■思い立ったらすぐできる気分転換
こんにちは。産業医の武神です。
同じ職場、同じ上司、同じ業務量にもかかわらず、いつも元気な人と、いつも疲れていてやがてメンタルヘルス不調に陥ってしまう人がいます。
私は毎年1000件を超える産業医面談をする中で、この違いは日常のちょっとした習慣にあると気がつきました。そこで今月は、忙しくてもいつも元気な人の行動習慣について、3つお話しさせていただこうと思います。
1つめは、この連載で何度も言っていることですが、不安やストレスに悩まされずメンタルヘルス不調にならない人は、必ず、気分転換になる趣味を持っています。ただし、より詳しく見てみると、どんなに忙しくてもいつも元気でいる人は、思い立ったらすぐできる趣味・気分転換を持っています。
趣味は気分転換にもなり、エネルギーを補充してくれます。趣味の時間を持てた日は、よく食べられ、よく眠れるため、明日の活力に繋がります。
■散歩、楽器、塗り絵、刺繍…
この趣味は何も特別なものである必要はありません。高額なパーソナルトレーニングや高級グルメ、早朝の瞑想などではなく、自分が純粋にやりたいと思うこと、時間の経過を忘れて集中してしまうこと、そういうものであれば何でもいいんです。
むしろ、忙しい生活の中でもサッとはじめやすいことのほうが重要です。
私の経験上、移動時間、準備、費用、予約は、いずれも忙しい人たちにとっては始められない理由に直結します。家でサッとできること、隙間時間にできること、思い立ったら3分以内にはじめられること。そんな趣味がある人は、忙しい中でも気分転換の時間が取れていて、元気であり続けられていると思います。
面談の中では、塗り絵や刺繍を手の届きやすいところに置いている人、筋膜リリースの器具をソファに置いている人、そのままランニングに行ける部屋着を着ている人などがいました。
反対に、趣味がゴルフやプール、旅行だけの人は、移動や身支度等を考えると週末にしかできません。そのため、今の趣味は大切にしつつ、平日でも短時間でサッと始められる趣味を、別に持てるといいなと思います。
■平日夜は打ちっぱなしかゴルフゲーム
クライアントのAさんは月数回ゴルフに行きますが、平日夜は時間があれば打ちっぱなしへ、ないときはゴルフゲームを楽しんでいます。来日して2年ほどのBさんは、週末は観光ドライブが趣味ですが、平日はジムに行くか、寝る前にGoogleマップのストリートビューで次のドライブ先を眺めて、バーチャルなドライブ気分を味わっているそうです。
2020年版のWHO身体活動ガイドラインでは、「中等度の有酸素運動を週150~300分、または高強度を週75~150分」が推奨されていますが、同時に、推奨量を満たしていない場合でも、ある程度の身体活動により健康効果が得られるとも述べられています。断片的な活動でも、積み重なれば身体・メンタル・睡眠の質に効果があるのです。
■手間いらずだけど健康的な「一食」
忙しくても元気な人たちの2つ目の特徴は、手間要らずだが健康的な“一食”を持っていることです。
働く人の食事の乱れには共通のパターンがあります。朝は食べない(または菓子パンだけ)。昼はコンビニ弁当か外食のドカ食い。夜は疲れて丼や麺類、あるいは飲み会。この食事パターンは血糖値の急上昇と急降下をもたらし、食後数時間のどうしようもない眠気と集中力の低下を招きます。
食事を整えたほうがいいとわかっていても余裕がない人が多い中、忙しくても元気な人たちは、考えなくても栄養が取れる食事パターンを持っています。毎食である必要はなく、忙しい時に頭のエネルギーを使わずいい食事を取れることが大事なのです。
面談で聞いた例では、朝食にオーバーナイトオーツとバナナ、あるいは卵かけご飯とプロテイン、昼はコンビニのサラダとサラダチキン、夜は納豆ご飯ともずく、といったメニューがありました。こうした1食を、忙しい時ほど導入しているのです。
もっと栄養価の高い食事にする余地はもちろんあります。しかし、カロリー過剰にならず、それなりに体に良いものを選べていれば、私はこれでいいと思っています。
■迷いをなくすルーチンを持つ
忙しくても元気な人たちの3つめの習慣は、迷いをなくすルーチンです。
アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏は生涯、黒のタートルネックとジーンズを着続けました。メタ社のマーク・ザッカーバーグ氏もグレーのTシャツとジーンズが定番です。これは「決断疲れ(Decision Fatigue)」という概念に基づいています。心理学者Roy Baumeisterらの研究では、人間の意志力や自制心は有限のリソースであり、小さな決断を繰り返すことで枯渇していくことが示されています。
朝起きてから「今日の服、何にしよう」「朝ごはん何にしよう」と次々に小さな決断を繰り返していると、本当に大切な仕事に使うべき脳のリソースがすでに消耗してしまいます。忙しくても元気な人は、「どうせ毎日やることは決まっている」と気づき、ルーチン化によって「決断しなくていい領域」を最大化しているのです。前述の「一食」を持つ人たちも、選択肢を絞ることで、上手に忙しい状況に適応できているのだと思います。
アマゾンのジェフ・ベゾス氏は衣類こそ固定していませんが、時間管理の厳格化と意思決定数の限定によって決断疲れを徹底的に回避しています。「1日に下す質の高い決断を3つに限定する」こと、「午前10時から正午の間に最も重要な決定を集中させる」ことが彼の戦略だそうです。
※参考:ジェフ・ベゾス・ウォルター・アイザックソン著、関美和訳『Invent & Wander ジェフ・ベゾス Collected Writings』(ダイヤモンド社)
※参考:YouTube CNBC「ジェフ・ベゾス氏、ワシントン経済クラブにて講演」
■ルーチンがある人は変化に強い
会社員がベゾス氏ほど徹底するのは難しいと思いますが、面談では、服装のパターン化(曜日で決める、上下の組み合わせだけずらして変化をつける)をしている人、朝起きてから家を出るまでのルーチンを無意識にこなしている人がいました。無意識でできているということは、思考ゼロで、決断疲れを生じない習慣になっているということです。同じように就寝前のルーチンを持つ人もいます。
一方、メンタル不調者の多くは就寝前のルーチンを持っておらず、私は復職準備の時期に、眠前ルーチンの確立を勧めることがしばしばあります。
もちろん臨機応変な対応も大切です。しかし、のべ1万人以上の働く人たちを見てきて言えるのは、臨機応変に対応できる人は、まず自分のルーチンを持っているからこそ安定しているということです。土台が安定しているからこそ例外に対応できる。土台がグラグラした状態でさらに外部の変化に対応しようとするから消耗するのです。ルーチンとは縛りではなく、自由な意思決定のための安定した土台なのです。
■「モチベーションが低くてもやれる仕組み」が重要
以上、忙しくても元気な人の特徴3つをお伝えしてきました。
忙しい人ほど時間管理が上手と思われがちですが、多くの社員を見てきて感じるのは、それだけではないということです。
疲れていても、モチベーションが低くてもやれる仕組み=ルーチンを作ること。それが、忙しくても元気でいられる人の本質でしょう。
逆に、いつも元気でいられない人の共通点は、「やるかどうかをその都度決めている」ということです。今日は疲れたからいいや、週末まとめてやろう。こういった判断は、するたびにエネルギーを消耗し、自己効力感を少しずつ失わせます。
読者の皆様がすでにお持ちのルーチンは、ぜひ今後も続けてください。そして、まだない方は、ぜひ新しいルーチンを一つ、身につけていただけると幸いです。
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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。
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(医師 武神 健之)

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