を分解したり、栄養素を体が利用しやすい形に作り変えたり、肝臓の働きの大部分を担っています。同じように、心臓には心筋細胞、脳には脳神経細胞があります。
ところが、腎臓だけは特殊な臓器で、腎臓本来の細胞はありません。腎臓は、毛細血管の塊である「糸球体」と、糸球体でろ過されてできた原尿が通る「尿細管」で構成されています。そのため、毛細血管が障害を受けると、腎臓はダイレクトに影響を受けるのです。
では、毛細血管をダメにする犯人は何かというと、血圧が高いことと血糖値が高いこと。
これらが、2大悪なのです。
また、糸球体は、一度壊れると元には戻りません。
私たちは、左右に1つずつ、2つの腎臓を持って生まれます。そして、1つの腎臓には約100万個の糸球体があるので、200万個の糸球体とともに人生がスタートします。それだけ数があるのなら、多少壊れてもいいじゃないか、と思うかもしれません。
でも、自然消滅する糸球体も年間6千個もあるのです。10年で6万個、100年で60万個は自然消滅していきます。ですから、残った糸球体は大事にしなければいけません。
その点、毛細血管を傷める2大悪の高血圧と高血糖を防ぎ、糸球体に余計な負荷をかけない「無塩・無糖」は、腎臓を長持ちさせるためにも、とても効果的です。
■夜中トイレに起きず、朝までぐっすり
味の濃い食事をとったあとに、喉が渇いた経験は皆さんあると思います。
食塩の多い食事をとると、自ずと水分摂取量が増えます。私たちの体液の食塩濃度は0.9%に一定に保たれているので、食塩をとると、その分、水分を増やして薄めなければいけません。だから、喉が渇くのです。
そして、たくさん水分をとれば、当然、尿の量も増えます。腎臓が尿を作り出すには、実は膨大なエネルギーを要します。糸球体がろ過してできる原尿は1日150Lにもなり、その大半を尿細管で再吸収して、最終的に尿として排泄されるのは原尿の1%程度です。
尿の量が増えれば、それだけ腎臓を余計に働かせ、エネルギーを使い、余計な負担をかけることになるのです。
また、加齢とともに、夜間頻尿に悩む人の割合も増えます。同年代の友人と会うと、「夜1、2回はトイレで起きる」と、皆が口を揃えて言います。
ところが、私は、夜中にトイレで起きることがありません。朝までぐっすり眠れます。「無塩」食なので、自然に水分摂取量が減って尿量も少なくなるので、夜間の尿量も多くないからです。
内科や泌尿器科で検査しても特に異常が認められない夜間頻尿に悩んでいる場合も、「無塩」食が解決策となります。夜中にトイレで起きたくない、朝まで熟睡したいと願うなら、「無塩・無糖」を試してみてください。
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中尾 正一郎(なかお・しょういちろう)
医師、医学博士
日本循環器学会専門医。日本内科学会認定内科医。1973年、鹿児島大学医学部卒業。米ハーバード大学医学部(循環器内科)、米マウント・サイナイ大学医学部(臨床遺伝学)留学を経て、95年に新しい疾患「心ファブリー病」を医学雑誌「The New England Journal of Medicine」で日本から世界に発信。99年、鹿児島県立鹿屋医療センター院長に就任し、日本初の2箇所主治医制による地域医療「鹿屋方式」を構築し、メディアでも取り上げられる。現在は霧島整形外科病院に「食塩高血圧外来」を開設し、薬に頼らない「無塩・無糖」による食事療法を行っている。
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(医師、医学博士 中尾 正一郎)

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