サッカーの戦術を読み解き、観戦をより楽しむためには何に着目するべきか。サッカーデータアナリストのノーミルク佐藤さんは「綺麗な陣形を保っているより、ぐにゃぐにゃと選手が動き回っている方が、攻撃も守備も戦略的に優れている。
空いているスペースや無駄に動いているように見える選手にも実は意味があり、それを読み解けると戦術も見えてくる」という――。
※本稿は、ノーミルク佐藤『サッカーIQを高める サッカーシステム完全講座』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■相手に「認知のバグ」を起こす選手の動き
プレーや、試合後のデータを見ていると、1試合で12~13キロなど、めちゃくちゃ走りまくる選手がいます。
彼らはなぜ、あんなに動き回るのでしょうか。その答えは、相手の脳に「認知のバグ」を引き起こすためです。
人間(ディフェンダー)が守備をする際、必ず「基準点」を設けます。「自分のマークは相手のエースの○○選手だ」「自分の守るスペースはゴール前の中央エリアだ、通さないぞ」という基準です。
攻撃側の「ズレ」を作る動きとは、この相手の基準点を物理的に揺さぶり、崩壊させるための「知的な嫌がらせ」に他なりません。
■頻繁に見られる「列をまたぐ移動」の効果
最もわかりやすいズレのつくり方は、「レーンをまたぐ移動」です。
例えば、中央のレーン(センターレーン)にいたフォワードが、スルスルと隣のスペースへ流れていくようなケースです。
このとき、相手のセンターバックは究極の選択を迫られます。
「自分もマークし続けたままで中央を空けるのか、それとも隣のサイドバックに任せるのか」
もしセンターバックがついていけば、中央に巨大な穴が「ズレ」として残ります。
一方で、サイドバックに任せる場合でも、この判断がコンマ数秒遅れれば、フォワードは一瞬フリーになってしまいます。
また、現代に頻繁に見られる「列をまたぐ移動」も強力なバグを引き起こします。
後ろの列にいるはずのサイドバックが、中盤の列に潜り込んできたり(偽サイドバック)、前の列にいるはずのフォワードが中盤まで下りてきたり(偽9番)するケースです。
守備側は「前のやつは中盤が見る、後ろのやつはディフェンスが見る」という列ごとの役割分担をしています。そこに列を無視した侵入者が現れると、マークの責任の所在が曖昧になり、組織全体に「ズレ」が生じます。
■動かしたいのはボールではなく「相手」
この「ズレ」を作る動きにおいて、最も重要なのは「ボールに触ること」ではありません。むしろ、「ボールに触らずに、相手を動かすこと」に真髄があります。
ボールを保持しない1人の選手が動くことで、その選手をマークまたは監視下においている相手の選手は、その動きに対して注意せざるを得ません。
味方のために道を空けたり、自分が動くことで相手選手の視野を自分に向けて味方をフリーにするなど、自らを「囮(デコイ)」として差し出し、相手の認知システムをパンクさせる作業を行うのです。
一流の攻撃を企てられるチームを観ていると、まるでピッチ全体が呼吸しているかのように、選手たちが連動してズレを作り続けているのがわかります。1人がズレを作れば、その空いたスペースを埋めるために別の選手が動き、さらに新しいズレが生まれます。
これからは、ボールを持っている選手だけを見るのではなく、ボールから遠い場所で、誰が、どのレーンをまたぎ、誰の認知をバグらせようとしているのか。

その「ズレの仕込み」に気づけたとき、あなたはゴールが決まる数秒前から、その予兆を感じ取ることができるようになります。
■空いているスペースは「狩り場」かも
ここまでは攻撃側の視点で「ズレ」を語ってきましたが、現代サッカーの恐ろしさは、守備側もまたボールを奪う、相手を前進させないための「意図的なズレ」を武器にできる点にあります。
かつての守備の美徳は、4-4-2などでボールを持たない際の陣形をコンパクトにしながら綺麗に保ち、隙間を作らないことでした。
しかし今の攻撃側は、その「綺麗な形」を基準にズレを作ってきます。
そうなれば、守備側が取るべき戦略は一つ。「相手が想定している基準(ブロックの形)を自ら壊し、相手の計算を狂わせること」です。
守備側が作る「ズレ」の正体は「疑似的なスペース」という名の罠といえるでしょう。
例えば、守備側があるエリアのマークをあえて甘くしたり、特定のレーンをスカスカに空けたりします。攻撃側からすれば「あそこに『あまり』がいる! チャンスだ!」とそこへパスを通したくなったり、ドリブルで持ち上がってスペースを活用しようと思いますよね。
しかし、それこそが守備側の狙いです。パスが出た瞬間やドリブルで持ち運んだ瞬間、潜んでいた複数の選手が猛然と一斉にプレスをかけて襲いかかり、そのエリアを一気に封鎖します。
空いているように見せて、実はそこが一番濃密な「狩り場」だったというトラップを仕掛けるわけです。

■守備は「耐える時間」ではない
また、現代的な守備のズレには「勇気ある列の飛び出し」も含まれます。
相手が数的優位だと確信して余裕を持ってボールを回しているとき、守備側のセンターバックが、本来の担当エリアを大きく捨てて、中盤まで「迎撃」に飛び出してくる。
攻撃側は「後ろのセンターバックはこないだろう」という前提で考えるため、そこに想定外の「ズレ(乱入者)」が現れると、パニックを起こしてパスミスを誘発します。
この「守備側のズレ」を読み解く鍵は、「誰が、いつ、定位置を捨てたか」にあります。本来守るべき場所を空けてまで、その選手がどこへ向かったのか。
その先にあるのが、チームとして設計された「奪いどころ」です。
「綺麗なブロック」を保っているチームは、実は攻めやすい。
本当に強いチームは、ピッチのあちこちで形をグニャグニャと歪ませながら、相手の「あまり」を食い潰し、自分たちの「狩り場」へと誘い込んでいきます。
これからは、守備を「耐える時間」として観るのをやめましょう。
守備側が自ら形を崩し(ズレを作り)、攻撃側の知略を逆手に取って罠にかける。
その能動的な「守備の可変」に注目してください。ディフェンスラインが1人崩れたとき、それはピンチの兆候ではなく、世界一スタイリッシュな「強奪」の始まりかもしれません。


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ノーミルク佐藤(のーみるく・さいとう)

サッカーデータアナリスト

本名・佐藤祐一。Lifepictureの創業者兼CEOとして、WEBマーケティングやコンテンツ制作にも精通。2018年よりYouTubeチャンネル「MILK SOCCER ACADEMY(通称:ミルアカ)」を運営。Jリーグや日本代表、海外サッカーを題材に、戦術・試合分析、移籍情報、選手の戦力分析などを“楽しく、わかりやすく”解説し、毎日複数本の動画を投稿。チャンネル登録者数は11万人を突破している。

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(サッカーデータアナリスト ノーミルク佐藤)
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