■湯船につかると“血流が良くなる”
夏は、湯船につからずシャワーだけで済ませる、という方が増える時期ではないでしょうか。汗を流すだけならシャワーで十分ですし、実際、体臭対策という点ではお湯のシャワーが有効と言われています。
(参考記事:汗拭きシートでも、制汗剤でも、香水でもない…医師に聞いた「朝の1分」で"夕方までニオイを抑える"体臭対策)
ただ、それとは別に、夏でも湯船につかることには大きな意味があります。シャワーでは得られない健康効果が、湯船にはあるからです。
その最大のメリットが、体を温めて血管を広げ、血流を良くすることです。血流が悪くなることは、ある意味すべての病気のもとになります。そして人は、血管から老化が始まると言われています。温めることで血管が拡張すれば、血管の老化を防ぐことにつながる。これはさまざまな研究で明らかになってきています。
一言で言えば、お風呂の力は「温熱作用」です。
血流が良くなれば、全身に栄養分が運ばれ、炎症物質のような老化につながる物質も除去されやすくなります。とくに深部体温、体の中心部分の温度が上がると、内臓にまで十分な栄養と酸素が行き渡ります。古い細胞が新しく入れ替わる新陳代謝にも、プラスに働くと考えられます。さらに、全身が温まることで免疫力が高まる、ともいわれています。シャワーで体の表面を流すだけでは、ここまでの効果は得られません。
■ジムやサプリのような「お金」「手間」がかからない
私はよく「ジムやサプリにお金をかけるより、お風呂に入ってください」とお話ししています。これには理由があります。
運動が健康に良いことははっきりしていますが、これは続けた場合のことです。ジムはお金がかかるうえ、通うのに手間がかかります。入会したものの行かなくなってしまう、という方は少なくありません。
そして、サプリも含め、「健康に良い」とされることには「長期的にどうなるか」がわからないものが多いのです。サプリを何年飲み続けたらどうなるか、という研究はさほど多くありません。せいぜい十数週間で血液の値がどう変わったか、といった短期のデータがほとんどです。
その点、お風呂は違います。9年後の追跡調査のような、長期的な予防効果のデータが出てきています。しかも、ほとんどの世帯に浴室が備わっており、新しく何かを買う必要もありません。家の中にあるから、そこへ行くのに何分も歩く必要もありません。一番手軽で、なおかつ長期的な効果も明らかになってきている。それが湯船での入浴なのです。
■「認知症」「要介護」のリスクが下がった実験結果
私はこれまで、数千人、1万人規模の入浴調査を何度も行ってきました。延べにすると、およそ7万人になります。
その中で、最近わかってきた長期的な効果の一つが、認知症の予防効果です。週0~6回の入浴と比べて、週7回以上湯船につかっている方は、9年後に認知症になるリスクが大きく下がる、という私たちの研究グループからの研究結果が出ています。
(参考:J Balneol Climatol Phys Med 2025; 88(2):73‒82)
注目すべきは、これが夏の入浴でも当てはまるということ。冬は効果がやや薄まりますが、それでも十数パーセントリスクが下がり、夏の入浴ではさらに大きく下がります。
メカニズムとしては、やはり血流の改善が一番大きいと考えています。入浴すると頭の中の血流量も良くなります。認知症は、脳にアミロイドβのような不要なたんぱく質が溜まることが関係していますが、血流が良くなることで、こうしたものが除去されやすくなるのではないか。これはあくまで推測ですが、そう考えています。
要介護予防についても、同様の結果があります。元気な65歳以上の方を追跡したところ、毎日湯船に入っている方は、3年後の調査で要介護状態になるリスクが下がっていました。
(参考:J Epidemiol 2019;29(12):451-456)
夏でもお風呂に入る意味は、この2点からも言えるのです。いずれもシャワーだけの方は除いた、「湯船につかる」習慣についての結果です。
■基本「40度に10分」、夏は「38度に20分」もOK
では、具体的にどう入ればいいのか。
基本となるのは、40度のお湯に10分、肩までの全身浴です。これまでの多くの研究や私が長年の研究から導き出した、もっとも効果的で無理のない入り方がこれです。半身浴ではなく全身浴を勧めます。肩までしっかり浸かったほうが、体全体がよく温まるからです(通院中の方は入浴法を主治医へご確認ください)。
入るタイミングは、就寝の90分ほど前。これが良い睡眠につながります、睡眠は、若さを保つうえでとても大事です。40度で10分入ると、深部体温が0.5~1度ほど上がります。そして、お風呂から上がって90分ほどかけて、その体温が下がっていく。
(参考:Sleep Med Rev 2019; 46:124-135)
ただ、夏に40度のお湯はとても入っていられない、という方も多いでしょう。そんなときは、無理せず温度を下げてかまいません。おすすめは、38度で20分。チャプチャプと遊べるくらいのぬるめのお湯に、その分ゆっくり浸かるのです。これくらいの温度なら、夏でも無理なく続けられます。40度でも38度でも、これくらいの温度のお湯は副交感神経を優位にしてくれるので、しっかりリラックスできます。
ただし、温度を下げると、その分だけ血流を良くする効果は弱くなります。そこで活躍するのが炭酸系の入浴剤です。ぬるめのお湯でも、炭酸系入浴剤を入れることで血流をしっかり補える。
■炭酸系入浴剤は「溶け終わってから入る」
ここで、炭酸系入浴剤の正しい使い方をお伝えしておきます。
よくあるのが、泡が出ているうちに入らなければ、とか、出てくる泡に体を当てた方がいい、という思い込みです。実は、目に見える泡そのものは、ほとんど効果に関係ありません。効くのは、お湯に溶け込んだ、目に見えない二酸化炭素のほうなのです。
この二酸化炭素が皮膚から吸収されると、一酸化窒素やプロスタグランジンといった物質を介して、血管の筋肉がゆるみます。その結果、血管が広がって血流が良くなる。これが炭酸系入浴剤の本当の働きです。
ですから、泡を浴びようと焦って入る必要はありません。むしろ、入浴剤を入れてから2~3分ほど待ち、泡がおさまって、しっかり溶けきってから入るほうが効果的です。タブレットが溶けきる前に入るより、溶け終わってから入るほうがいいのです。なおかつ、入浴剤を入れてから2時間以内には入り終えるのが理想です。それを過ぎると、せっかくの二酸化炭素がお湯から抜けていってしまいます。
■「湯船につかる習慣」を続けてほしい
正しく入浴することは、若々しさにもつながります。見た目の面でも、毎日湯船につかる方は肌がきれいだ、という美容の専門家の話も聞いたことがあります。
これも血流が関係しているのでしょう。皮膚の奥の基底層で細胞分裂が進み、古い細胞が押し出されて新しく入れ替わる。シワの原因になるコラーゲンも、血流が良くないと、それを作るための栄養が皮膚に届きません。血流を良くすることは、肌の若々しさにも欠かせないのです。
お風呂は、汚れを落とすだけの場所ではありません。各家庭に備わった「健康増進装置」であり、すでにエビデンスもかなり揃った生活習慣です。夏の間は、シャワーで済ましたくなりますが、ぜひ湯船につかる習慣を続けてください。
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早坂 信哉(はやさか・しんや)
東京都市大学理工学部教授・医師、一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長
温泉療法専門医、博士(医学)。浜松医科大学医学部准教授、大東文化大学スポーツ・健康科学部教授、東京都市大学人間科学部教授などを経て、現職。公益財団法人中央温泉研究所理事、一般社団法人日本銭湯文化協会理事、一般社団法人日本温泉気候物理医学会理事、日本入浴協会理事。著書に『入浴 それは、世界一簡単な健康習慣』(アスコム)ほか。メディア出演も多数。環境省の「新・湯治効果測定調査プロジェクト」の調査の研究責任者を務める。
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(東京都市大学理工学部教授・医師、一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長 早坂 信哉)

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