高市政権の支持率が低下している。これを高市首相自身はどう捉えているのか。
社会学者の西田亮介氏は「先日行われた記者会見の内容を見るに、首相の自己評価はきわめて甘いと言わざるを得ない。加えて“大誤算”もあったと考えられる」という――。
■高市首相「反省点は特にございません」
7月27日、特別国会の閉会を受けて高市早苗首相の記者会見が開かれた(注1)。政府提出法案64本全ての成立を「通常国会やそれに準ずる特別国会では戦後4回目」と述べ、改正産業競争力強化法、防災庁設置法、いわゆる高校無償化などを列挙した。
そのうえで話は「日本成長戦略」「地域未来戦略」、さらには「政府の予算の作り方」の根本的な改定にまで及んだが、実は内実に乏しい。そもそも租税特別措置の削減は進んでいない。また基金の造成のように、単年度主義の原則を逸脱する「例外」としてではあるが、国家予算の事実上の複数年度化はかねてからなされてきたことだからだ。
加えて「日本経済は音を立てて動き出しつつある」「反省点というのは特にございません」という、きわめて甘い政権の自己評価が繰り返された。
注1:首相官邸『高市内閣総理大臣記者会見』(2026年7月27日)
■自己評価とは真逆の「支持率低下」
だが、その直前から各社の世論調査が伝えていたのは、正反対の数字である。
毎日新聞が7月18・19日に実施した全国調査では、内閣支持率は前回(6月20・21日)の51%から10ポイント下落して41%、不支持率は35%から9ポイント増えて44%となり(注2)、2025年10月の政権発足以来はじめて不支持が支持を上回った。
他社が調査した支持率の傾向も同様である。読売新聞は7月24~26日調査で57%(前月69%)、日経・テレビ東京は58%(同68%)、朝日新聞は53%(同60%)、共同通信は53.7%、時事通信は49.0%、産経・FNNは61.6%(注3)。
いずれも発足以来の最低水準を更新した。
毎日の41%と産経・FNNの61.6%には20ポイント以上の開きがあり、調査手法も母集団も異なる以上、社をまたいだ水準の単純比較は慎重であるべきだが、同一手法の前回比、すなわち変化量は別である。読売のマイナス12ポイント、毎日のマイナス10ポイント、日経のマイナス10ポイント、朝日のマイナス7ポイント。異なる手法の調査がそろって同方向に大きく動いた点は重い。
もちろん、衆院選で得た議席数、野党の分裂、そして「保守の切り札」という期待もあって、これまでの支持率が高すぎたという面はある。現在の水準そのものは、過去の政権と比べて特段低いといえる状況にはない。
とはいえ、この高すぎる政権の自己評価と、支持率低下の理由はあわせて考えてみるに値するといえる。そこで、政権の自己評価を中心に、さしあたり3点の検討を加えてみることにしたい。

注2:毎日新聞「内閣支持率が大幅下落41% 不支持率が逆転 毎日新聞世論調査」(2026年7月19日)

注3:日本経済新聞「高市内閣支持率、報道各社で下落相次ぐ 7月世論調査」(2026年7月27日)
■内閣提出法案の数は多いが、その中身は
第一に、内閣提出法案のすべての成立についてである。64本全成立という数字は、参議院で与党が少数である現状を踏まえれば、たしかに国会対策上の達成ではある。だが有権者が見ているのは本数だけではなく、その中身であり順序であり、実質であろう。
今国会で優先的に政治的資源が投入され、成立したのは、改正皇室典範や副首都法、国旗損壊罪新設であった。

いずれも自民党の政権公約であると同時に、日本維新の会との連立政権合意書に由来する案件だった。
他方、生活に直結する飲食料品の消費税引き下げは、「検討を尊重する」はずだった社会保障国民会議の実務者会議が結論を出せないまま閉会を迎えた。会見でも首相は「社会保障国民会議の結論を先取りすることはいたしません」と述べるにとどまったはずだが、最終的に総理裁定となり、7月30日になって「自らの判断」で実施する運びとなった(とはいえ、法改正は秋の臨時国会次第だ)。
しかし、そうだとすれば、政府与党原案も示さずに始まった社会保障国民会議とはいったい何のための会議だったのか、ということになる。
つまり、合意文書に書かれたものは通り、書かれていないものは積み残された。少数与党と連立合意という構造が生む優先順位である。生活に関する問題が棚上げされたという見方もできるだろう。
■経済指標と国民の実感の乖離
第二に、経済をめぐる指標と実感のずれである。政権周辺には現状をインフレと呼ぶことに慎重な論者もいるようだが、首相自身は会見で「経済学的に物価上昇それ自体をインフレと呼ぶのであれば、今はインフレの状況にあると思います」と明言した。
ただし同じ答弁で「デフレに戻る見込みがない、すなわちデフレを脱却したと言える状況にはないと考えております」とも述べている。
政府のデフレ脱却の定義に照らせば手続き的には整合するが、「インフレは認めるがデフレ脱却は宣言しない」という二重の位置取りが、有権者に届く言葉になっているとは考えにくい。
そのうえで首相は、物価上昇率1.7%はG7で最も低く、実質賃金上昇率1.8%はG7で最も高い、実質賃金は5カ月連続で前年同月比プラス、春季労使交渉は3年連続で5%超、株価も上昇していると畳みかけた。
これらは会期末と同じ7月24日に公表された内閣府の年次経済財政報告の評価とも重なる(注4)。
だが同じ7月21日、円相場は一時1ドル163円台をつけ、1986年12月以来39年7カ月ぶりの安値を記録している(注5)。
指標の良好さを列挙すればするほど、店頭価格や輸入物価との距離が際立ってくる。しかも首相自身、昨年末の補正予算について「去年の12月に通ったから、すぐにお金が行き渡るということではなく、まだ今月も執行が始まるところ」と説明している。
これは正直な答弁であると同時に、「まだ効いていない」ことの自認でもある。効果が届いていないことを認めながらG7比較を強調するという構成は、聞き手の側では「実感と違う」ということで、腹落ちしにくいだろう。

注4:内閣府「令和8年度 年次経済財政報告―成長型経済への本格的移行に向けた課題―」(2026年7月24日)

注5:日本経済新聞「円相場が一時163円台 39年7カ月ぶり安値更新、有事のドル買い」(2026年7月21日)
■高い支持率の中に「大誤算」の原因が
第三に、高い支持率の由来についての読み違いであろう。政権発足時の支持率は各社で6割台後半、2月の衆院選では316議席を得た。会見でも首相は「この大きな、大きな負託」と繰り返し、公約実現こそが使命だと述べている。
だが時事通信の7月調査を見ると、全体の支持率49.0%に対し、有権者の6割近くを占める無党派層の支持は39.6%で前月比7.8ポイント減。自民党支持層の支持率が86.5%と高水準を保つ一方で、無党派層の離反が全体を押し下げているという評価もある(注6)。
無党派層の支持は「委任」ではなく、条件付きの「預託」である。

閉塞感を変えてほしいという期待に対して返ってきたのが皇室典範と副首都であれば、預託は容易に引き揚げられる。316議席を政策転換への白紙委任と読んだのだとすれば、それが最大の誤算だったのかもしれない。
注6:時事ドットコム「「高市離れ」無党派で加速 内閣支持4割切る◆時事通信7月調査【解説委員室から】」(2026年7月16日)
■会見から見えた「首相が今重視するもの」
会見のやりとりで最も示唆的だったのは、日本テレビの記者が今国会の反省点を問うた場面である。
首相は「反省点というのは特にございません」と答えたうえで、「あえて言えば、もう少しマーケットへのメッセージ、市場への発信、こういったことが重要になってくるのではないか」と続けた。
支持率低下について問われた際には「世論調査の結果やその要因についてコメントするということは差し控えます」「数字に一喜一憂することなく」と述べている。つまり、説明の相手として名指しされたのは市場であって、有権者ではなかった。この非対称は、意図されたものではないだろうが、現在の政権の重心の所在を映しているように思われる。
そののち、円ドルレートが急騰し、当局の介入があったと目されている。消費税減税を発表し、動揺する市場を政府介入で沈静化しようとする動きは、本末転倒だ。効果がどれだけ続くのかも疑問だ。
同じ質疑で首相は、英国首相の国会出席時間が年間40時間程度であることを紹介し、「我が国が向かうべき方向性ですとか、国家像を腰を据えて戦略的に考える時間を取ることは、なかなか簡単ではない」とも述べた。
国会改革論としては傾聴に値する論点であり、筆者も日本の首相の国会拘束時間の長さは検討に値するとは考える。
だが、各社が下落理由として「説明不足」を挙げている局面でこれを語れば、説明責任からの後退と受け取られても仕方がない。
■8月は消費税をめぐる議論に注目
今後を見れば、飲食料品の消費税引き下げをめぐる方針決定は8月上旬、秋の国会には衆院定数削減法案が控える。内閣改造と党役員人事について首相は「現時点で私から申し上げることはございません」と述べたが、支持率がこの水準で推移するなら、体制の組み替えは政治的な選択肢として浮上せざるをえないだろう。維新からの連立入りの可能性も強く報道されている。
福岡県議会の正副議長ポストをめぐる金銭授受疑惑への対応も、「福岡県連の対応を踏まえて」という説明のままでは収まりにくいし、令和の「政治とカネ」問題についての言及も乏しい。
支持率が下がること自体は、どの政権にも起きうることである。重要なのは、その下落を「説明不足」と診断するのか、「優先順位の齟齬」と診断するのかの違いだ。
前者であれば説明の量と機会を増やせばよいが、後者であれば順序を変えるほかない。7月27日の会見からは、どちらの診断も明示されなかった。
「反省点は特にない」という言葉が強気の演出なのか、それとも本当に齟齬が認識されていないのかは、消費税をめぐる議論が決着したことでおおむね明らかになるはずである。
そして、その帰結は、2027年春の統一地方選や大阪都構想をめぐる住民投票、さらに2028年の自民党総裁選、参院選と続く大きな政治日程にも影響してくることだろう。

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西田 亮介(にしだ・りょうすけ)

日本大学危機管理学部教授/東京科学大学特任教授

1983年京都生まれ。
博士(政策・メディア)。専門は社会学。著書に『メディアと自民党』(角川新書、2016年度社会情報学会優秀文献賞)、『コロナ危機の社会学』(朝日新聞出版)、『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください 17歳からの民主主義とメディアの授業』(日本実業出版社)ほか多数。

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(日本大学危機管理学部教授/東京科学大学特任教授 西田 亮介)
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