※本稿は、保坂隆『ムリなく気楽にちょうどよく 「ひとり老後」の人づきあいの知恵袋』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■会話下手の70代男性への医師のアドバイス
「べつに人とつきあうのは嫌じゃないんだけど、もともと話すのが苦手だから、すぐに会話が終わっちゃって、その後、話が続かないんだよね」
このように会話下手を認めながら、
「でもやっぱり友だちは欲しいね。この年齢になったら難しいかもしれないけれど、この年齢だからこそ、友人は必要だと思う」
と、70代の男性から、なんとなく人とうまく打ち解けられない悩みを告白されたことがありました。
こういう人は、職場での人間関係を失った定年後の男性にとても多いようです。
仕事ひと筋に生きてきた男性に、いきなりユーモアたっぷりに話してとか、しゃれた冗談を言ってなどと求めても、それは無理というものです。
まして、会社では役職にあって、部下や取引先にいつも頭を下げられていたような人は、会話の端々にもプライドが顔を覗かせて、相手を引かせてしまうのかもしれません。
「それじゃあ、どうしたらいいの?」と聞かれたら、私なら「聞き上手になったらどうですか」とアドバイスします。
会話は話す人と聞く人がいて成り立ちますが、実は大部分の人が話を聞くより自分の話を聞いてほしい「話し好き」なのです。
■共感、興味を示しながらこの言い回しで
たとえば、カラオケで「自分で歌うより人の歌を聞くほうが好き」という人が少数派であるように、たいていの人は「誰か自分の主張を聞いて理解してほしい。自分の話に共感してほしい」と思っています。
だから、人の話をじっくり聞いてくれる人はとても貴重。
ただし、ただニコニコ話を聞いているだけでは聞き上手とはいえません。
では、どういう人のことを聞き上手というのでしょうか。
答えは「相づちを打つのがうまい人」です。
聞き方のなかで、いちばん工夫してほしいのが「相づち」なのです。
会話を軽快に進めるには、適切でテンポのいい相づちが欠かせません。ふつう、相づちというと「はい」「ええ」「そうですね」などが無難なパターンですが、これだけでは単調になりすぎます。
では、どうすればいいのでしょう?
たとえば、共感を示すなら「そのとおりですね」「なるほど」「もっともですね」「同感です」と言ってみたり、興味を示すなら「本当ですか」「それは意外ですね」「驚きました」などと表情を交えて関心度を表したりします。
「それからどうしたんです?」「その次が聞きたいですね」などと、好奇心が伝わるような言い回しを使うとさらにいいでしょう。
■「おうむ返し」で相手の気持ちを和らげる
前項の内容に加えて、もうひとつ覚えておきたいのが「おうむ返し」です。
おうむ返しはうまく使うととても効果的です。
「昨日は電車に乗り遅れて散々だったよ」
という発言に対して、「あら、電車に乗り遅れたんですか」と言うのが基本的な「おうむ返し」です。
これをちょっとアレンジして少し共感を表したのが、「あら、電車に乗り遅れたんですか。それは災難でしたね」と言うパターンです。
相手の言葉をただ繰り返す「おうむ返し」は、相手の気持ちを和らげるのにも大変効果的です。しかも簡単ですね。
たとえば相手の機嫌が悪くて「まったく、最近は頭に来ることばっかりだよ」と言われれば、「本当ですね。頭に来ることが多いですね」と返し、上機嫌で「今日、美容院で5歳も若く見られちゃった」と言われれば、「5歳も若く見られちゃったんですか。いいですね。うらやましいです」と返します。
こうすれば、多くを語るより、相手の気持ちをふんわりと和らげることができます。
これは相手の投げた球を気持ちのいいテンポで受け取って、また投げやすい球を返すようなものなので、コミュニケーションをよくするにはもってこいの方法です。
■絶対にしてはいけない「話泥棒」
相手との会話のなかで、絶対にしてはいけないこともあります。
その最たるものが「話泥棒」です。
たとえば、相手の話を遮(さえぎ)って口をはさんだり、「それよりも、これ知ってる?」と話の腰を折ったり……。
さらには「つまりこういうことでしょ」と話をまとめたり、「話は変わるけど」と、人の話が終わらないうちに自分が主導権を握って話題を変えようとしたり……。
それでいて相手の話の腰を折ってしまったという“罪の意識”はまるでありません。
こんな人は、誰も相手になってくれなくなるでしょう。
聞き上手への第一歩は、まず相手への敬意とやさしさを持つことです。その意識があれば、コミュニケーション能力はどんどん高まっていくことでしょう。
■誰からも「いい人」と思われる必要などない
「Tさんは何をやっても器用で、さっとこなすでしょ。この前も町内会の議事録をお願いしたら、翌日には出来上がって驚いたわよ」
「そうそう、本当に頼りになるわよね。だから今年は花火大会のお知らせもTさんに頼もうと思うの。いいわよね?」
「Tさんならやさしいから、嫌とは言わないわ。大丈夫よ」
このように人から頼りにされるのは決して悪いことではありません。その人の社会的信用を物語ってもいます。
ただ、よくないこともあります。
それがなんだかわかりますか?
頼られた本人が、他人の期待に応えようと必要以上の責任を背負い込むことです。
誰でも「いい人」と思われたらうれしくなるし、誰かのお役に立てたら「よかった」と喜びを感じるものです。
しかし、誰にでも愛されて、誰からも「いい人」と呼ばれて喜ぶのは自己満足でしょう。ちょっと意地悪な言い方をすれば、「八方美人」になってしまいます。
それでも対外的な評価や周囲とのコミュニケーションが自分にとって大事な意味を持つ場合は、八方美人にでも十方美人にでもなって社交性を発揮してください。
ただし、現役を退いて第一線で頑張る必要がなくなったら、八方美人はもう卒業してもいいのではないでしょうか。
■なんでも自ら抱え込むのはせいぜい還暦まで
とくによろしくないのは「自分さえ無理をすれば済むから」とか「自分一人で頑張ればなんとかなる」という考え方です。なんでも自分で抱え込んで、犠牲的精神を発揮するのは日本人の悪い癖ですが、そんな無理が利くのも、せいぜい還暦までです。
60歳を過ぎたら他人の評価は一切気にせず、自分に正直に、やりたいことには「イエス」、やりたくないことには「ノー」と言うようにしましょう。
親から「人のことが第一で、自分のことは二の次でいい」と教えられてきたような人は、「人の頼みを断るなんて、悪くてできない」と考えがちですが、「できません」とさらりとかわすのも、シニアの知恵だと思います。
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保坂 隆(ほさか・たかし)
精神科医
1952年山梨県生まれ。
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(精神科医 保坂 隆)

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