※本稿は、長尾和宏『病気の9割は自分で治せる!』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■脳に最も効果があるのは「小旅行」
認知症になりたくなかったら、進行させたくなかったら、とにかく歩いてくださいと、『歩く人はボケない』(PHP新書、2025年)に書きました。特に、朝に日光を浴びながら歩くことでメラトニンの分泌を促し、よい眠りに就くことが大事です。
高齢になればなるほど、人は歩かなくなります。自分でやるべき認知症対策は、糖尿病と基本的に同じです。食事管理とこまめに歩くなどの運動をすることが何よりも大切です。毎日外出をすれば、「脳トレドリル」をしなくても、さまざまな刺激を受けて、脳も活発に動きます。
いちばん効果があるのは、意外かもしれませんが、「小旅行」です。日帰りでも一泊でも、どんどんいろいろなところに出かけてみるととてもいい。
近場でもいいのです。温泉なら最高ですね。
■旅行の際はGPSや連絡先カードも必須
そういう幸福感は、生きる意欲につながり元気が出ます。なるべく無理のないスケジュールにしましょう。訪問する場所が多くなりすぎると、どこに行ったのか思い出せなくなるリスクが増えます。現地での移動は短時間で、休憩を多めにとることも大事です。
徘徊(はいかい)や混乱への備えも忘れないようにします。GPS機器や連絡先カードの携帯、同行者がサポートしやすい備えをしてください。過去に訪れたことのある、思い出の場所を選ぶのもおすすめです。回想を促し、安心感をもたらしますから、気分が向上すると思います。週の前半は空いている宿が多いです。
温泉で温まることが温熱療法にもなります。40~42度ぐらいの温泉で温まれば、ヒート・ショック・プロテイン(HSP)というタンパク質が作られて、免疫機能が上がります。いいことずくめなのです。小旅行は、認知症にとってとても良い養生法だと思います。できれば毎月行きましょう。
■認知症に薬の効果は期待できない
認知症、特にアルツハイマー病の原因については、長年「アミロイドβ仮説」が主流でした。アミロイドβというタンパク質が脳内に異常に溜まり、神経細胞を傷つけてアルツハイマー病を引き起こすとされていました。
ですが、近年では「炎症説」や他の仮説にも注目が集まっています。その背景には、アミロイドβを標的にした治療の限界が見えたことがあります。アミロイドβ仮説に基づいて、多くの製薬会社がアミロイドβを減らす薬をたくさん臨床試験しましたが、期待された効果は見られていません。
最近、認知症の人には脳内に慢性炎症があることがわかってきました。脳内でミクログリア(脳の免疫細胞)が活性化していて、慢性的な炎症が起きています。
■適切な処方ができる医師が少ない
認知症は現在では多因子疾患としての理解が進んでいます。単一の原因ではなく、アミロイドβ、タウタンパク、炎症、血行障害、代謝異常など、複数の要因が絡み合って発症・進行すると捉えられています。このような原因究明の動きを見ても、現在使われている認知症の薬は大きな効果は期待できません。
今、日本では抗認知症薬として4種類が保険適用となっています。
①アリセプト(ドネペジル塩酸塩)
②レミニール(ガランタミン臭化水素酸塩)
③メマリー(メマンチン塩酸塩)
④イクセロンパッチ/リバスタッチパッチ(リバスタチグミン)
私はこれらの効用について、全否定はしませんが、基本的におすすめしていません。一時期だけ適量ならば有効なものもあります。ただ現状は、抗認知症薬を必要な人だけに適量処方できる医師はごく少数です。認知症の疑いのある患者を前にすると、自動的に「ドネペジル(アリセプト)だ」という回路になっている医者が多い。反射的に薬を出すだけ。
そんな医者にかかるぐらいだったら、旅行に行ったほうがはるかにいいでしょう。
■身の回りのことは「自分でする」
レカネマブという点滴薬も、軽度認知障害(MCI)から認知症への移行を遅らせる薬としてメディアで盛んに宣伝されています。しかし、効果を問われるとかなり疑問があります。
この薬は高価で、70歳の平均年収の人だとして高額医療費制度を使った場合でも、年間15万円ぐらいはかかってしまいます。現時点では認知症の薬剤に対して過大な期待を持つことはやめて、ひたすら良いライフスタイルを心がけてください。
認知症も養生の病気であると認識している医者は、少ないかもしれませんが、そういう人を探して、かかりつけ医に選んでほしいと思います。ある程度認知症が進んでも養生の基本は、「自分でできることは自分でする」ことです。できないところだけを介助します。
たとえば料理ができるとか、掃除や洗濯ができるとか、散歩は自分で行けるとか、自分でできることを止めないこと。介護をする側からすれば、できることを奪わないこと。それが大事です。ホームヘルパーさんを入れて、できることまで奪ってしまっていることが往々にしてあります。
身の回りの用事や家事も養生のうちと思って、自分でやるという姿勢が大切です。周りの人も、支えなければいけない部分と、支えなくてもいい部分をしっかり見極めてあげてください。
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長尾 和宏(ながお・かずひろ)
医学博士
1958年、香川県生まれ。1984年、東京医科大学卒業、大阪大学第二内科入局。大阪大学病院第二内科、市立芦屋病院内科などを経て、1995年、尼崎市に長尾クリニック開業。複数の医師による365日24時間態勢で、外来診療と在宅医療を両立させ、40年間の医者生活で2500人の最期を看取る。2023年、長尾クリニックを定年退職。主な著書に、『歩く人はボケない』(PHP新書)、『病気の9割は歩くだけで治る!』(ヤマケイ文庫)、『「平穏死」 10の条件』(ブックマン社)、『僕とイベルメクチンの物語』(南東舎)など。
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(医学博士 長尾 和宏)

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