過去に事件・事故などで人が亡くなった物件は「事故物件」と言われる。「不動産Gメン」として情報発信している滝島一統さんは「単身高齢者が増え、孤独死も増えている。
しかし、死者が出たすべての物件が事故物件になるわけではない」という――。(第2回)
※本稿は、滝島一統『その家、買ってはいけない』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■24時間鳴り続けるテレビが知らせた異変
2024年現在、65歳以上の一人暮らし高齢者の世帯は900万を超えたという。私が管理する物件にも、そうした入居者は少なくない。中には独りで亡くなる人もいる。不動産業界にいると、孤独死に関わるのは決して珍しいことではない。
ある年の12月31日、大晦日の夜の話をしよう。社員は全員休みで、残業をしていた私のところに電話が入った。管理物件の入居者からだった。「隣の部屋から24時間ずっとテレビの音がしているんです」。電話の向こうの声は不安げだった。隣人は高齢の男性だという。
これはもう「そういうこと」だと直感した。
こういうときに絶対にやってはいけないことがある。自分で鍵を開けて部屋に入ることだ。第一発見者になれば、そのまま容疑者になり、警察に拘束されて取り調べを受けることになりかねない。大晦日の夜だ。私が行くしかない。
警察に電話し、警官を呼んで立ち会ってもらうことにした。やってきたのは若い警察官だった。合鍵でドアを開け、先に入るよう促すと、「いや、本官は……」とモゴモゴ言って動かない。それが警察の仕事だろうと説いて、ようやく先に入ってもらった。戻ってきた警察官は、こう言った。
■畳に広がるシミ、くさやのような悪臭
「お亡くなりになっています」。
私も続いて部屋に入った。布団の上で、男性は眠っているように横になっていた。死んでいる人間が生きている人間と違うのは、指先や足先がうっ血して血入りソーセージのように腫(は)れていることと、唇が乾燥して消えていくことだ。それ以外はほとんど変わらない。安らかな顔だった。年末の夜に人知れず逝(い)った人の姿だった。
それとは別に、私は事故物件の特殊清掃現場に立ち会ったことがある。3月に亡くなり、1週間後に発見されたケースだった。本人は暖房をつけたまま亡くなっており、室内はサウナ状態だった。損壊が著しく、通常の救急車では搬出できず、特殊な車両が必要だったという。
私が立ち会ったのは、発見から約2カ月後。遺族が私物を片付け、特殊清掃業者が入るタイミングだった。
部屋に足を踏み入れると、ベッドがあった場所の畳に大きなシミが広がっていた。遺体があった痕跡だ。
2カ月が経過し、窓を開け続けていたため臭気はほとんどなかったが、注意して嗅ぐと、くさやの匂いを薄めたような悪臭がした。畳を剥がしてみると、その下の床板にまで体液が染み込んだ跡が残っていた。
■分岐点は「遺体が溶けているかどうか」
お年寄りの男性の体重をおよそ60キロとすると、そのうち40キロ近くが肉と体液だ。それが溶け出し、畳を通り越してその下の床板にまで染み込んでいた。特殊清掃で除去できるのは表面だけで、染み込んだものは薬品では取り切れない。
この部分は撤去して交換することになるだろう。クロス張りの部屋であれば、クロスを全部剥がすことが多い。エアコンも臭気が内部に入り込むため、交換対象になる場合がある。
「中で人が亡くなった部屋には住みたくない」という感情は自然だ。だが「事故物件」の定義は、感情とは少し離れたところにある。
実務上の分岐点は「遺体が溶けているかどうか」だ。孤独死でも、早期に発見され、遺体の損壊がなければ、事故物件にはならない。冒頭の大晦日に亡くなった男性も、早期に発見されたから事故物件にはならなかった。
一方、もう一件のように長期間発見されなければ、事故物件として扱われる。告知義務については、国土交通省のガイドラインで整理が進んでいる。殺人や自殺などの事件性があるものは、継続して告知義務がある。
■「高齢者お断り」では商売にならない
自然死を含む事故については、一定の期間が経過すれば告知不要とされる場合もある。ただし実際には、期間が過ぎても告知する業者が多い。「知っていたら住まなかった」と後から言われて訴えられたら、裁判で負ける可能性があるからだ。
では、事故物件の家賃はどれだけ下がるのか。場所と物件の条件による、というのが正直なところだ。今回立ち会った部屋は古い物件で、そもそもの家賃が安く、立地も悪くなかったため、1割程度の下落で「すぐ決まる」という見立てだった。

一方、高額物件やほかにも敬遠されやすい条件が重なれば、値引きしても決まらない物件もある。「事故物件だから一律に価値が下がる」のではなく、「決まるまで下げ続ける」のが実態だ。
日本の人口は年間80万人ほど減少しているが、その減少は65歳未満に集中している。65歳以上の人口は横ばい、あるいは微増だ。つまり、高齢者の入居を断り続けると、賃貸業として成り立たなくなる時代がすでに来ている。
「高齢者は断りたい」というオーナーは少なくないが、断れないという現実の間で、業界は揺れている。その解決策の一つとして、冷蔵庫やトイレ扉の開閉をセンサーで感知し、一定時間動きがなければセキュリティー会社に通報が入るシステムが普及しつつある。このシステムに加入することを条件に、高齢者に部屋を貸す大家が増えている。
■早期発見、早期回復で次の住人へ
孤独死は、早期に発見されれば事故物件にはならない。大家にとっても、入居者にとっても、早期発見は双方を守る。テクノロジーが、人間の孤独に静かに向き合い始めている。
遺体は搬出され、特殊清掃業者が来て、その後リフォーム業者が入り、部屋はきれいな外観を回復する。
そして大家は次の入居者を探す。こうして、誰かが亡くなった部屋は再び賃貸物件として市場に出ていく。特殊清掃業者に「怖くないですか」と聞いたことがある。
「これも仕事ですから、怖いというマインドではない」と若い彼は言った。「ただ、人が亡くなった部屋だけ携帯電話がつながりにくくなることが時々ありますね」とも言った。笑いながら言っていたが、笑えない話でもあった。孤独死は、今後さらに増えるだろう。高齢者の単独世帯は増え続け、身寄りのない老人が静かに亡くなる。
それはかつてどこかで家族と暮らしていた人間だ。そしてその後は、誰かが片付けなければならない。その「誰か」は、特殊清掃業者であり、遺族であり、管理会社であり、不動産業者だ。この仕事をしていると、死というものが、どこかで不動産とつながっていることを改めて思い知らされる。

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滝島 一統(たきしま・かずのり)

不動産インフルエンサー/株式会社光文堂インターナショナル代表

1976年、東京都生まれ。明治大学商学部卒業後、ミサワホーム入社。25歳の時に渋谷区初台に不動産会社光文堂インターナショナルを設立。2011年より海外不動産事業にも進出。2022年6月、YouTubeチャンネル「不動産Gメン滝島」をスタート。不動産業者に騙されないための情報、物件の見方など、ユーザー目線の情報をコワモテで語る動画が人気を集め、登録者数70万人を突破した。毎回、不動産の知識がない人が損しないための情報を発信している、不動産業界ナンバーワンのインフルエンサー。

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(不動産インフルエンサー/株式会社光文堂インターナショナル代表 滝島 一統)
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