食べ過ぎを止めるにはどうしたら良いのか。同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターの米井嘉一さんは「動物性脂肪をとり過ぎると、脳が満足感を得にくくなり、脂っこいものを求め続ける状態になる。
いわば『満足できない脳』がつくられてしまう」という――。(第2回)
※本稿は、米井嘉一『食べて若返る!』(さくら舎)の一部を再編集したものです。
■「メタボ脳」になってしまう仕組み
脂質をとり過ぎるのはよくありませんが、「脂質ゼロ」を目指す必要はありません。脂質は、細胞膜やホルモン、血液成分などの材料になるほか、効率のよいエネルギー源でもあります。老化を防ぎ、若さを保つためにも欠かせない栄養素です。大切なのは、量と質のバランス。PFCバランス(2:2:6)を超えない範囲で、「よい脂質」をとることが大事です。
脂肪の主成分である脂肪酸には大きく分けて「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」があります。飽和脂肪酸は、肉の脂身やラード、バターなど、畜肉系の動物性脂肪に多く含まれ、常温で固まりやすいのが特徴です。こうした動物性脂肪をとり過ぎると、脳の「報酬系」が乱れてしまいます。報酬系とは、食べて「美味しい」「うれしい」と感じる快楽の回路のこと。
動物性脂肪を習慣的にとり過ぎると、脳内のドーパミン受容体がうまく働かなくなり、満足感を得にくくなります。
そのため、脂っこいものを食べても食べても物足りず、「動物性脂質依存症」に陥ることがあるのです。さらに、脂肪のとり過ぎは「食欲中枢」にも影響します。
食後に分泌されるホルモン「レプチン」は、脳の視床下部に働いて食欲を抑えますが、動物性脂肪をとり過ぎるとこの働きが鈍くなり、食欲が止まらなくなってしまいます。このように、動物性脂肪のとり過ぎは、脳を2つのルートから狂わせ、「満足できない脳=メタボ脳」にしてしまうのです。
■ポテチを食べ始めると止まらなくなる理由
もちろん、肉はたんぱく質源として大切です。脂肪分の少ない赤身を選び、摂取量をコントロールしましょう。また、ポテトチップスやカップ麺などのスナック類にも、動物性脂肪が使われていることがあります。食べはじめると止まらなくなるのは、こうした脂質依存の影響かもしれません。糖質やカロリーも高いため、なるべく控えるようにしましょう。
脂肪酸のもう一方、「不飽和脂肪酸」は、サラサラとした液体状で、「一価不飽和脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」とに分かれます。「多価不飽和脂肪酸」は脂肪酸の種類によって、さらに「オメガ3系脂肪酸」と「オメガ6系脂肪酸」に分かれます。
それに応じて、「一価不飽和脂肪酸」は「オメガ9系脂肪酸」とも呼ばれます。
わかりやすくいえば、不飽和脂肪酸には「オメガ3系」「オメガ6系」「オメガ9系」の3系統があるということ。それぞれの代表的な脂肪酸と、それを多く含む食材をご紹介します。
・オメガ3系脂肪酸……DHA・EPA(いずれもマグロやサバなどの青魚)、α‐リノレン酸(えごま油、あまに油、しそ油など)

・オメガ6系脂肪酸……リノール酸(紅花油、ごま油、大豆油、コーン油などの植物油。米や小麦などの穀物にも含まれる)

・オメガ9系脂肪酸……オレイン酸(オリーブオイル)、エルカ酸(なたね油)
■積極的に摂取すべき魚の名前
このうち重要なのは、「必須脂肪酸」と呼ばれるオメガ3系とオメガ6系です。オメガ9系は体内で合成されますが、オメガ3系とオメガ6系は体内でつくることができないので、食べ物から補う必要があります。オメガ3系とオメガ6系をあわせた多価不飽和脂肪酸は、総摂取カロリーの79%の摂取が推奨されています。
つまり、1日に摂取する脂質の半分はオメガ3系とオメガ6系の脂肪酸で摂取することが望ましいということです。2つの脂肪酸を摂取するうえでのポイントは、体内で両者のバランスがとれるようにすること。この2つは、基本的に体内で正反対の働きをするので、バランスが崩れると細胞の機能が落ちてしまいます。
両者のうち、私たちが日常的に摂取することが多く、優位になりがちなのはオメガ6系です。大豆油やごま油、コーン油は調理でよく使われますし、マヨネーズやドレッシングなどにはたいていリノール酸が含まれています。
その一方で、オメガ3系を多く含むマグロやサバなど魚の摂取量は減っています。
ですから、体内バランスを調整するためにも、オメガ6系の油の摂取を控え、魚介からオメガ3系の油を積極的に増やしていくことが大事になってきます。
■脳力アップや認知症予防に有効な青魚
オメガ3系脂肪酸の中でもDHAとEPAは、高い抗酸化力と血流改善効果とをあわせ持ち、優れた健康効果を有する良質な脂肪酸として知られています。DHAは脳のバリア機能である血液脳関門(ブラッド・ブレーン・バリア)を通過して、脳の血流を直接改善することができます。そのため、脳力アップや認知症予防に有効な脂質としても知られています。
EPAには抗炎症作用があり慢性炎症やアレルギーから体を守ると考えられています。また、同じオメガ3系のα‐リノレン酸も、体内に入るとDHA、EPAへと代謝されるので、結果的に、DHAやEPAと同じ効果を期待できます。
EPAやDHAを多く含む青魚は、良質なたんぱく質がきわめて豊富な食品の1つでもあるので、週に3~4回は食卓に青魚をあげるようにするといいと思います。実は、オメガ3系の脂肪酸は抗酸化力が高い分、自らが酸化されやすいという側面があります。
ですから、えごま油やあまに油、しそ油などは、加熱はせず、良質な酢と合わせてオイル&ビネガーにし、サラダにかけるなど生で使うのがおすすめ。お酢も健康効果が高いので、両方をとれて一石二鳥です。
炒めものなど加熱料理には、酸化しにくいオメガ9系のオリーブオイルを使うといいでしょう。
■「メタボ脳」を改善するおすすめの食用油
実は、もう1つ、質のよいおすすめの食用油があります。
米ぬかから生成される「米油」です。米油はオレイン酸(オメガ9系)とリノール酸(オメガ6系)が主体の油ですが、最大の特徴は、ほかの油とは比較にならないほど「γ‐オリザノール」を豊富に含んでいること。
γ‐オリザノールは、抗酸化物質であるポリフェノールの一種で、血行をよくしてコレステロールを軽減したり、脳機能を改善して認知症を予防したりする効果があります。そして、近年、注目されているのが、畜肉由来の動物性脂肪の多量摂取による「メタボ脳」を改善する働きです。
マウスを使った実験で、γ‐オリザノールには興味深い働きがあることがわかりました。まず、動物性の脂肪をとり過ぎると、脳の「視床下部」という部分がストレスを受けて、脂っこいものをもっと食べたくなる状態になります。
ところが、γ‐オリザノールを与えると、この脳のストレスがやわらぎ、脂っこい食べ物への強い欲求が減ることが確認されました。さらに、γ‐オリザノールは脳の「快感」や「満足感」に関わる仕組みにも作用します。
■お肉料理も安心して食べられる米油の効果
過剰な動物性脂肪の摂取で乱れた脳の働きを整え、ドーパミンの受け取り方を良くすることで、「食べると美味しい」「満足した」と感じやすくなることもわかっています。
つまり、γ‐オリザノールは、動物性脂肪によって引き起こされる脳内ストレスを、ブロックすることで緩和させ、「食べても満足できない脳」になっていたのを「食べれば満ち足りる脳」に戻す働きを持っているのです。肉類は重要なタンパク源であり、お肉を食べている以上、動物性脂肪をゼロにすることはできません。
ですが、このように、γ‐オリザノールを含む米油をとっていれば、お肉料理も安心して楽しむことができます。

米油には、ほかにも、抗酸化作用のあるビタミンE(トコフェロール)、さらに高い抗酸化力を持つことから「スーパービタミンE」と呼ばれる「トコトリエノール」、コレステロールの吸収を阻害する作用があるとされる「植物ステロール」などの成分も含まれています。米油は、酸化に強いので、油臭くなく、高温調理に使うとカリッとして香ばしい風味に仕上がります。
この機会に、ぜひ調理にとり入れてみてください。

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米井 嘉一(よねい・よしかず)

同志社大学アンチエイジングリサーチセンター、同志社大学大学院生命医科学研究科教授

1958年東京生まれ。武蔵高等学校卒業、慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。1989年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。2008年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、糖化ストレス研究会理事長、(公財)医食同源生薬研究財団代表理事。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。主な著書に『アンチエイジングは習慣が9割』(三笠書房)、『若返りホルモン』(集英社)など多数。


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(同志社大学アンチエイジングリサーチセンター、同志社大学大学院生命医科学研究科教授 米井 嘉一)
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