会議や商談の場でプレゼンがうまい人は、何が違うのか。元日本マイクロソフト役員の澤円さんは「プレゼンの目的は、相手に理解してもらうことではない。
スライドの見栄えやスマートな話し方にこだわるよりも、もっと別に意識すべきことがある」という――。(第2回)
※本稿は、澤円『思考をアップデートする全技術 うまくいく人はなぜ、考え方を柔軟に変化させられるのか?』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■スペック・差別化は“聞き手にいらない情報”
あなたはプレゼンが得意ですか?
自信を持って「得意だ」と答えられる人はそう多くはないかもしれません。何かしらの苦手意識を持ちながら取り組んでいるのが実情のようです。でも、それはとてももったいないこと。なぜなら、プレゼンを通じてあなたはもっと輝けるし、周りの人をもっとハッピーにできるからです。
僕はこれまで数々のプレゼンをこなし、登壇経験を積み重ねてきました。多いときには年間300回を超えたこともあります。そこで本稿では、僕が培(つちか)ってきたプレゼンの経験を軸に、コミュニケーション全般における「当たり前」を疑っていきます。
まず、プレゼンで初心者がよく陥るミスの話から始めましょう。それは「話さなければならないこと」を話してしまうことです。
たとえば、商品のスペックや他の商品と差別化できる調査データなど。
でも、考えてみれば「話さなければならないこと」は、すべてこちらの勝手な都合に過ぎません。確かに相手に伝えたいことかもしれませんが、相手からすれば、貴重な時間を割いてまで「聞かなくてはならないこと」ではないのです。ここに大きなギャップが生まれます。そして実に多くの人がこのミスを犯してしまう。
次に多いのが、相手に「内容を理解させるため」に話すことです。これは少し惜しいのですが、やはり不十分。確かに話を理解させることは重要ですが、内容の理解のみにとどまるのは、良いプレゼンとは言えないからです。
■語るべきは「聞き手が成功する姿」
そもそも、プレゼンは「目的」があります。それは何か? 僕はプレゼンの目的をこのように定義づけています。
《プレゼンの目的=聞いた人が喜んで行動すること》
つまり、オーディエンスの行動につながらなければ、そもそもプレゼンの目的を果たせていないという考え方です。厳しい言い方になりますが、オーディエンスが行動しなければ成果につながらないわけですから、「プレゼンをした意味がない」と考えたほうがいいかもしれません。まずこの認識をアップデートしていきましょう。

では、相手が喜んで行動するためには、どのような要素が必要なのでしょうか? 僕はそれを「ビジョン」と表現しています。
ビジョンとは、いわば「北極星」です。つまり、プレゼンによって「相手がどんな状態になれば成功なのか」を示すもの。いったん決めたらそこに向けてまっしぐらに進めるようなものです。逆に、北極星がフラフラしていると相手をさまよわせることになります。北極星の位置をしっかり定めることが、プレゼンでは何より大切です。
■どうすれば“聞き手がハッピー”になるか
では、どのようなものがビジョンであり、北極星たり得るのでしょうか? 僕はこのように考えれば、ビジョンを設定しやすくなると考えています。
「聞き手はどうすればハッピーになるのだろう?」
プレゼンの目的は「聞いた人が喜んで行動すること」とお伝えしました。つまり、人はハッピーになって初めて、喜んで動けるようになるというわけです。僕たちはそんな北極星をオーディエンスにわかりやすく掲げなければなりません。
うまく話すことやカッコ良く振る舞うことは、とても表面的なこと。これも陥りやすい罠の1つです。
プレゼンの「スキル」は表面的なオプションに過ぎません。本来、そんなことで深く悩む必要はないのです。
一番大切なものは、聞き手の遥か頭上で輝きます。聞き手がどのようにしてその光を見つめながら、自分のハッピーのために行動できるのか。そんなビジョンを描けているかどうか。あなたが掲げた北極星がみんなをしっかり照らしているかどうか。それこそが、最も大切なことなのです。
■「米国本社のスライドを訳しただけ」の酷い過去
今でこそ僕はプレゼンを評価されるようになりましたが、初心者のころは酷いものでした。まず、そもそもプログラマーだったため、外部向けに話す機会などはほとんどなかったという現実があります。
そんな僕がプレゼンの機会に直面したのは、マイクロソフト社にITコンサルタントとして入社してからのこと。でも、当時は経験が浅く、プレゼンの内容は米国本社のスライドをそのまま日本語訳したような代物(しろもの)でした。
スライドは文字ばかりで、イメージの使い方もわかっていなくて、とにかく話すことに精いっぱい。
オーディエンスが「何を求めているのか」を考えずにコンテンツをつくり、それを時間内に読み上げるようなプレゼンを繰り返していたのです。それでも時間が不足したり、余ったりして、何度もアンケートで酷評されました。
オーディエンスが求めることにしっかり向き合えていなかったのです。
でも、経験を重ねていくうちに、やがてあることに気がつきました。「今日はうまくいったかな?」「お客さん、ちょっと喜んでくれたな」と感じられたときには、いずれも自分が話したいことではなく「相手が求めていること」や「気づいていない情報」を話せていたのです。
■「期待」「興味」に意識を向けるクセをつける
そこで、相手の「期待」や「興味」に意識を向けるクセをつけるように練習と実践を重ねたところ、次第にプレゼンで大失敗することがなくなっていきました。
こうなると面白いもので、やがて「このトピックに詳しいから話してください」というフェーズから「このトピックで話せますか?」と言われるフェーズへ移行できるようになっていきました。
つまり、このトピックを「あなたに話してほしい」というように、相手の期待が変わったのです。
トピックに制限されるのではなく、どんなトピックでも、「期待値以上の話をしてくれる人」として認識してもらえるようになったということです。このような評価にも勇気づけられ、かなり遅咲きでしたが、僕は少しずつプレゼンそのものの魅力に取り憑かれていったのでした。
繰り返しになりますが、これはすべて「他者の期待」を理解することから始まりました。そしてほとんどの場合、その期待は「ハッピーになりたい」ということだったのです。

■「きれいなスライド」「スマートさ」は本質ではない
プレゼンの際にきれいなスライドをつくるのは表面的なことに過ぎません。なぜなら、顧客の行動の変化に直結することとはまったく別問題だからです。
プレゼンでスマートに振る舞うのも同じこと。スマートであるに越したことはないですが、それはあくまでも枝葉の部分に過ぎません。僕はこのことを、よくコンピュータにたとえて話しています。
《話し方・スタイル=インターフェース》
コンピュータは、ディスプレイが美しいとユーザーから高い評価を受けます。でも、いくらディスプレイが美しくてもメモリやハードディスクの容量が数百メガバイトだったら、それはもうお話にならないわけです。むしろ、ディスプレイが美しいゆえにがっかり度は増すでしょう。
同じように「話すのが苦手でも大丈夫?」「緊張するのはどうしたらいい?」と心配するのも、すべて枝葉の話であって本質ではないのです。
結局のところ、スマートに振る舞うほうがいいのは、その人の自信になるからなのです。伝える必要のあるビジョンを押さえたうえでスマートに話すこともできたらさらに自信になることでしょう。つまり、自分がより具体的に成功体験として認識するために、話し方やスタイルを磨くアプローチもあるというだけの話なのです。

■「視点を独占する」スライドを作るための3点
ファッションモデルのように外見で自分を売り込むのならともかく「あの人、スマートだったけど、何を話していたっけ?」となるようでは、プレゼンは完全に失敗です。
もちろん、スライドなどは美しくつくる必要はないといっても、それが「伝わる」スライドになっているかどうかは重要なポイントです。よく「見映えの良いスライドはどのようにつくりますか?」と聞かれるのですが、大切なのは、あくまでも「伝わる」スライドをつくること。
世の中には伝わらないスライドや資料がたくさんあります。たとえば、文字のフォントや大きさがバラバラで、端から端まで埋めてあり読みにくい。図の形もさまざまで、矢印はいろいろな方向に向いていて、どの順番で読めばいいのかわからない。おまけに色も多過ぎる。こうして見ると明らかに変なのですが、このようなスライドを目にすることが実に多いことも現実です。
「伝わる」スライドをつくるために、最低限、次の3つのことに気をつけるようにしましょう。
①そもそも文字で説明する必要はあるか?

②選んだ色に意味はあるか?

③端から端まで文字で埋めていないか?
視点のコントロールのされていないスライドは、内容はもとよりどこから見ればいいのかわかりません。そして、どの方向へ読んでいけばいいのか混乱しがちになります。プレゼンにおけるスライドの目的は、「視点を独占する」こと。これからは「視点誘導の方向」も考えたスライドづくりを心がけてみてください。

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澤 円(さわ・まどか)

圓窓 代表取締役

1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。

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(圓窓 代表取締役 澤 円)
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