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今回は、2026年6月25日に発売される『学研の図鑑LIVE 鳥 新版』の編集の舞台裏を取材。
大学院で鳥を研究してきた経歴を持つ能重光希と、日ごろからバードウォッチングを楽しみ、子ども向け図鑑を数多く手がけてきた井上希望が担当。アカデミックな視点と子どもに届く編集の視点という異なる強みを持つ二人が、鳥の魅力をどのように一冊の図鑑へ落とし込んだのか、聞いてみました。
スズメ、ムクドリ、ツバメ、カラス。鳥は、通学路や公園、街路樹、川辺など、私たちの暮らしのすぐ近くにいる。
けれど、名前や鳴き声、どこにいるのか、どんな行動をするのかを知ると、何気なく見ていた鳥の姿は少し違って見えてくる。
『学研の図鑑LIVE 鳥 新版』が目指したのは、「見て、聞いて、鳥たちに会いたくなる」図鑑だ。鳥の姿を紹介するだけでなく、鳴き声や観察ポイント、最新の研究情報まで盛り込み、子どもたちが実際に外へ出て鳥を探したくなる一冊になっている。
本書に込めたこだわりと、二人だからこそ生まれた工夫を聞いてみた。
◆鳥は、いちばん身近な野生動物
二人が感じる鳥の魅力とは
まず、二人にとっての鳥の魅力を聞いてみた。
井上が語ったのは、日常のすぐそばにいる鳥だからこその面白さだ。
井上「鳥は身近な野生動物です。哺乳類は動物園に行かないと会えないことも多いですが、鳥は自然の中で見られます。東京都内の公園でも、多いときは30種類くらい見られることがあるんです。野生動物の生きざまを近くでも楽しめるのが、バードウォッチングの魅力かなと思います」
一方、能重がまず挙げたのは、鳥ならではの動きの魅力だった。
空を飛び、季節や環境に合わせて大きく移動する。その姿には、ほかの生き物とは違う広がりがある。
能重「鳥は飛ぶというのが、一番シンプルでいい魅力だなと思っています。飛ぶ姿がかっこいいですし、自由に移動して、日本どころか世界中へ移動できる。それは、ほかの生き物にはなかなかない特徴だと思います。どうやって飛んでいるのか、どういうルートで移動しているのかを想像するだけでもワクワクします」
さらに、図鑑で知った鳥に実際に出会えることも鳥を見る楽しさの一つだ。
能重「さまざまな場所で見られるというのが鳥の魅力だと思います。小さいころは図鑑を先に読んで、『こういう鳥がいるかもしれない』と覚えておいて、それが実際に家の近くや海岸、川で見られたときは、すごく楽しかったです」
そうした意味で、私たちにとって、もっとも出会いやすい野生動物のひとつといえる。
近くにいて、見つける楽しさがあり、知るほどに、行動や生態の奥深さが見えてくる。
その魅力を、子どもたちが実感できる一冊にすることが、今回の新版づくりの出発点となった。
◆目指したのは、「見て、聞いて、鳥たちに会いたくなる」図鑑
身近な鳥を「見つけられる」一冊へ
『学研の図鑑LIVE 鳥 新版』は、どのような図鑑を目指して作られたのか。
能重は、その工夫についてこう語る。
能重「コンセプトは、『見て、聞いて、鳥たちに会いたくなる』ということでした」
新版で重視したのは、ただ鳥の情報を紹介することではない。読者が実際に鳥を見つけやすくなること、そして図鑑で知った鳥に会いに行きたくなることだった。
たとえば、スズメのような身近な鳥も「街なかにいる」「住宅地にいる」と書くだけでは、実際にどこを探せばいいのかまではわからない。そこで本書では、生息環境だけでなく、さらに、その中のどの場所にいるかまで示している。
能重「『森にいます』と言われても、実際には森の中の枝の上にいたり、地面にいたりします。そのせいで見つけられない人もたくさんいると思ったので、今回はとにかく見つけられるようにしたかったんです。だから、実際にいる場所まで細かく書きました」
井上も、今回の図鑑では身近な鳥を手厚く紹介している点が魅力だという。
井上「特に身近でよく見られる鳥をきちんと紹介しよう、というのが今回のコンセプトにあります。たとえば街なかでよく見かけるムクドリは、人家のすきまに巣をつくったり、住宅地に大群で集まったりしている写真を載せています。そういう本当に近くにいる鳥を、生態写真も交えてしっかり紹介しているのが、今回の改訂の一つです」
また、写真にも、大きなこだわりがある。新版では、より特徴がわかりやすい写真に入れ替えたり、オスとメスで見た目が違う鳥は両方を載せたり、季節によって羽の色が変わる鳥は夏羽・冬羽を紹介したりしている。
能重「同じ種の中でも外見に多様性があるものは、なるべく載せるようにしました。紹介した種数が増えた以上に、写真の点数、ボリュームも増えていると思います」
また、今回の新版の大きな魅力の一つが、鳥の鳴き声を聞けることだ。
紙面にあるアイコンを無料アプリでスキャンすると、鳥たちの鳴き声を聞くことができる。
能重「家で聞いて楽しむのはもちろんですが、鳴き声を覚えていくと、野外で森の中に行ったときなどに『“あの鳥”の声が聞こえたから、今近くにいるかも』と探す対象がわかりやすくなります。今回は、鳴き声を実際に聞けるところにこだわりました。
鳥は、通学路にも公園にも家の近くにもいる。だからこそ本書には、子どもが「自分でも見つけられそう」と思えるような、観察のヒントが随所に盛り込まれている。
能重「初心者にとって、いきなりバードウォッチングをしてみようというのは、ハードルが高いと思うんです。だから、観察にも小さいゴールや目標を設定したほうが楽しめるだろうと思いました。たとえばツバメなら、飛びながら虫を捕るとか、水も飛びながら飲むとか。そうした身近な鳥の観察ポイントを入れています」
探す場所、鳴き声、観察ポイント。それらはすべて、読者が図鑑の外の世界へ出ていくための手がかりとなっている。こうした、図鑑を閉じたあとにすぐ行動へ移せる作りは、まさにLIVEシリーズらしい工夫でもある。
◆研究の視点と、子どもに届ける編集の視点
二人の強みが重なったとき
鳥には、さまざまな入口がある。
ペンギンやハシビロコウのように、動物園などでも人気のアイドル的な鳥。街なかで出会えるスズメやムクドリ。
その間口の広さをどう一冊にまとめるかも、今回の図鑑づくりのポイントだった。
能重「基本的には日本の鳥を詳しく紹介していますが、ペンギンやハシビロコウのような、いわゆるアイドルになっている鳥たちは海外の鳥でもスペースを使って紹介しています。ハシビロコウも1ページ半くらい使っていますね」
井上は、写真などの見た目も大切な入口として考えていた。
井上「かわいい写真をたくさん入れたいな、と思っていました。今回、研究者の方々が執筆したしっかりした内容のものなので、そこに近づきやすくするために、かわいい写真、かっこいい写真を入れていけたらと」
かわいい写真は単なる飾りではない。
かわいい、かっこいいと思ってページを開く。その先に、鳥の生態や分類、多様性といった奥深い世界が待っている。その奥行きを支えたのが、大学院で鳥を研究してきた能重の視点だった。
本書を制作するうえで、能重が大切にしたのは、鳥の多様性を伝えることだ。
能重「今回の図鑑で大事にしたかったのは、観察することと、鳥の多様性を知ってもらうことです。分類すると鳥は世界で44目(似たような特徴や共通の祖先を持つグループ)いるのですが、その44目を全部載せるということをやりました」
たとえばペンギン。
能重「ペンギンは今回採用した分類基準によると、世界で18種います。コウテイペンギンやオウサマペンギンは他の図鑑にも載っていますし、動物園にもいるので知っている方が多いと思います。でも、ロイヤルペンギンやフィヨルドランドペンギン、スネアーズペンギン、シュレーターペンギンなど、聞いたこともないような種類もいます」
また、能重の視点は内容の専門性だけでなく、研究者・監修者とのやり取りにも生かされている。
能重「今回、18名の研究者の方々にお世話になっています。学会に所属していたこともあって、知り合いの先生もいらっしゃいましたし、向こうも僕が研究室にいたことをわかったうえで、『こういう内容はどうですか』と提案してくださったんです」
制作の終盤で、監修者の一人が発表した論文を、急遽、反映させたりもしたという。
能重「イイジマムシクイという鳥は、世界でも伊豆諸島とトカラ列島だけで繁殖することが知られています。しかし、今回、制作の終盤になって『トカラ列島で繁殖するものは、伊豆諸島で繁殖するものとは別種のトカラムシクイだ』と提唱する論文が発表されました。今回お世話になった監修者の中にその論文を書いた方がいたので、掲載について相談しました」
掲載した写真は、実際にその論文で使われた写真だった。研究者とのつながりがあったからこそ、最新の情報を図鑑に入れることができたのだ。
能重「元々の知り合いということもあり、監修の先生には困ったことがあればすぐ相談できました。貴重な写真についても、専門の方を紹介してもらうことができたのは大きかったです」
ほかにも、本書には最新の研究に基づいた、シジュウカラの言葉を解説するページもある。
井上「テレビなどでも話題のシジュウカラの言語能力について、イラストを使ってどんなときにどんな言葉を使うかを解説しています。動物言語学者の鈴木俊貴先生は、私が学生の頃に山梨県のフィールドワークでご一緒したこともあり、以前から児童書の監修をお願いしたいと考えていました。今回鈴木先生のご監修のもと、子ども向けに最新のシジュウカラ語を掲載することができました。シジュウカラもとても身近な野鳥ですから、実際に野外で言葉を聞いてみてほしいですね」
専門家とのつながりに加え、知人やバードウォッチング仲間とのつながりも、写真の充実につながった。
能重「知り合いから写真を借りることのいいところは、ネット上に出回っていない、他の会社が使いたくても使えない写真を使えることです。知人からもらった写真で、すごくかっこいい写真が何枚かあります」
井上も、能重のそうした専門的なネットワークがあったからこそ、図鑑の内容が一歩踏み込んだものになったと感じている。
井上「能重さんとのつながりで、多くの研究者の方が関わってくださったことで、児童書としてかなり充実した内容になっていると思います。私だけではこうはできませんでした」
鳥の世界では、いまも新しい知見が生まれている。その動きを子ども向けの図鑑に反映できたことも、本書の大きな特徴だ。
一方で、専門的な情報を盛り込むだけでは、子どもが楽しめる図鑑にはならない。能重にとっても、子ども向け図鑑を数多く手がけてきた井上の編集視点は欠かせないものだった。
能重「最初のほうは、実は僕一人でやっていましたが、途中から井上さんにも参加してもらったんです。一人で作っていると、どこまでが初めて鳥を知る人にとって楽しめるものなのか、自分でも境目がわからなくなってしまって。都度、井上さんに確認していました」
さらに、井上自身も、制作を通して鳥の世界をあらためて学び直したと話す。
井上「私は本当に、ただのバードウォッチング好きだったので、初めて知ることがたくさんありました。目の前で出会った鳥のことしかわかっていなかったのが、先生方のお話を聞く中で、少し俯瞰して見られるようになったんです」
鳥を見て「かわいい」と感じるところから、もう一歩踏み込んで詳しく知る。その感覚も、井上が大切にしたことだった。
井上「私のように、ただ鳥を見て楽しんでいた人たちが、一歩踏み込んで学べる本にもなったらいいなと思います」
鳥について一歩踏み込んで知ることは、鳥との関わり方を知ることにもつながる。
井上は制作を通して、渡り鳥の保全や環境破壊、感染症、外来種、えさやりの影響など、ただ鳥を見ているだけでは気づきにくい問題も改めて知ったという。
井上「えさやりはいけないと言われていることはなんとなく知っていても、どういう影響があるのかまでは詳しく知らないこともありました。えさやりから感染症拡大につながったりもするんです。この本の後半で鳥をとりまく危機や保全についてまとめているので、そういったことも、あらためて知ってもらえたらと思います」
鳥を「かわいい」「見つけた」で終わらせず、どう見守り、どう関わるのかまで考える。そのための正しい知識も、本書に込められた大切な要素だ。
とはいえ、制作の途中では、親しみやすさを優先するか、正確さを優先するか、視点の違いからぶつかることもあったという。たとえば鳥の鳴き声を人の言葉に置き換える「聞きなし」でも、二人の考え方は違った。
井上「『聞きなし』というのは、鳥の鳴き声を人の言葉に当てはめて楽しむことです。たとえばコジュケイの鳴き声が「チョットコイ(ちょっと来い)」に聞こえるなど、初めは、『こういうふうに聞こえるよね』と言って覚えるような楽しみ方があります。初心者にとって聞きなしは手がかりになるというか、昔から人びとが親しんできた文化的なものでもあると思うんです」
一方、能重は別の立場をとる。
能重「僕は、違って聞こえることもあるし、誤解を与えるなら、むしろないほうがいいのではないかと思っていました」
最終的には、聞きなしと実際の鳴き声を聞けるアプリ機能とあわせて楽しめる形にした。言葉の親しみやすさと、実際に聞く体験。その両方を用意することで、図鑑の入口を広げている。
井上がつくった、かわいい・かっこいい・親しみやすいという入り口。
その先に、能重が大切にした鳥の多様性や最新の知見がある。
ときに意見を交わしながら、二人の視点が重なったことで、本書は「見て楽しい」だけでなく、「知るほどおもしろい」図鑑になっている。
◆図鑑を閉じたあと、いつもの公園が少し違って見える
『学研の図鑑LIVE 鳥 新版』が読者に届けたいこと
本書は、鳥に詳しい子だけのための本ではない。
今はまだ鳥にそれほど興味がない子どもたちが、身近な鳥に気づくきっかけにもなる一冊だ。
井上は、この図鑑を「観察につながる図鑑」と表現する。
井上「身近な鳥の生態写真や観察のコラムもありますし、探す場所も載っています。観察しやすくなるような情報がたくさんあるので、実際に見てみたいと思ってもらえる。観察につながる図鑑だと思います」
通学路でも、公園でも、校庭でも、鳥はすぐそこにいる。大切なのは、ただ「いる」と思っていた存在に気づくきっかけを持つことなのかもしれない。
井上「図鑑を見て出かけてもいいし、出かけて気になったら、また図鑑に帰ってきてもいい。体験しながら楽しんでもらえたらと思います」
能重「鳥は、意識すれば一年中どこでも見られる生き物です。まずは鳥が身近な生き物だということ、何気なく見ているだけでも、実はいろいろな発見があるということを子どもたちに伝えたいです」
図鑑を閉じたあと、空を見上げる。電線の上、公園の木の枝、校庭のすみ。そこにいる鳥たちは、もう「ただの鳥」ではないかもしれない。
名前があり、声があり、生き方がある。『学研の図鑑LIVE 鳥 新版』は、身近な野生動物である鳥を通して、子どもたちに観察する楽しさを手渡してくれる一冊だ。図鑑を閉じたあと、いつもの公園や通学路が少し違って見えてくる。その変化まで含めて、この新版の魅力なのだろう。