※本稿は西山耕一郎、熊井良彦『長生きのど習慣 健康寿命はのどで決まる』(日本文芸社)の一部を再編集したものです。
■ノドの機能を維持=健康寿命を維持
ノドは生命維持に欠かせない嚥下・発声・呼吸路という3つの大切な機能を担っています。つまり、ノドの働きを強化することは、健康寿命を維持するために重要となるのです。そこで、ここからは、ノドの筋肉を鍛え、飲み込む力を高めるための方法を紹介します。
とはいえ、何も難しいことはありません。特別な機器やハードなトレーニングは必要なし。ノド仏を上下させる「ノドの筋トレ」や少し深い呼吸を意識する「呼吸トレーニング」など、日常生活に気軽に取り入れられるものばかり。
しかも、毎日たくさんやる必要もありません。何もしなければ、加齢でノドの機能は衰えますが、こうした小さな動きを意識するだけでも、ノド周辺の筋肉はしっかり使われ、少しずつ鍛えられていきます。
さらに、ノドは日常生活の中の何気ない動作でも自然に鍛えることができます。例えばウォーキングでは自然に呼吸が深くなり、飲み込みを支える力が養われ、会話やカラオケのように声を出すことも効果を発揮。
特に歌うときには呼吸をコントロールし、ノドやその周囲の筋肉をバランスよく使うため、無理のない飲み込み機能の維持・向上につながります。
■食事前のノド準備体操で「長生き」効果アップ
ノドのトレーニングはいつ行うかによって得られる効果は大きく変わります。中でも誤嚥予防に欠かせないのが食事前のタイミングです。
なぜなら、トレーニングによってノドの中で防波堤のような役割を果たしている喉頭蓋が動きやすくなり、食べ物が誤って喉頭から気管に入ることを防いでくれるからです。
また、ノドまわりの筋肉が準備運動をすることで飲み込む動きがスムーズになり、さらに唾液の分泌も促されるため、飲み込みはより円滑になります。
食事前の準備運動として、この後に紹介する「嚥下おでこ体操」「あご持ち上げ体操」「ペットボトル呼吸」の3つを行い、安心して食事を楽しみましょう。
休日など時間のあるときには、食事前の3つのトレーニングに加え、「ボール潰し体操」と「口すぼめ呼吸」も実践してみてください。でも、最初から完璧にやろうとせず、「嚥下おでこ体操とあご持ち上げ体操だけやってみる」くらいの気持ちで十分。無理なく続けることが、飲み込む力を保つ一番の近道になります。
続けるためには、ちょっとしたコツがあります。食事前のルーティンに加え、テレビを見ながらや入浴中など日々の流れの中に組み込むと習慣化しやすく、負担も感じにくくなります。忙しくて時間がとれない日や、体調がすぐれないときは、無理をする必要はありません。
■70歳を過ぎても改善効果あり
嚥下機能は加齢とともに少しずつ低下していきます。しかし、トレーニングによってノドを鍛えれば、衰えた機能を取り戻すことは十分可能です。40~60代はもちろん、70歳を過ぎてからでも嚥下機能の改善は期待できます。逆に言えば、早めに始めるほど、その先の健康寿命をのばすことにつながっていくのです。
最近ムセることが増えた、飲み込みにくさを感じる――そんな変化を感じたときこそ、「ノドトレ」を始めるタイミング。とはいえ、最初からがんばりすぎる必要はありません。大切なのは「一度にたくさんやること」よりも、「毎日続けること」です。
シンプルな運動でも毎日少しずつ積み重ねれば、ノドは確実に強化されます。反対に、「早く効果を出したい」と思いトレーニングの種類を増やすと、高齢者は体力がないので必要な体操が十分にできなくなります。特に真面目な人ほど、多くの種類をやりがちで挫折してしまう傾向があります。
まずは嚥下おでこ体操とあご持ち上げ体操を1日3セット始めましょう。
■シンプルな嚥下おでこ体操
手とおでこ、お互いを押し合うようにグッと力を入れるだけのシンプルな動きで、ノド仏が自然と上がりノドまわりの筋肉がしっかり鍛えられます。無理なく続けられますので、毎日の習慣にしましょう。
1セット:5秒間×10回/1日3セット以上
① おでこに手を当てる……おでこの中央付近に利き手の手のひらの手根部を当て、軽く下を向くうつむく。そのまま手根部でおでこを押し上げる。
(POINT)手根部は手首のすぐ上、手のひらの付け根部分。
② おでこと手で押し合う……そのままおじぎをするように頭を倒す。おでこで手を押し返すイメージで、おでこと手が押し合っていることを感じながら、5秒間キープ。
(POINT)ノド仏に力が入り上がっていることを意識して行う。
■ノド仏を動かす筋肉を鍛える
ノド仏を上下に動かす喉頭挙上筋群を鍛えるトレーニングです。大切なのは、ノド仏にしっかり力が入っている感覚をつかむこと。
1セット:5秒間×10回/1日3セット以上
① 両手をグーにしてあごに当てる……両手を握ってグーの形をつくり、手の甲を外側に向けてあごの下に当てる。その姿勢のまま、おへそをのぞき込むように頭を前へ倒して下を向く。
(POINT)手の甲を外側にすると力が入りやすい。
② あごと両手で押し合う……あごをぐっと引き、そのあごを持ち上げるように両こぶしに力を入れる。ノド仏が上がっていることを意識し5秒間キープ。
(POINT)親指だけであごを持ち上げようとしない。
■顎でゴムボールをつぶすだけでも効果あり
ボールをあごで押し潰す動きは、飲み込むときのうなずく姿勢に近く、ノドまわりの筋肉を効率的に刺激します。ボールが適度な抵抗を与えてくれるので力も入れやすく、無理なくトレーニング効果を高められます。
1セット:5秒間×10回/1日3セット以上
① ゴムボールをあご下にはさむ……あごの下に小さめのゴムボールをはさむ。あごの奥までぐっと差し込むとゴムボールが落ちにくく、力を入れやすくなる。
(POINT)ゴムボールの大きさは直径6~12cmを目安にする。
② あごでボールを押し潰す……ゆっくり呼吸を続けながら、あごでゴムボールを押し潰すように頭を前に倒す。そのままの状態を5秒間キープする。息は止めずに5秒キープ!
(POINT)ゴムボールが落ちないよう手で支えて行う。10回1セットを1日3セット以上。
参照文献
岩田義弘他著「高齢者に対する頸部等尺性収縮手技(chin push-pull maneuver)による嚥下訓練――自己実施訓練の効果」『耳鼻と臨床』(2010)
杉浦淳子、藤本保志他著「頭頸部腫瘍術後の喉頭挙上不良を伴う嚥下障害例に対する徒手的頸部筋力増強訓練の効果」『日摂食嚥下リハ会誌』(2008)
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西山 耕一郎(にしやま・こういちろう)
医学博士、耳鼻咽喉科頭頚部外科 専門医
北里大学医学部卒業後、横須賀市立市民病院に勤務。横浜赤十字病院(現・横浜みなと赤十字病院)耳鼻咽喉科副部長、国立横浜病院(現・横浜医療センター)耳鼻咽喉科医長、北里大学耳鼻咽喉科診療助教授を経て、2004年に西山耳鼻咽喉科医院を開業。東海大学客員教授。藤田医科大学客員教授。嚥下相談医。嚥下認定士。神奈川県嚥下キーパーソン。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医師として、30年間で約1万人の嚥下障害患者の診療を行う。
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熊井 良彦(くまい・よしひこ)
医学博士、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医指導医
長崎大学大学院耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授。主な専門分野は聴覚障害、嚥下障害、音声障害。1999年に熊本大学を卒業し、熊本大学での准教授を経て、現職。長崎大学病院嚥下障害治療センター長、長崎大学病院頭頸部腫瘍センター長を併任する。
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(医学博士、耳鼻咽喉科頭頚部外科 専門医 西山 耕一郎、医学博士、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医指導医 熊井 良彦)

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