幸せな老後を送る人にはどんな共通点があるのか。精神科医の和田秀樹さんは「60代になっても東大卒を自慢したり、昔の華やかな暮らしの基準でえり好みしたりする人は、人生の幅が狭まり老後が貧しくなる。
三高や世間体といった古い価値観を手放した人だけが、これからの人生を本当に楽しめる」という――。(第3回)
※本稿は、和田秀樹『60歳からの人間関係整理術』(河出新書)の一部を再編集したものです。
■60歳からは「三高」が意味を持たない理由
かつて、女性が結婚相手の男性に求める条件として「三高」という言葉がありました。バブル期によく使われたもので、高学歴、高収入、高身長を指します。なんとなく、男性としてはそのような人がモテるのではないかといまだに思っている人もいるかもしれませんが、この年齢になるとその価値観はほとんど意味を持たなくなります。
高齢になれば背が高ければ恰好いいというわけでもなくなりますし、そもそもルックス自体の重要性が下がってきます。皆、それほど高収入でもなくなってきます。学歴は一生残るものですが、60代になってまで東大卒を自慢している人がいたら、モテるどころか「何を言っているんだ、この人は」と冷たい目で見られるだけでしょう。
年をとってモテる人は面白い人、話題が豊富な人、優しくて面倒見のいい人、あるいは一緒にいて安心できる、信頼できる人です。それらは、過去の社会的地位や肩書きとは、ほとんど関係がありません。
繰り返しますが、これからの人生は、過去とは切り離された新しい価値観によって生きる時間なのです。
■過去ではなく「これから」を考える
60歳を過ぎると、どうしても話題は過去のことになりがちです。
仕事でどんな地位にいたか、どれだけ忙しかったか、どんな苦労をしてきたかを自慢する人もいます。けれども、これからの人生を豊かにするのは、過去の実績ではなく、これから何をしたいかという視点です。
過去の人間関係をすべて否定する必要はありませんが、そこに縛られる必要もありません。役目を終えた関係は手放して、これからの自分に合う環境を選び直した方がいいのです。
人は何歳からでも、未来を考えて生き直すことができるのです。そんな未来志向のマインドを持つことで、人生は驚くほど軽やかになります。
未来への視線を持つための手段のひとつとして、バケットリストを作ってみることをおすすめします。バケットリストとは、生きているうちにやりたいことを書き出したリストのことです。残りの人生が見通せるようになった今だからこそ、自分は何がしたかったのか、そして今、これから何をしたいのかを考えて、書き出してみるといいのではないでしょうか。
たとえば、日本の全都道府県に行ってみるとか、料理ができるようになるとか、残りの人生を一緒に過ごすパートナーを見つけたいとか、今の年齢なりの実現可能な夢や目的があるはずです。やりたいこと、できることをやり残さないようにしようと思うと、自然と前向きになります。
■プライドを手放せば自由になる
社会の第一線で働いてきた仕事人生を第一の人生と考えると、これからは自分のために生きる第二の人生です。

自分の人生を振り返ってみると、こんな仕事をしたかったという心残りがある人もいるでしょう。本当は音楽や映画関係の仕事をやりたかったというなら、コンサートの手伝いや映画の手伝い、エキストラのように、自分が楽しめそうな仕事をしてみると、楽しみが見つかるのではないでしょうか。
今はアプリですぐに仕事にアクセスできる環境です。アルバイトをすることのハードルは低くなっていますし、60代以上でも働き口はいろいろと見つかります。これまでの人生で、興味を持ちながらも経験することのできなかった業界を覗いてみるチャンスでもあります。
正規雇用でなくてはいけないとか、子どもを養わなくてはならないという経済的制限がなくなっていれば、さまざまな仕事を選べるようになります。あるいは、自分のスキルを活かさなくては意味がないとか、社会的に尊敬される仕事でなくては嫌だというような、今さら不要なプライドを手放せば、働き方の自由度はいくらでも広がります。
■「好きなこと」で仲間ができる
定年後、「自分はこれだけ生活をエンジョイしている」と動画を配信するのもいいでしょう。ラーメンの食べ歩きやスイーツ探訪、ペットと楽しむ散歩日記のように、派手なテーマでなくても、同じような趣味の人がいて、ぼちぼち見てもらえれば、ちょっとした収入になったりします。しかも、楽しいものです。
今まで思い切りできなかった趣味のある人は、それをやってみると、同好の士も見つかって世界が広がるでしょう。
動画はできるだけ数多くアップする方が目に留まりやすくなります。
1本の動画を1000人に見てもらえたとして、1日に3本アップすれば、通算3000回の視聴です。それを繰り返すと、それだけで注目率は上がります。これを毎日やっているといい張り合いになって、それだけで人生、ものすごく前向きになります。たまにバズることがあれば、いい刺激になります。新しい自分になれるのです。
今の時代、いろんな稼ぎ方があるものです。私は今、毎週、家政婦さんに家事を手伝ってもらっています。すると、来てくれる人はだいたい60代、70代の人たちです。女性であれば家事のスキルが高い人は多いでしょうし、片づけが嫌いではない人にとっては、いい仕事なのではないかと思っています。
家政婦や介護の仕事を恰好悪いと感じる人もまだいるのかもしれませんが、介護にしても、人のお世話をするのが嫌いではない人にとってなかなかいい仕事です。
■肩書も、世間体も必要ない
世間体を気にする人は、昔は偉かった、いい暮らしをしていたという人に多いでしょう。たとえば、夫が大企業のお偉いさんでまあまあいい家に住んでいたけれど、その後離婚して、年金の半分をもらっているけれどもう少し稼ぎたいという場合です。
かつてアッパークラスかアッパーミドルにいた時の価値観で、こんな家に住めない、こんな仕事はできないとえり好みしていたら人生の幅が狭まります。
それが怖いから、夫と一緒にいるのは苦痛で精神的につらいけれども、離婚しないで我慢するということが起こるのです。けれども、人生まだまだ楽しめる時期が長いと考えると、その我慢がずっと続くのも苦しいでしょう。安定か、自由か。残りの人生、どちらを取るのがいいか、しっかり考えた方がいいと思うのです。
肩書きや世間体、見栄から自由になった新しい世界があるはずです。女性の中には、ひとりで牛丼を食べたことがないという人もいます。けれども意外にも、ひとりで牛丼屋に入ってみたら別に注目されることもありませんし、食べてみたら美味しかった、やってみたら気楽で面白かったということもあります。
もっとあれこれやってみようと、今までやったことのない仕事を経験するというのは、とても未来志向な考え方です。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。
東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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