■『科学漫画サバイバル』『理科ダマン』の次は…
2026年春、各社から相次いで「算数マンガ」が出版され、話題を呼んでいる。
『ひらめけ! 算数ドカン!』(KADOKAWA)
『挑め! 算数クエスト』(マガジンハウス)
『マンガでなるほど 算数トリビア~ン』(Gakken)
算数ものの学習マンガは、小学館が以前から出している『ドラえもん』のシリーズなどが有名だが、最近のそれはひと味違うという。
小学校の算数に関しては、10歳頃から授業に出てくる図形・小数・分数などにつまずいて、算数嫌いになる児童が少なくない。いわゆる「小4の壁」の一つだが、今春に出た冒頭の算数マンガはこの問題にフォーカスした編集方針になっている部分もあるというのだ。
いったいどういう内容なのか。
その前に知っておきたいのは、近年の学習マンガのトレンドだ。『科学漫画サバイバルシリーズ』(全95巻・朝日新聞出版)や『つかめ!理科ダマン』(全12巻・マガジンハウス)など大ヒットした韓国発のシリーズに牽引されるところが大きい。
結果、いまの小学生に支持される学習マンガには以下のような特徴がある。
①大判の判型でフルカラー
②アクションやギャグが多い
③学年や単元とあまり紐づけられていない(例えば、「小3の教科書で習う内容を必ず扱っている」わけではない)
この流れを前出の算数マンガもしっかり踏まえている。最大の特徴は、やはり②の「笑いから算数に入る」という点だろうか。具体的に算数マンガがどのように誕生したか、2冊の編集現場の人に聞いてみた。
■世界で150万部超 冒険算数マンガ『算数ドカン!』
最初は、KADOKAWAの『ひらめけ!算数ドカン!』だ。
本作は、韓国で『サバイバル』シリーズの一部として刊行されており、主人公の少年・少女が算数を題材に冒険や難題に挑んでいくストーリー。全世界累計で150万部を突破している。
読者の想定年齢の中心は小3~4で、小1~6までカバーするとのことだが、この7月に発売された第2巻では、「負の数字(マイナス)」も登場するなど、「算数」を超えた中学「数学」の範囲も一部扱っている。
KADOKAWAの図鑑・実用児童書編集部、雨宮郁江さんはこう語る。
「物語を通じて、読者の子どもが自然に疑問を持つようなことを算数・数学の問題として取り上げていく形になっています。マンガを読むだけで学校や塾の勉強のように演習まで含めて理解してもらうことは当然できませんが、よくはわからなくても『まだ習ってないけど、こういうのがあるんだ』と興味・関心をもってもらえるような作りになっています」
■「算数が苦手でもゲラゲラ大笑い!」
同編集部では『角川の集める図鑑GET! あそべる算数』という未就学児~小学校低学年向けの算数図鑑が好評だったことから、「その先の年齢の子たちが読める本を」という流れで、本来は図鑑が守備範囲の編集部から学習マンガが生まれたそうだ。
同編集部で『算数ドカン!』日本語版企画の立ち上げに携わった松山彩香さんも言う。
「学習参考書ではなく、あくまで楽しく読める児童書として作っています。(執筆する)作家陣も算数がつまらないものに見られがちな点に問題意識を持っていて、『算数でこんなことができるんだ!』というとっつきやすさを重視した作りになっています」
1巻の帯には「算数が苦手でもゲラゲラ大笑い!」とあり、子どもが嫌う「勉強っぽさ」が見事に取り除かれている印象だ。このビジュアルに関しては、オリジナルの韓国語版からカバーイラストやデザインを変更し、日本版ではキャラクターを強く押し出し、ギャグマンガらしさを強めているという。
設定はこうだ。
日本の算数マンガや学習参考書にはなかなか出てこないような算数雑学や計算方法も出てくる。例えば、直角三角形の「斜辺」(一番長い辺)の2乗は、他の二辺の2乗の和に等しいという「三平方の定理」を使って、主人公たちが直面するトラブルを解決していくというストーリーが登場するのだ。
子どもにとっては「小学校では習わないことを知っている」ことは、他の子よりもちょっと賢く、誇らしい気分にさせてくれるに違いない。それで、ますます本の世界に没頭していくのだ。
■「日常と結びつけて学ぶ」国産学習マンガ『算数トリビア~ン』
次に紹介するのは、『マンガでなるほど 算数トリビア~ン』(Gakken)。この作品は『算数ドカン!』と共通点がありつつも、韓国発ではないなど、いくつかの点で対照的な作りになっている。
こちらの作品は児童書ではなく、ふだんは学習参考書を手がけている編集部発の企画だ。
企画発案者のGakkenコンテンツ開発本部 小中教材編集課、算数/数学・理科チームの矢野江里子さんはこう言う。
「『算数が嫌い』という先入観を持つ前に、まずは学校の授業では教えてくれないような楽しい雑学を通して、算数の楽しさに触れ、興味を持ってほしい、というのがコンセプトでした。
『算数トリビア~ン』の企画背景には、大きく2つのことが絡んでいる。
ひとつめは、学習指導要領でも算数・数学を日常生活などと関連づけて学ぶことの重要性が示されているにもかかわらず、学校で定期的に実施されている「全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)」の結果を見ると、算数・数学と日常生活との関連を扱うような問題で課題が見られた点だ。
ここに矢野さんは注目した。
日常生活の中には後述するような算数や数学に関係する現象や形状が多い。そこをマンガで拾っていくことで「本を読んだあとに、日常の景色を見て『あ、ここにも算数って役に立っているのか』『本で見たのと同じだ』と自分で発見できれば、その気づきがこれからの学びにつながるのかな、と」(矢野さん)
■マンホールはなぜ円い形なのか?
例えば、マンホールだ。円い形になっているのは、なぜかご存じだろうか。実は、フタの落下を防ぐため(円の直径はどこを測っても同じ長さで、どんな向きでも幅が変わらない)なのだが、本作のマンガではそれをさくっと説明するシーンがある。おまけ情報として、マンホールが仮に四角形だと、1つの辺の長さが四角形の対角線より短いケースがあり、そうなると穴の中に落ちてしまう、というプラスαの説明もある。
もうひとつの流れは、エンタメ、キャラクター学参の需要の高まりだ。
各社から刊行されているが、Gakkenでも『ゆるゆる図鑑 読解力ドリル』や『最強王図鑑ドリル』など、人気のキャラクターやIPを使った、楽しく学べる参考書やドリルが好評だ。同チーム長である田中丸由季さんはこう語る。
「軽い見た目の参考書で学ぶことに抵抗がなく、子どもが夢中になり、自ら理解を深めてくれるものを求めている保護者さんが増えているのではないでしょうか」
国産マンガ、それもGakkenの学参編集部発だけあって、算数雑学を扱うにしても、日本の各学年の学習指導要領や教科書を踏まえ、子どもにわかりやすいよう表現を配慮している点に特徴がある。
「各章のあとにはコラム『ちょこっとプラス』やクイズを挟んで、読者に『考えてみよう』『やってみよう』と促しています。ケーキの切り分け方など日常的な題材をもとに、自分で電卓を使ったり手を動かしたりすることで、より具体的に算数を実感してもらえたら」(矢野氏)
■解き方より「やる気」「興味」が大事
子どもを持つ親の多くが日々実感しているのは、具体的な勉強法や解法を子どもに教えること以上に、勉強に対して興味・関心を持ってもらうのが難しい、ということだろう。
子どもに限らず誰でも、苦手なもの、面倒くさいものほどやりたがらない。いくらわかりやすい教材を渡しても、動機や興味がセットされていなければ子どもは見向きもしない。
しかし、逆に言えば「おもしろそう」と思いさえすれば、勝手に調べたり、自分であれこれ試したりして、けっこう高度なことまで学んでいくこともある。
つまり、解き方のテクニックや勉強術以上に、「やる気」「興味」のスイッチを押すこと、その分野を好きだと思ってもらうことのほうがずっと大きな課題なのだ。
『算数ドカン!』や『算数トリビア~ン』のギャグ重視のスタンスは、大人世代からすると、学びから縁遠いもの、ユルいものと感じるかもしれないが、子どもには有益なのだ。
「好きか嫌いか、興味があるかないかによって、子どもが学びに向かうか向かわないかが決まる」という、その後の人生を左右する「算数学習の課題」の最も難しい部分をクリアしているのだ。
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飯田 一史(いいだ・いちし)
出版ジャーナリスト・ライター
1982年青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。
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(出版ジャーナリスト・ライター 飯田 一史)

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