■初出場カーボベルデ大躍進の秘密
サッカーW杯のラウンド32で、初出場のカーボベルデ(FIFAランク67位、6月11日時点、以下同)が前回王者アルゼンチン(同1位)を相手に、延長までもつれ込む大接戦を演じました。
結果は2対3。人口約53万人の西アフリカの島国が、世界屈指の強豪をあと一歩まで追い詰めた姿に、多くのファンが強く心を動かされました。
なぜ、これほど小さな国が世界の舞台で躍進できたのでしょうか。スポーツ指標とは異なる数字からW杯の強豪国を捉え直し、カーボベルデの取り組みを中小企業経営の視点から考えてみます。
まず、2002年から2022年までの男子W杯6大会について、各国の成績をスコア化しました。配点は、優勝5点、準優勝4点、3位3点、決勝トーナメント進出2点、出場1点。
1大会ごとに最も高い到達段階だけを採点しています。現在に近い競技環境で比較するため、1930年からの歴代成績ではなく、この6大会に絞りました。結果は次の通りです。
■6大会の採点簿、1位はフランスとドイツ
フランス(FIFAランキング3位)とドイツ(同10位)が17点で首位に立ち、アルゼンチン、ブラジル(同6位)、スペイン(同2位)が続きます。
五輪を含め、世界的なスポーツ大会では、人口の多さと経済力が選手層や育成環境を支えるのは確かです。そこで、2002~2022年の「合計スコア」を「人口1000万人当たり」「名目GDP1000億ドル当たり」に換算しました(人口とGDPは、2024年の世界銀行データより)。
■「人口1000万人あたり」のランキング
まず、人口1000万人当たりのランキングです。
人口当たりで見ると、クロアチア(2位、FIFA11位)、ウルグアイ(3位、FIFA16位)、ポルトガル(8位、FIFA5位)など、日本よりはるかに人口の少ない国が上位に現れます。クロアチアは人口約390万人でスコア10、ウルグアイは約340万人でスコア8です。規模が小さくても、限られた人材を成果へ変える仕組みがあれば、世界で結果を残せることが分かります。
次に、名目GDP1000億ドル当たりのランキングです。
■「GDP1000億ドルあたり」のランキング
GDP当たりでは、セネガル(1位、FIFA15位)、パラグアイ(2位、FIFA41位)など経済規模の小さな国が上位に入り、ここでもクロアチア(3位)とウルグアイ(4位)が高い位置につけています。
では、これらの国は、なぜ限られた人口と経済力で世界と戦えるのでしょうか。
クロアチアは国内で有望な若手を発掘・育成し、欧州の強豪リーグでさらに成長させる仕組みを持っています。
方法は異なりますが、共通するのは、人材を国内だけで探さず、育成を国内だけで完結させず、海外や国際舞台の競争環境も活用していることです。人口とGDPの両方で高い効率を示す背景には、限られた資源を成果に変える仕組みがあるのです。
■大躍進カーボベルデの合算スコアは「111」
上記の人口当たりスコアとGDP当たりスコアを単純合算した上位5カ国は次の通りです。
こうした小国の強さをさらに際立たせたのが、今大会のカーボベルデです。ラウンド32進出を2点として同じ条件に当てはめると、合算スコアはおよそ111と抜きん出た数字となります。
これは統計的な優劣を決める指標ではなく、限られた資源からどれほど大きな成果を生み出したかを見るための参考値です。大会方式も異なるため過去大会との単純比較には注意が必要ですが、人口約53万人の国が人材と資源を成果に結びつけた度合いは驚くほど突出しています。
クロアチア、ウルグアイ、パラグアイ、そしてカーボベルデに共通するのは、限られた資源を一つの分野に集中させていることだけではありません。
人材を国内だけで探さず、育成を自国だけで完結させず、異なる背景を持つ人を共通の目的で束ねています。
国の人口やGDPは、企業でいえば社員数や資本力です。
■カーボベルデの強み1:「スカウト」
カーボベルデ代表の取り組みには、そのためのヒントが3つあります。
一つ目はスカウトです。企業に置き換えれば採用です。
カーボベルデの強さを考える上で欠かせないのが、ディアスポラの存在です。ディアスポラとは、故郷を離れ、世界各地で暮らす人々やその共同体を指します。
国内人口は約53万人ですが、歴史的な移住を背景に、ポルトガル、オランダ、フランス、米国などに多くのカーボベルデ系住民が暮らしています。正確な人数には幅があるものの、本国人口を上回る規模とされます。代表は国内だけで選手を探すのではなく、欧州などで生まれ育ったルーツを持つ選手を発掘し、チームに招いてきました。
これは中小企業の採用にも通じます。経営コンサルタントの私は中小企業の現場で「人が採れない」という相談をよく受けます。
■カーボベルデの強み2:「人材育成」
2つ目は人材育成です。
首都プライアには2010年設立の「Bola Pra Frente Academy」があり、子どもたちがサッカーを学んでいます。さらに2026年にはポルトガルの名門FCポルトが現地でアカデミーを開設し、選手だけでなく指導者の育成にも乗り出しました。
ただし、育成を国内だけで完結させようとはしていません。有望な選手は若いうちにポルトガルやオランダなどへ渡り、より高い競争環境で磨かれます。国内でサッカーに対する熱い思いと基礎を育み、外部で能力を伸ばす「リレー型」の育成です。
中小企業も、大企業のようにあらゆる研修を社内に持つことはできません。自社で教えるべき企業理念や仕事の基本には力を注ぎ、専門知識や高度な技術は外部研修、他社との交流、専門家の力を借りる。限られた資源を重要な部分に集中し、足りない部分を外部で補う発想が必要です。
■カーボベルデの強み3:「組織運営」
3つ目は組織運営です。
カーボベルデ代表には、国内生まれの選手も欧州生まれの選手もいます。育った国、母語、所属クラブが異なる選手を集めただけでは、強いチームにはなりません。「何のために戦うのか」「どこを目指すのか」「どう振る舞うのか」という考え方の統一を図る必要があります。
これを企業経営の言葉に置き換えるなら、ミッション、ビジョン、ウェイに相当するものが見えてきます。ミッションは存在意義、ビジョンは目指す姿、ウェイは価値観や行動規範です。
ミッションに相当するのは、世界に散らばる同胞をつなぎ、小国の誇りを示すことではないでしょうか。W杯初出場は、単なるスポーツの成果ではなく、国とディアスポラを結ぶ象徴になりました。使命感を持って本気になった人のエネルギーは、組織の規模を超える力になります。
ビジョンに相当するのは、W杯に出場し、強豪国と互角に戦うことです。ブビスタ(ペドロ・レイタン・ブリト)監督は以前からW杯出場という夢を語り続けてきました。明確な目標があるからこそ、必要な人材を探し、育成の仕組みを整え、日々の準備を積み重ねることができます。
ウェイを考えるうえで象徴的なのが、カーボベルデの「モラベザ」という言葉です。温かさやもてなし、人を受け入れる心を表します。国外で育った選手を「よそ者」として扱わず、同じルーツを持つ仲間として迎えるこうした価値観は、異なる背景の選手を一つにするうえでも、プラスに働いたのではないでしょうか。
■1966年以降のW杯の「最少記録」も樹立
同時に、チームは高い規律も示しました。グループHの初戦スペイン戦では相手に74%のボール保持を許しながら、犯したファウルはわずか1回。これは記録が残る1966年以降のW杯で、1試合における最少記録です。それでも0対0で引き分けたことは、相手をむやみに倒すのではなく、組織的な守備と粘り強さで強豪を封じた証しといえるでしょう。ブビスタ監督も大会を通じ、結果だけでなく、チームのアイデンティティーや団結、粘り強さを重視する姿勢を示しています。
理念が浸透した中小企業も同じです。存在意義を共有し、具体的な目標を掲げ、日々の行動規範を守る。そこに適切な採用と育成が重なれば、人数や資本力を超えた強さが生まれます。
もし、上記のような強みを今後さらに増していければ、ベスト16以上に勝ち上がり、いずれはフランスやアルゼンチンのようなサッカー強国に肩を並べ、追い抜いていく可能性もあるかもしれません。
今回、日本はラウンド32でブラジルに1対2で敗れ、ベスト16進出はなりませんでした。それでも、日本代表の採用、育成、組織運営は、長い時間をかけて大きく進化しています。
カーボベルデから学ぶべきなのは、「小さな組織でも頑張れば勝てる」という単純な精神論ではありません。人材を広く探し、内外で育て、共通の理念で一つにする。限られた資源をどこに集中し、足りない力をどう外から取り込むか。
この問いは、世界の強豪と戦う日本代表だけでなく、大企業と戦う中小企業にも、そのまま当てはまるのではないでしょうか。
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平野 薫(ひらの・かおる)
小宮コンサルタンツ コンサルタントチームリーダー、エグゼクティブコンサルタント
1978年、宮城県大崎市生まれ。宇都宮大学農学部卒業後、キユーピー入社。業務用(現フードサービス)営業を担当。帝国データバンクを経て、2011年、小宮コンサルタンツ入社。数社の社外取締役も兼務。これまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施。現在も15社の企業の経営会議に定期的に参加して業績数字のチェックも行っている。特技は初めて訪問した街の人口を街並みから推測することで、ほとんどの場合±30%以内で当てることができる。趣味は年間100泊に及ぶ出張先で早朝にウォーキングをしながら、身近な疑問を発見し数字のネタを集めること。
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(小宮コンサルタンツ コンサルタントチームリーダー、エグゼクティブコンサルタント 平野 薫)

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