健康で長生きするために、何に気を付ければ良いのか。40年間の医師生活で2500人の最期を看取った長尾和宏さんは「重要なのは、毎日の歯磨きと口腔ケアだ。
歯だけでなく、噛む力や舌の力を維持することも欠かせない」という――。(第3回)
※本稿は、長尾和宏『病気の9割は自分で治せる!』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■歯周病こそ「万病のもと」
セルフメディケーションの基本は、実は「歯磨き」です。すなわち歯周病を予防することが、健康のためには何より大切なのです。「風邪は万病のもと」という言葉を知っている人は多いと思います。
でも、歯周病があると風邪を引きやすくなることは、あまり知られていないのではないでしょうか。歯周病を起こしている細菌や口の中の炎症が全身の免疫力を弱め、ウイルスが侵入しやすい環境を作ってしまうのです。さらに歯周病菌は、歯にとどまらず脳に攻め入って認知症の原因にもなります。
心臓を襲えば心筋梗塞(しんきんこうそく)の原因になります。動脈硬化の原因とも、アレルギーの原因とも言われています。なんとがんの原因にもなるのです。まさに万病のもとなのです。
しかし歯周病は、予防できます。「歯磨き」は、お口のにおいが気になるとか、エチケットのためだけにやっているわけではないのです。
ものを食べたり水を飲んだり空気を吸ったりすれば、歯ぐきには自然とプラークというカスが溜まります。「歯垢」つまり「歯に溜まるアカ」ですね。この中に億単位で細菌、ウイルスがいるわけです。
■「歯磨き=歯を磨く」ではない
ですから口の中は、実は「ばい菌だらけ」です。このばい菌をきれいにしておかないと歯周病になります。口が臭いというのも、そのばい菌=歯周病菌のしわざです。掃除できない人の部屋は、どうしようもない汚部屋になりますが、それと同じ。
こまめに掃除しないと、そうなることは避けられないのです。それで皆さん、寝る前や食事の後にきれいにするわけです。しかし、歯の本数も知らない医者もいるぐらい、医者はこの歯周病には無警戒です。

以前、研修医に「歯は全部で何本あるか知っているか」と聞いたら、「知りません。50本ぐらいですか」と答えました。その人が特別ダメなのではありません。多くの医者は本当に歯の知識が貧弱なのです。人間の歯は、子どもは通常20本、成人は通常32本(親知らず4本を含む)ですよ。
ですから、よりよいセルフメディケーションのために、メタボ健診は受けなくてもいいですから、歯周病検診は機会があれば是非受けてください。「料金自治体持ち」で推奨しているところも多い。調べてぜひ受けましょう。
歯磨きで大事なのは、「磨くのは歯ではない」ということです。歯と歯ぐき(歯肉)の間に隙間があります。これを「歯周ポケット」と呼びます。ここに食べ物のカスが溜まる。
そのカスを除去することを歯磨きというそうです。
■80歳で20本残っているのが理想
実はこの「本当の歯磨き」はけっこう難しい。子どものときからやっているつもりでも、上手にできていない方がほとんどです。私は歯磨きには10分でも30分でも掛けたらいいと思っていますが、ある歯科医のおすすめは、1日2回、1回2分の歯磨きだそうです。
上の歯1分、下の歯1分。実は、そのぐらいの時間を掛けている人も、意外に少ない。だいたい、力を入れてゴシゴシ歯の表面をこすっておしまいです。
本当は、歯ブラシを歯周ポケットに当てて、ゴシゴシせず、軽くほじるように動かして食べ物のカスを除去するのです。奥歯が特に難しい。ほとんどの人が満足に磨けていません。時間をかけて念入りに磨きましょう。同じく上下の前歯の裏側も磨き残しの多い場所だそうです。
今は、「80・20」というスローガンがあります。
80歳で自分の歯を20本残そうというのです。日本人における「80・20」の達成率は約6割です。「死ぬまで自分の歯で食べよう」ということで、これは大変いいことだと思います。セルフメディケーションで、自分の歯をきちんと守る意識を持ちましょう。
検査して数値を見るような話ではないので、やはり定期的に歯科に行って、いわゆる「大掃除」を指南してもらうのが有効だと思います。
■足腰の老化よりも危ない「咀嚼力の衰え」
高齢になることの最大の問題は、「嚙めなくなること」だと言っていいでしょう。咀嚼筋(そしゃくきん)が弱まってくる。左右不対称に衰えます。だから嚙むときにアゴがガタガタしてくる。歯だけでなく、嚙む機能が衰えます。
顎(がく)関節と咀嚼筋が衰える老化のことを「オーラルフレイル」と呼びます。
こちらのほうが足腰の老化よりも危ない。命に直結します。現代人はそもそも嚙まなくなっています。丸飲み時代です。
ハンバーガーなど、軟らかいものを食べるようになってからその傾向が進んで、今では「飲むカレー」とか「飲むサラダ」とかまで進んできました。こんなものばかり食べていると、早死にします。「オーラルフレイル」に力を入れる自治体や歯科医が増えています。
私たちは嚙むことで、顎関節から骨伝導を通じて脳を刺激しているのです。その情報を受けることで、脳が「今食べてるぞ、これから内臓の出番だぞ」と指令を出し、内臓に準備を促すのです。
■よく噛まない食事は胃腸を疲れさせる
現代人は平均で4、5回しか嚙まずに飲み込みますから、内臓の態勢が整わないうちに食べ物の塊(かたまり)を体に入れてしまって、胃腸に負担を与えているのかもしれません。また、脳に刺激が少なくなるほど、唾液も出なくなります。
物を嚙めば、反射的に唾液が出てきて、アミラーゼなどで殺菌、消化が始まります。
口の中ですでに胃腸で消化吸収されやすいように下処理をしているのです。また、さまざまな雑菌を殺しているリゾチームという酵素は、嚙むことで活性化することが知られています。
私のおすすめする貝原益軒の『養生訓』にも、よく嚙むことの重要性がはっきり書かれています。益軒は、「食物はよく嚙んで細かくし、唾液とよく混ぜて飲み込むべきだ」「嚙まずに飲み込むと胃に負担をかけ、病のもとになる」「急いで食べるのは大いに害がある」と述べています。
江戸時代の人々は嚙むことの大切さを知っていたようで、よく嚙んでいたという記録があります。ご飯でもおかずでも口に入れたら、20回、30回と嚙んでいたそうです。小さな頃から親に厳しく言われているわけです。
■噛む力だけではなく、舌も鍛える
よく咀嚼をすることでたくさん唾液が出ます。唾液は耳下腺(じかせん)、顎下腺(がくかせん)、舌下腺(ぜつかせん)の3つから出るようになっています。健康長寿に重要な唾液が、咀嚼力が衰えるとともに減ってくるのです。
年寄りは口が乾いています。口を開けて眠ってしまってもよだれなんか出ません。口が乾くほどに雑菌が入りやすくなりますから、口の中は常にウェットでないといけません。
切る前の牛タンを見ると、筋肉の塊だとわかります。牛はいつも草を嚙んでいます。だから自然と舌筋隆々になっているのです。嚙めば、舌も鍛えられるのです。
では人間はどうすればいいかというと、普段から舌を回す体操をするのです。歯の本数も大切ですが、舌の筋力維持も大切です。命に直結します。「チェッ」とやる舌打ちも体操になります。ただ、これはあまり人前でしないほうがいいでしょう。「カラオケ」が超おすすめです。
口を動かすこと自体も、口腔ケアなのだ、と声を大にして言っておきます。
■口腔ケアには「カラオケ」がおすすめ
歌う、話すなども、顎関節、唇、舌を使っており、総合的な運動だといえます。ですからぜひ、カラオケや詩の朗読を楽しんでください。その際には、よりたくさんの筋肉が動かせるように、大きめの声を出すのがよいでしょう。
滑舌の維持も大切です。舌の力の低下も「口腔機能低下症」の一症状です。人間は食べられなくなったら終わりです。皆、食べられなくなって死んでいくのです。動物も同じ。硬いアメリカンステーキが食べられなくなれば、お豆腐が食べられなくなるのも時間の問題です。だから、死ぬまで食べるのだと決意して、セルフメディケーションをしましょう。
その一方で、歯科衛生士さんに本格的な歯磨きを行なってもらうのもおすすめです。歯科衛生士は単独で開業できませんから、歯医者にかからないといい歯科衛生士に巡り合えません。医者より歯医者です。もちろん保険が効きます。口全体を1時間かけてピカピカにしてもらって、自己負担額2000円という世界です。

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長尾 和宏(ながお・かずひろ)

医学博士

1958年、香川県生まれ。1984年、東京医科大学卒業、大阪大学第二内科入局。大阪大学病院第二内科、市立芦屋病院内科などを経て、1995年、尼崎市に長尾クリニック開業。複数の医師による365日24時間態勢で、外来診療と在宅医療を両立させ、40年間の医者生活で2500人の最期を看取る。2023年、長尾クリニックを定年退職。主な著書に、『歩く人はボケない』(PHP新書)、『病気の9割は歩くだけで治る!』(ヤマケイ文庫)、『「平穏死」 10の条件』(ブックマン社)、『僕とイベルメクチンの物語』(南東舎)など。

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(医学博士 長尾 和宏)
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