デジタルメディア全盛期に求められる家電は何か。IT・家電ジャーナリストの安蔵靖志さんは「映像メディアは規格争いがほぼ終結したと言える一方で、オーディオに関しては規格争いとして、CDを超える高音質を実現したハイレゾオーディオがアナログレコードの後継規格として残っている」という――。

※本稿は、安蔵靖志『家電ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■100年続く“メディア戦争”の歴史
音声や映像を記録するために重要なのが記録メディアですが、そのメディアをどのような形にし、どのような記録形式にするかによって、記録できる容量や音質、画質が異なってきます。
そのため、100年以上前から複数の規格が主導権を争う“メディア戦争”が繰り広げられてきました。日本の家電メーカーも、そのメディア戦争の一役を担ってきたのです。
最近人気が復活しているアナログレコードも、1880年代には円筒形のフォノグラフと円盤形のグラモフォンの規格争いが行われ、グラモフォンが残る形になりました。
アナログレコードの後継規格としてデジタルメディアとなった音楽CDはソニーとフィリップスの共同開発で争いは生じませんでしたが、CDよりも高音質化を図った次世代CD規格はSACDとDVDオーディオの2つの規格争いが巻き起こりました。
どちらもメディアとして一般的に普及するまでには至っていませんが、CDを超える高音質を実現したハイレゾオーディオとして規格が活かされている状況です。
つまり、円盤形の物理メディア戦争はほぼ終結したように見えるものの、オーディオに関しては規格争いがデジタルメディアとして生き残っているという言い方が正しいかもしれません。
■映像メディアの規格争いはほぼ終結
ただし、映像メディアはほぼ終結したと言えます。ビデオテープレコーダーでは日本ビクターを中心としたVHSとソニーを中心としたβマックスが、アナログ映像メディアではパイオニアを中心としたレーザーディスクと日本ビクターを中心としたVHDによる争いが起こりました。
初のデジタル映像ディスクメディアであるDVDは製品化前にDVD規格として統一されたことから争いになることはなかったものの、録画メディアとしてはDVD-RやDVD-RAMなどの規格争いが生じてしまいました。
次世代DVDとしてはソニーやパナソニックなど9社が規格化したBlu-ray Discと、東芝を中心としたHD DVDが規格争いを繰り広げましたが、最終的にBlu-ray Discが生き残りました。

どちらかの規格を信じてプレーヤーなどを購入すると、負けた方を購入した人はかなりの損害を被ることになります。製品化前に決着してもらわないと消費者が巻き込まれてしまうため、不毛な争いを繰り広げないようにしてほしいものですね。
最新規格であるUltra HD Blu-rayはそのような規格争いが繰り広げられることなく、すんなりと次世代ブルーレイとして定着するようになりました。とはいえ、4Kテレビの実力をフルに発揮できるディスクメディアであるにもかかわらず、それほど普及が進んではいないのが現状です。
■高画質化や高音質化を実現する研究開発
メディア戦争が終焉を迎えた理由は、やはり動画配信サービスや動画共有サービスの普及にあります。
無料で視聴できるYouTubeだけでなく、月額料金を支払う動画共有サービスなら映画やドラマ、アニメなどのコンテンツを好きなだけ視聴できるのですから、わざわざ新たにプレーヤーを購入する必要もなくなります。
CDや次世代CDも、音楽配信サービスが普及したことで売り上げ枚数が大幅に減少しています。音楽の場合はサブスクだけでなくデジタルデータで購入する人も多いので、ビジネスモデルが変革したと言えます。
いわゆる物理メディアとしての争いはなくなっても、高画質化や高音質化を実現する研究開発は引き続き行われています。例えば映像圧縮方式はMPEG-1から、DVDが採用するMPEG-2、Blu-ray Discが採用するMPEG-4、その後に開発されたH.264、Ultra HD Blu-rayが採用するH.265(HEVC)と、時代を経るごとに高圧縮化を実現しています。
メディア戦争時代のように消費者を惑わせたり損害を被らせたりすることなく、正しい進化を遂げているのです。
■万能で、最も人気のある家電
2008年7月にアップルがiPhone 3Gを発売したことで、スマートフォンの普及がスタートしました。
日本では2000年頃からiモードをはじめとする高性能携帯電話が普及しており、多くの人が写真撮影やメール、アプリ、ゲームなどを楽しんできました。
端末メーカーもカメラ機能やワンセグテレビ、タッチ決済機能などさまざまな機能を進化させてきましたが、スマートフォンの進化はそれにとどまらないものでした。
大画面テレビが10万円を切る価格で購入できる時代に、スマートフォンは20万円を超える製品もザラにあります。毎日肌身離さず持ち歩いて活用する機器なだけに、消費者の興味関心も高く、最も人気のある家電製品と言えるまでになりました。
そんな中で割を食う形になったのが、そのほかのデジタル家電です。特に大きいのはデジタルカメラとデジタルビデオカメラです。
デジタルカメラの総出荷台数は2010年の1億2146万3234台をピークに減少を続けており、2025年には943万8876台と、最盛期の8%程度にまで落ち込んでいます(CIPA:一般社団法人カメラ映像機器工業会調べ)。
ビデオカメラも2012年の186万1000台をピークに減少し、2024年には約4万台と、こちらも最盛期の2%程度です。(JEITA:一般社団法人電子情報技術産業協会調べ)
スマートフォンのカメラは進化を続けています。単純に画素数が増えただけでなく、高い処理能力を活用してAIによる高画質化機能なども備えているため、一般的なデジタルカメラやデジタルビデオカメラでは太刀打ちできない状況になっています。
■スマホに侵食される映像・録画機器
筆者も取材の撮影にはデジタル一眼レフカメラやデジタルミラーレス一眼カメラを使用してきました。しかし暗い場所では明るい部分が白飛びしてしまったり、逆に暗い部分がつぶれてしまったりと、うまく撮影するのが難しい状況があります。

そんな環境でもスマートフォンのカメラはうまく修正してくれるので、いよいよ仕事においても使う機会が増えてきています。高級スマートフォンはレンズを3つ、4つ搭載しており、ズーム撮影のようなことも行えるため、デジタルカメラやデジタルビデオカメラが活躍する機会はほとんどなくなってしまったのです。
テレビ番組を録画するレコーダーなども同様です。テレビ自体に録画機能を搭載するようになったのも背景の一つにはありますが、動画配信サービスの普及や、民放テレビを中心に視聴できるTVer(ティーバー)やNHKの放送を視聴できるNHK+などのアプリの普及が進んだこともあって、テレビを録画して見るという文化が廃れてきたのもあるのでしょう。
BDレコーダー・プレーヤーの販売台数は2011年の678万9000台をピークに減少し、2025年には約66万台まで落ち込んでいます(JEITA調べ)。カメラのように完全にバッティングしているわけではないものの、コンテンツを手軽に見られるスマートフォン普及の影響は大きいのではないでしょうか。
■スマホに取り込まれない機能や特徴はあるか
一般消費者向けのカメラは瀕死の状況に陥っているものの、プロやハイアマチュアが使うレンズ交換型デジタル一眼カメラは連綿と続いており、こちら一定の人気を保っています。
体や自動車、バイクなどに装着して迫力のある映像を撮影できるアクションカメラなども、スマートフォンにはできない撮影スタイルということで人気です。
スマートフォンと共通していても、決して取り込まれない機能や特徴を持つデジタル家電だけは生き残れるといったところですね。
肌身離さず持ち歩けるサイズのスマートフォンが高性能・多機能化したことで、電話やSNS、メールなどでコミュニケーションしたり、写真を保存・共有したり、アプリやゲームをさまざまな場所で楽しんだりできるようになりました。
今後どのように進化するのかは未知数ですが、しばらくはスマートフォンが万能状態を保ち続けるのではないでしょうか。
■クラウドとつながってAIを使う家電たち
データ処理能力の向上や学習能力の進化によって、生成AIが社会的に注目を集めるようになりました。
文章や画像の生成、音声認識、音声や音楽の合成など、多様なコンテンツを自動生成できるようになり、広告制作やカスタマーサポート、教育、クリエイティブ産業などで広く活用されています。
これは家電製品においても同様です。赤外線センサーで室内にいる人の場所や温冷感を認識して吹き分けるエアコンなど、AI技術を活用した機能は数多くあります。
テレビでも大量の画像データからAIで特徴を分析した学習データを用いて、解像度の低い映像を高解像度化する超解像技術が長年使われてきました。
これらの機能も十分にAIの恩恵を受けているのですが、さらにクラウドを活用することで進化し続けられるのがデジタル家電の強みです。
クラウドというのはインターネットを通じてデータ分析・生成処理能力やデータ保存スペースなどのコンピュータ資源を提供するサービスのことです。
インターネットに接続しない家電製品の場合、本体内のコンピュータ資源しか使えない上に、処理性能を向上させることもできません。
しかしクラウドを活用すると、その時々に応じて最高のコンピュータ資源を活用することが可能になります。
■AIによる音声認識や翻訳能力の向上も
例えばアイロボットのロボット掃除機「ルンバ」シリーズの場合、内蔵カメラで取得した映像をAIで分析することで障害物を認識して回避します。
さらにユーザーがアプリで「これは障害物です/違います」と学習させてクラウドに戻すことで、AIの分析能力が向上していく仕組みを備えています。これはクラウドを活用しているからこそできる能力向上の仕組みなのです。
筆者がここ数年で著しい進化を遂げていると実感するのが、AIによる音声認識や翻訳能力の向上です。
AI文字起こし機能を搭載するソースネクストのICレコーダー「オートメモ」シリーズの場合、複数のAI音声認識エンジンをその時々の能力によって組み合わせて活用しています。発売当初に比べて数年で能力が大幅に進化するのを実体験しました。
本体では録音をするだけで、音声認識自体はクラウドで行っているからこその進化というわけです。
ソースネクストはボタンを押して話すだけで自動的に数多くの言語に翻訳してくれる自動翻訳機「ポケトーク」も販売しています。こちらも言語ごとに最適な翻訳エンジンを採用し、常にクラウド上の最新のエンジンを利用して翻訳する仕組みを採っています。
■AI活用された家電の未来
利用する際にインターネットに必ず接続する必要があるのが難点ではあるものの、本体の通信機能もしくはスマートフォンのテザリング機能(スマートフォンの通信機能を他の機器に提供する機能)などを活用することで利用できます。モバイル通信が格安になった現代だから活用できるようになったデジタル家電と言えます。
スマートフォンのカメラ機能なども同様です。AIを活用することで、背景にいる人々をいなかったように加工したり、人やものだけを認識してコピーし、別の背景に貼り付ける機能などが提供されています。
人が話している内容をリアルタイムでAIが文字起こしする機能や、手描きで描いた絵をもとに写真や絵を生成する機能など、スマートフォンのアプリからクラウドを活用すると何でもできてしまうような状況です。
テレビでも、AIに話しかけることで音声からその人をパーソナライズし、その人の好みに合わせたコンテンツを推薦する技術が発表されました。
まだまだAIも進化途上なのでできることは決して多くはありませんが、アイデア次第でさまざまな家電に今後AIを活用した機能が搭載されていくことでしょう。


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安蔵 靖志(あんぞう・やすし)

IT・家電ジャーナリスト

一般財団法人家電製品協会認定 家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)、スマートマスター。AllAbout デジタル・家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、家電のスペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。ラジオ番組の家電製品紹介コーナーの商品リサーチ・構成にも携わっている。

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(IT・家電ジャーナリスト 安蔵 靖志)
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