■爆発的に売れている日本製ゲームの正体
開発者はたった2人、制作期間はわずか2カ月、そして宣伝費はゼロ。こうした限られたリソースの下でリリースされたゲームが、売れに売れている。
日本のインディーゲーム開発者が今年6月に世に送り出したPC向けかくれんぼゲーム、『めっちゃカメレオン』だ。発売から1カ月足らずで世界計1500万本を売り上げた。英PCゲーム専門誌のPCゲーマーは、売上総額が推定約6000万ドル(約98億1000万円)に達すると分析する。
英ゲーム情報サイトのゲームズレーダー+によると、ゲームアナリストのダニエル・アフマド氏は本作を、2026年において「最多本数を販売し、最速でそこに達したゲーム」と評した。
コンセプトを一言で表すなら、いわば「塗り絵×かくれんぼ」の新感覚ゲームだ。
公式ページの言葉を借りるなら、「隠れ方がちょっと特殊」。真っ白なボディーに絵を描き込み、ステージのどこかに擬態する。プレイヤーは「隠れる側(ハイダー)」と「探す側(シーカー)」に分かれ、マルチプレイヤー対戦に興じる。
入念に描き込んで、壁に掛けられた絵画の中に紛れるも良し。
■ゲーム配信者が夢中になる「絵の攻防」
米ゲーム・エンタメメディアのIGNも取りあげたように、『めっちゃカメレオン』は配信者たちの間で爆発的な人気を集めている。背景と見分けがつかないほど巧みな絵を描くプレイヤーと、怪しい「絵」を見破ろうとする鬼。その攻防に、配信画面の向こうの視聴者も引き込まれ、瞬く間に話題となった。
かくれんぼ型の対戦ゲームは、ゲームの世界で長い歴史を持つ。FPS(一人称視点のシューティングゲーム)でもMod(非公式の拡張機能)として2000年代から遊ばれてきた。『めっちゃカメレオン』も同じかくれんぼ型だが、仕組みを大きく作り替えた。
従来のように開発側が用意した小道具にそのまま変身するのではなく、プレイヤーが自らブラシを手に取り、自分の体を塗る。何に化けるかは、すべて腕前と発想次第だ。
『めっちゃカメレオン』はPC向けゲームの配信プラットフォーム「Steam」で、専用タイトルとして6月10日に発売された。
アメリカ向け価格は1本5.99ドル(約980円)という低価格も追い風となり、シンガポールeスポーツ情報サイトのゴスガーマーズによると、販売数は16日間で1000万本を突破している。販売数の加速は驚異的で、700万本から1000万本までわずか4日で記録を伸ばした。
いわゆる「AAA(トリプルエー)」と呼ばれる大作の実績をも上回るハイペースだ。同誌は、カプコンのバイオハザードシリーズ最新作『バイオハザード レクイエム』がシリーズ最速ながら700万本到達に2カ月弱を要し、パールアビスの『紅の砂漠』も600万本達成に約3カ月かかったと指摘する。
■『マリオカート』の2.7倍売れた
『めっちゃカメレオン』と同じく6月に発売された任天堂のスイッチ2向けソフト『マリオカート ワールド』は、1カ月弱で世界合計563万本(本体同梱版含む)が売れている(任天堂公式資料より)。これも大変な勢いだが、『めっちゃカメレオン』はその約2.7倍の数のファンに届いた計算だ。価格こそ国内価格790円であり対等な比較は難しいが、話題性の高さを証明するかのようだ。
日本発のインディーゲームだが、主な購入者は海外のプレイヤーだ。7月27日時点で寄せられているレビュー全7万5594件のうち、日本語によるレビューはむしろ617件と少数派であり、海外熱の高さが窺える。過去30日間に世界から寄せられたレビューの89%が肯定的評価であり、「非常に好評」の判定を獲得している。
PCゲーマーは、割引価格だった初週の売り上げが限定的であったことから、大半は定価で購入されたと推定。
なお、Steamの手数料は通常30%だが、売上が5000万ドル(約81億8000万円)を超えると20%に下がる仕組みがあり、同作はすでにこの水準を超えた可能性が高いという。
■爆発的人気の影にあった不遇の時代
輝かしい成功を収めた本作だが、そこへ至るまでの長い助走があったことは、世間にあまり知られていない。
ゲーム業界関係者のジョン・ハンソン氏はリンクトインへの投稿で、『めっちゃカメレオン』がヒットした経緯について、「2カ月で作って一夜で爆発したのではない」と分析する。「長年の静かな作業が、一度にすべて報われたのだ」
ハンソン氏によると、開発者の2人は製品の発売に踏み切る前に、18カ月の準備期間を設けていた。舞台に選んだのは、人気バトルロイヤルゲーム『フォートナイト』内でプレイヤーが自由にゲームを設計・公開できる「クリエイティブ」モードだ。多くのプレイヤーが集まるこの実験場で、コアループ(ゲームの根幹となる遊びのサイクル)を試作・検証した。
こうした検証と並行して、2人は2年間で5本のゲームをリリースしている。最大8羽のペンギンが協力して橋を完成させる『LINK Penguins』、大ヒットしたインディーゲーム『8番出口』ライクな『8ペン出口』などだ。米ゲーム市場分析ニュースレターのゲームディスカバーコ・ニュースレターは『LINK Penguins』の販売本数を約5000本と伝えるなど、いずれもヒットには至らなかった。
だがハンソン氏は、これらをすべて「練習」だったと評する。
■20年放置されたジャンルに新風を吹き込んだ
売れなかった前作群があってこそ、2カ月という超高速での開発が可能になった。日本のゲームメディア「ゲームウィズ」のインタビューで開発者のLEMORION(レモリオン)氏とはがねいろ(HAGANEIRO)氏は、過去プロジェクトの開発資産を流用したことで、開発のスピードが向上したと説明している。
こうしたコードや素材の蓄積に加え、ジャンルの選択にも光るものがあった。ハンソン氏は、20年にわたり愛されてきたプロップハントのジャンルを、現代的にアレンジする試みがなかったと指摘。長く新鮮味がなかったエリアに、一気に新風を吹き込んだ。
試みは瞬く間にファンの心を掴んだ。コミュニティアプリのディスコードで参加者を集めたプレイテストを経て、発売日の告知に至ると、その時点でSteamのウィッシュリスト(購入希望の事前登録)は11万件に達した。ハンソン氏は、勢いは衰えることなく、発売日までに60万件にまで伸びていたと振り返る。
ここまでの爆発的なヒットを見れば、通常であればプロモーション活動の存在が想起される。巨額の広告費が投じられていたり、大手配信者に大規模な報酬が支払われていたりなどの動きだ。
だが開発者は、プロモーションに1円も投じていないと明言している。
■「誰かに見せたくなる」巧妙なゲーム設計
プロモーション活動をすることなく『めっちゃカメレオン』は2026年屈指のヒットとなった。同メディアは、成功要因は口コミであったとし、少ない素材でもコンセプトが一目で伝わり、実際のプレイが期待を裏切らなかった点が大きいと分析する。
では、口コミが伸びたのはなぜか。ゲームの性質上、「共有したくなる瞬間」が次々と訪れることが大きい。米eスポーツ専門メディアのインベン・グローバルが取りあげるように、完璧に背景へ溶け込んだプレイヤーや、目の前の相手を見つけられずに右往左往する鬼を映したショート動画が、SNS上で次々とバズを生んだ。プレイするたびに思わず誰かに見せたくなる驚きと笑いが生まれ、広告に頼らずとも遊んだ人が自ら広めていくサイクルが実現した。
こうした「シェアしたくなる設計」は、とりわけ配信者に大きな影響を与えた。米ゲーム情報メディアのアフターマスは、本作のプレイヤーには創造性と機転が「あると有利」なのではなく「不可欠」だと論じ、配信者が加われば緊張と爆笑が連鎖すると評した。報酬を支払わずとも、クリエイターが自ら集まる条件がゲームの設計に備わっていたのだ。
ゴス・ゲーマーズは、この拡散パターンには前例があると指摘する。コロナ禍に世界を席巻したオンライン人狼ゲーム『アマングアス』だ。
■大ヒット作の裏にある残酷な成功確率
もっとも、この成功が他の開発者にとって再現可能なモデルかといえば、業界の見方は慎重だ。
ゲームディスカバーコ・ニュースレターは本作を「予見不可能なメガヒット」と評する。作品自体、インディーゲーム特有の「雑然としている」「ゲームプレイが薄い」という印象を完全には脱していない。そのため、仮に大手パブリッシャーに持ち込まれていた場合、多くの企業は契約を見送っただろうとの分析だ。
こうした口コミ爆発型のゲームはリターンこそ非常に大きいが、成功確率は「落雷に当たるのと同じくらい」だと同記事は述べる。そこそこの安定した成功作というものがほとんど存在せず、大当たりか完全な失敗かのどちらかしかない。この構造ゆえに、意図して成功を狙いにくい。
成功の見込みの薄さに加え、作品の持続力にも疑問が残る。アフターマスは、『めっちゃカメレオン』といえど現時点ではコンテンツが「かなり骨組みだけの状態」であり、長期的な人気維持は難しいとの見通しを示した。
こうした現実を前に、ハンソン氏はリンクトインで、「教訓は『配信でウケるゲームを作れ』ではない。誰もがそうしたものを作るが、大半は何も売れない」と警鐘を鳴らす。
とはいえ、『めっちゃカメレオン』の勢いは当面続きそうだ。人気のジャンルながら久しく刷新がなかった物事に、ユニークな視点を掛け合わせられないか。人々が心躍らせ、シェアしたくなる仕組みとは何か。こうした視点は、ゲームのみならず多様なビジネスの領域で活用できることだろう。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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