デキる上司、デキない上司の差はどこにあるのか。元日本マイクロソフト役員の澤円さんは「マネジャー・管理職の仕事は、部下のやる気や行動を“管理”することではない。
デキる上司ほど命令や指示をせず、まったく違うアプローチをとっている」という――。(第3回)
※本稿は、澤円『思考をアップデートする全技術 うまくいく人はなぜ、考え方を柔軟に変化させられるのか?』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■日本は「マネジメント後進国」
自分が関わりを持つ人と社会へ、ハッピーを届けること――。
これがコミュニケーションの本質であり目的だとすれば、僕たちは人と関わるときに「いかに未来の話をするか」にフォーカスしなければなりません。過去の狭い価値観や成功体験にとらわれていては、決して未来の可能性は開かれないからです。
これはビジネスでもまったく同じこと。過去の話をしても、何かを生み出すことなどできません。
《いかに「未来に関するトピック」に時間を使うか》
これがまさにビジネスの要諦なのです。本稿では、ビジネスにおける羅針盤(らしんばん)となるマネジメントの「当たり前」をアップデートしていきましょう。
まず前提として確認しておきたいのは、日本が“マネジメント後進国”だという事実。マネジメントの概念がとても悪い形で根づいてしまっています。たとえば、僕が嫌いな「管理」という言葉がそう。
「管理=マネジメント」ではないし、「管理職=マネジャー」でもありません。マネジメントにはもっと広く、奥深い意味が含まれていて、「最適な日本語訳がないのでは?」と思うほどです。
では、いったいどんな意味があるのでしょうか? マネジャーの最も基本的なタスクを考えてみれば、自ずと明らかになります。
■マネジメントの仕事は「判断をくだすこと」
《判断すること》
「マーケットを俯瞰して、自社のリソースを最適に配置する判断」などがこれにあたります。
リソースの最適配置において多分野の知識を持ち、より広い観点から判断することがマネジャーの仕事になるというわけです。確かにマネジャーには管理の側面もありますが、それはあくまでタスクの1つに過ぎません。マネジメントの仕事は「判断をくだす」ことが最重要事項なのです。
リソースを最適に配置するためには、チームメンバー一人ひとりの能力や適性を見極める必要が出てきます。だからマネジャーは、高度なヒアリング能力が問われることになる――のですが……。たとえば、あなたは上司にこんなことを言われたことはありませんか?
「もっとやる気を出せ!」

「モチベーションを上げていこう!」
はっきり言うと、これではマネジャー業失格。モチベーションは、他者が手を加えて上がるものではないからです。上から命令したからといって、部下のモチベーションは上がりません。

マネジャーの立場にいる人は、この事実をまず理解したほうがいいでしょう。たとえ結果的に上がったように見えても、「人間のやる気というのは、他者によっては変えられない」ことを前提に考えたほうがいいと僕は思います。
■数字上げろ・書類つくれ・やる気出せ=モチベブロッカー上司
マネジャーがやらなければならないのは、モチベーションが上がる環境を整えること。チームの力を阻害(そがい)する“モチベ”ブロッカーを外していき、みんながのびのびと仕事ができる環境を整えることが重要な仕事です。
でも残念ながら、日本の企業ではマネジャー自身が“モチベブロッカー”になっているケースがとても多く見られます。典型的なのは、部下に対して「数字を上げろ」「書類をつくれ」「やる気を出せ」と命令や指示ばかりしているタイプ。でも、人に対して命令する権利などマネジャーにはありません。
人を自由に動かす権利までは与えられていません。リソースのなかに「人」が含まれているだけで、人の心も含めて自由に動かす権利なんて、そもそも誰にもないのです。
デキるマネジャーは結果的に指示や命令をしているように見えても、それはあくまでリソースを最適に配置したうえで「開始ボタンを押しているだけ」です。
■管理職が「名誉職」になっている
それなのに、なぜ彼らは勘違いしてしまうのでしょうか?
答えは日本企業のマネジャー(管理職)が「名誉職」だからです。たとえば、セールスの成績が良かったから営業部長になったり、マーケティングで能力を発揮したからマーケティング部長になったりしますよね。
つまり、現場で結果を出した人への名誉として、マネジャーの肩書きが与えられている。
さらに、多くの企業では給与の階層が役職の昇降格と一致しているので、一定以上の給料を払うためには役職をつけることがマストになってしまっているのです。これは最悪のリソース配置です。
プレイヤーとしては優れていても、マネジメントの適性がない者が「○○部長」や「○○マネジャー」といった立場につくと、チームがむちゃくちゃになるからです。
しかも、当の本人たちは名プレイヤーだった成功体験があるので、部下やチームメンバーに対して「おまえら、何でできないの?」などと言い出しかねません。こんな高圧的な人が、あなたの会社にもいませんか?
■デキる・デキない差は「全体が見えているかどうか」
若い読者の頭のなかには、自分の会社や仕事を振り返って、素晴らしいマネジャーだと思える上司もいれば、どうしようもないマネジャーも浮かんでいることでしょう。そんなとき、自分の立場から見た彼らを疑うことに加えて、自分がこれからどんなマネジャーになっていくのかを思い描いてほしいのです。
僕も若いころから、いろいろな上司を見てきました。そのとき、何を「デキる」「デキない」の判断基準にしていたか。それは……。
《全体が見えているかどうか》
これができていないマネジャーが思いの外たくさんいます。
チームの今の状態や向かう先といった全体像が見えていないから、細かいミスばかりが気になり、すぐに「誰がしくじったか」の犯人捜しをして保身を図るわけです。

さらに最悪なのは、部下と競争するマネジャー。絶対にマネジャーになってはダメなタイプです。部下の能力を認めなかったり嫉妬したりするマネジャーは、マネジメントに100%向いていません。相手を認めたくないがために、必死に競争しようとするからです。
■マネジャーとチームメンバーの競争はNG
マネジャーになるとプレイヤーとして働くことはほぼできないので、プレイヤーとしての体験が自身のなかから抜けなければストレスが溜まっていきます。加えて、本人にマネジャーの資質がなければ、すぐに「昔の自分たちは……」などと言い出してしまうことも。
過去の成功体験のなかで生きている人間には、早いうちに終わりがやってきます。過去は過去ゆえに、それ以上の成功体験が増えないからです。
もちろん、マネジャーがプレイヤーの気持ちを理解することは必要かもしれません。プレイヤーがどうすれば快適なのかを考えるとき、プレイヤーだったころの経験を活かすことができるでしょう。
その意味でプレイヤー気質を持っているのはいいのですが、それを言動で表したらダメということ。ましてや、前面に押し出して部下と対峙してはいけません。
サポートのためにプレイヤーの一面を出すのはありですが、対立軸で出すのは最悪な行為なのです。
マネジャーがチームメンバーと競争して成立するチームなんて、滅多にありません。
■部下には「必要ならサポートする」と言えばいい
かつてマイクロソフト時代に僕が率いていたチームには、競争がありました。たとえば会社主催の大きなイベントの際には、参加者アンケートに基づくプレゼンのランキングが発表されました。
すると、チームメンバー間でトップ争いが発生したりしました。時には「今回は澤さんに勝った!」と言われたこともありましたが、僕はまったく悔しくありませんでした。チームメンバーが上に行ったら誇りに思えたし、そんな健全な競争は大歓迎だったからです。
つまり、マネジメントする立場の人間は、人(部下)を下げて自分が上に行こうとしなければいいのです。どんどん上を目指すプレイヤーがいたら、マネジャーは「必要ならサポートはいくらでもするよ」と言えればいいのだと思います。

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澤 円(さわ・まどか)

圓窓 代表取締役

1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。
情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。

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(圓窓 代表取締役 澤 円)
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