金利上昇局面で住宅ローン利用者はどうすればいいか。ファイナンシャルプランナーの川淵ゆかりさんはさんは「何の対策も取らなければ、60歳時点でローンがほとんど減らないピンチに陥る。
定年後に『退職金では返しきれない』と慌てる前に、4つの具体策を検討すべきだ」という――。
■利上げが家計を直撃するのは3年後
日銀の政策決定会合において、政策金利が0.25%上昇することが決まり、31年ぶりに1.0%の大台に達することになりました。2024年3月にマイナス金利が解除されて以降、すでに5回目の金利上昇です。
政策金利は、多くの方が利用している「変動金利型住宅ローン」の指標(短期プライムレートなど)に直結するため、気になる方も多いと思います。
ただし、変動金利に「5年ルール」が適用されている場合、毎月の返済額が実際にアップするのは、マイナス金利解除から5年が経過する2029年春ごろからが本番となります。
50代のAさん夫婦も、まさにこのタイムリミットに直面し、不安を募らせている一組です。
9年前、課長に昇進したタイミングで郊外に分譲住宅を購入したAさん。当時は家計にも余裕があり、金利がここまで上がることなどは想像もしていませんでした。
5年ルールで現在は返済額が変わっていませんが、将来(2029年)には、どのくらい返済額が上がるのか? が夫婦そろって心配でなりません。
■200万円の繰り上げ返済の効果は?
現在50代半ば。子どもが大学進学を迎え、人生で一番お金がかかる時期です。一方で会社の業績も安泰とは言えず、「リストラに遭わないか?」「給料は下がらないか?」と不安がつきまとい、住宅ローンの返済額が上がってしまうのはできるだけ避けたいと考えています。

「2029年の返済額見直しまでに200万円ほどまとまった金額を繰り上げ返済しておけば、返済額アップを避けられるのではないか?」
そう考えたAさんは、現状の把握と将来のシミュレーションの相談に訪れました。
なお、金利は一度には上がりません。ですから、これまでの5回の金利の上昇に合わせて、丁寧なシミュレーションをしないと、2029年以降の返済額に差が出てしまい、マネープランにも影響を及ぼします。
特に、役職定年などで収入がダウンしそうな50代の方や、定年退職後もローンが残る方は金利上昇の影響をシミュレーションで事前に“数字で見える化”しておくと、早めに対策を講じることが可能になります。
■「5年ルール」で支払額は変わらないが…
〈Aさん家の住宅ローンをシミュレーション〉
2017年4月~返済開始 35年ローン 4000万円借入れ 金利0.55%でスタート
変動金利型ローン(毎年4月・10月に金利見直し、5年ルール・125%ルール適用)、元利均等返済、ボーナス返済なし
住宅ローン控除の期間中のため、現在まで繰り上げ返済せず。
現在の返済額:10万4720円

「5年ルール」のおかげで、毎月の支払額(10万4720円)は現時点で変わっていません。しかし、半年ごとの金利見直しにより、毎月の支払額の「内訳(元金と利息の割合)」は、すでに以下のように変化しています(図表3)。
金利が上がったことで、毎月の支払額のうち「利息」の割合が激増し、「元金」がほとんど減らない“返済の先送り”が発生しています。これは、老後に残るローン残高が当初の予定よりも膨らんでいくことを意味します。
図表3の通り、当初は毎月約8万8000円ずつ減っていた元金が、2026年10月時点では6万6000円しか減っておらず、ローン残高の減るペースが遅くなっていることがわかります。
それでは、5年ルールの期間が終了する2029年4月の新しい返済額を試算してみましょう。
■すでに利息額は2倍以上にも膨らむ
返済額の計算は、「その時点のローン残高」と「上昇後の金利」、「残りの返済期間」を用いて行われます。
5年ルールの先送りでローン残高は増えていますし、再計算時には金利も上がっていますので、ご家庭によってはかなり家計が厳しくなるケースもあります。そのため、Aさんのように「繰り上げ返済で返済額を抑えよう」と思う人もいるかもしれません。
Aさんが考えたとおり、返済額が上がる直前に200万円の繰り上げ返済をした場合で計算すると、返済額は11万2074円(+7354円)となります。
200万円を繰り上げ返済しても、返済の先送りと5回分の金利上昇が影響し、返済額はアップしてしまいます。もし、どうしても返済額を今の金額程度に抑えたいのであれば、繰り上げ返済の必要額は380万円にもなってしまいます。
これらを一覧表にまとめると下記のようになります(図表4)。
契約当初に比べると、5回の金利上昇ですでに支払うべき総利息額も2倍以上になってしまうことがわかります。
ですが、引き続き今後も金利は上昇することも考えられます。
■対策をしなければローンは全然減らない
もし今後、2027年までに政策金利が半年ごとに0.25%ずつ、「あと3回(計0.75%)」上昇したと仮定し、さらにAさんの住宅ローンの金利変化を次のようシミュレーションしてみました(図表5、6)。

(注記)金利の変動時期や決定金利、各金融機関の優遇幅(引き下げ幅)は、契約内容により異なります。本試算では、今後の政策金利の上昇幅がそのまま住宅ローン金利へ反映されるものと仮定しています。
追加利上げが現実となれば、対策をしない場合、毎月の返済額は13万円を超えていきます。

さらにAさんが60歳を迎える2034年には、そこから金利が上がらなくても13万2773円まで負担が増加します。
また、先ほどと同様に200万円を繰り上げ返済したとしても返済額は1万8000円以上も増えることになり、今のままの返済額をキープするために必要な繰り上げ返済額は600万円にも及ぶこともわかりました。
さらに注目すべきは「60歳時点のローン残高」です。度重なる利上げによって、毎月の支払いの大半が利息に消えてしまった結果、何の対策も取らなければ60歳時点で約2350万円ものローンが残ってしまいます。これは金利が上がらなかった当初予定の約2150万円に比べて、約200万円も残高が増えている(先送りされた)計算になります。
Aさんはシミュレーション結果を見て、
「600万円はかなり厳しいな……」

「60歳でこんなに残るのか……」

「退職金ではとても返しきれないな……」
と、老後のローン残高の重さを実感したといいます。
また、長男が就職して独立したり、結婚して家を出るタイミングで、「この家を売却して身軽になるのも選択肢かもしれない」と考えるようにもなりました。
■金利上昇局面に立ち向かう4つの防衛策
〈FPからのアドバイス〉
金利上昇局面で住宅ローンを守るためには、「繰り上げ返済」「借り換え」「家計の見直し」「住み替え」の4つを組み合わせて考える必要があります。
①こまめな繰り上げ返済
住宅ローン控除の期間中(10年・13年)は繰り上げ返済を控える家庭が多いですが、控除終了後は教育費のピークと重なり、「時すでに遅し」で返済余力がなくなるケースが非常に多いのが実情です。
金利上昇局面では、少額でも早めに元金を減らすことが最も効果的な防衛策になります。
控除のメリットと繰り上げ返済の効果は、必ずシミュレーションで比較しましょう。
②金利上昇が続くなら「借り換え」も選択肢
金利上昇が続く局面では、
・より優遇幅の大きい銀行へ借り換える

・固定金利へ切り替える
といった選択肢も検討すべきです。

借り換えは手数料がかかるため、総返済額や老後のローン負担が本当に下がるかどうかを数字で確認することが必須です。
③家計の見直しで「返済余力」を確保する
50代は教育費・生活費・老後資金づくりが重なる“家計の三重苦”の時期です。
金利上昇で返済額が増えると、家計のバランスが一気に崩れるリスクがあります。
・通信費

・保険料

・サブスク

・車の維持費
こうした固定費を見直し、毎月1万~2万円でも返済余力を作ることが、老後破綻を防ぐ鍵になります。
④早期の住み替えも「立派な防衛策」
ローンの長期化により、定年後も返済が続く家庭が増えています。
しかし、
・収入の減少

・物価高

・介護費用

・老人ホームの入居費用
などが重なると、返済が続けられなくなるリスクは高まります。
そのため、子どもの独立を機に、早めに住み替えを検討するのも有効です。

長い返済期間に耐えた住まいが、本当に老後の資産として残せるのか――これを見直す時代に入っています。
■まずは数字で「見える化」をすることが大切
金利上昇局面では、こうした「老後の住まいとローンの見直し」が、ますます重要になっていきます。
金利上昇は、変動金利を選んだすべての人にとって避けては通れない現実です。しかし、ネット上の簡易なシミュレーターだけでは、これまでの「利上げの回数」や「元金・利息の内訳の変化」までを正確に反映した、個々の家庭のリアルな数字を出すことはできません。
役職定年を控える50代の方や定年後もローンが残る方は、家計が破綻する前に、まずは現状を客観的な数字で“見える化”し、ライフプラン全体のバランスを検証することが最優先です。

「わが家の場合は、2029年にいくら上がるのか?」
その具体的な数字と向き合うことこそが、激動の金利上昇時代において、大切な家と家族の未来を守るための第一歩となるのです。

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川淵 ゆかり(かわぶち・ゆかり)

ファイナンシャルプランナー

川淵ゆかり事務所代表。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。国立大学行政事務(国家公務員)後にシステムエンジニアとして、物流・会計・都市銀行などのシステム開発を担当。その後FPとして独立し、ライフプランやマネープランのセミナーのほか、日商簿記1級、CFP、情報処理技術者試験の合格経験を活かして、企業や大学での資格講座・短期大学や専門学校での非常勤講師としても勤める。

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(ファイナンシャルプランナー 川淵 ゆかり)
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