兵庫県に本社を置く株式会社吉住工務店が取り組む「障がい者グループホーム普及プロジェクト」が、近年国内外で高い評価を受けています。
2018年にグッドデザイン賞、2019年にIAUD国際デザイン賞銀賞を受賞した「みずほの家・ななつ星」のプロジェクトに加え、2020年には「障がいのある方のための住まいの普及」という取り組みそのものがIAUD国際デザイン賞銅賞に輝きました。
しかし、この華々しい成果の裏には、決して一筋縄ではいかない社会課題と真正面から向き合った、泥臭くも情熱的な葛藤と試行錯誤のストーリーがありました。
圧倒的に足りない「障がい者の住まい」と立ちはだかる現実の壁
日本の全人口の約10%。これは、何らかの障がいや難病を抱えている方々の割合です。決して少数派ではないにもかかわらず、高齢者施設に比べて「障がい者のための住まい」は圧倒的に不足しているという現実がありました。親御さんが高齢化し、自宅でのケアが限界を迎える中、地域で自立して暮らすための「グループホーム」へのニーズは切実です。しかし、いざ開設しようとすると、一般の賃貸住宅では大家さんの理解が得られにくく、建物の用途変更の申請も容易ではないという、極めて現実的で分厚い壁が立ちはだかっていたのです。
本来、住宅密集地や歴史的風致地区における福祉施設の建設は、近隣住民の皆様からの丁寧なご理解と調和が欠かせません。
本プロジェクトにおいても、私たちは景観保護やコミュニティへの配慮を最優先に計画を進めました。幸いにも、お施主様ご家族が長年築いてこられたご近隣との深い信頼関係が、この事業を地域に温かく迎え入れていただく大きな礎となりました。
この「街の景観と調和する福祉施設」という成功事例は、これからの地域共生型社会における、一つの理想的なモデルケースになったと自負しています。
ひとりの親の献身的な想いから始まった「ななつ星」の奇跡
そんな厳しい現実の中、私たちはあるご家族と出会いました。24年間、重度の障がいを持つ娘さんと暮らした経験から、「地域社会の中に障がい者が自然に溶け込める環境を作りたい」という純粋で献身的な想いを持っておられました。計画された場所は、篠山城跡の北側に位置する、歴史的風致を残す奥まった住宅密集地です。このような場所で地域共生型の事業所をつくることは、通常であれば困難を極めます。
しかし、私たちはその想いに深く共鳴し、設計・施工のパートナーとして伴走することを決意しました。
株式会社みずほの山中会長とは、13年前の親善旅行でのお出会い以来、長い年月をかけて信頼関係を築いてきました。
会長ご自身、障がいのある長女様との暮らしを通じて、ご家族の切実な悩みを誰よりも深く理解されていました。だからこそ、会長から相談を受けた際、私たちは単なる「受注」としてではなく、「絶対に形にしなければならない」という強い使命感で向き合いました。
採算性よりも、まずは大切なパートナーの願いを叶えることを最優先に。社内でも迷わず、全員がその想いを共有してプロジェクトに取り組みました。
建設にあたっては、建築のプロとしての誇りをかけた挑戦がありました。
入居者様にとって、ここは単なる施設ではなく「家」です。車椅子での移動を妨げる段差の徹底排除はもちろん、細部に至るまで使い勝手を突き詰めました。
建設地は城跡周辺の歴史ある場所であり、かつ地盤が緩い「馬場の跡地」という難所でした。私たちは徹底した地盤調査を行い、柱状改良によって強固な基礎を築きました。現場で職人たちが図面と格闘し、急な仕様変更にも柔軟に応え続けたのは、そこで過ごす方々に一日も早く「当たり前の日常」を届けたかったからです。
共に悩み、考え抜き、ついに完成した「みずほの家・ななつ星」は、入居者が地域のひとりの住人として、ご近所の方々とごく自然に関わり合いながら生活できる、温かなユニバーサルデザインの空間となりました。この奇跡のような独創的な試みが、後に国際的なデザイン賞という形で結実したのです。
想いを「仕組み」に変える。泥臭い試行錯誤とブレイクスルー
「親御さんが安心して障がいをもたれたお子様をゆだねられる福祉住宅をつくっていきたい」。 「ななつ星」の成功を経て、私たちの使命感はより一層強くなりました。しかし、強い想いだけでは、全国で不足する施設を増やすことはできません。そこで私たちは、建物の機能と運営の最適化を追求した「規格型障がい者グループホーム」を自社開発しました。人員配置や算定基準を考慮し、コンパクトでありながら居住者のアメニティを十分に確保する仕組みです。
さらに、建物を建てるだけにとどまらず、土地の有効活用に悩む地主様と、施設を開設したい福祉事業所様を引き合わせるという、工務店の枠を超えた泥臭い活動に奔走しました。専門家を招いた「セミナー」や「融資相談会」を何度も開催し、双方の不安を一つひとつ取り除きながらマッチングを行うことで、ようやく「障がい者グループホームを継続的に普及させるスキーム」を確立することができたのです。
理想の福祉グループホームを実現するためには、土地の選定から運営基盤の確保まで、乗り越えるべきハードルが数多く存在します。
私たちは単なる施工会社としてだけでなく、事業の持続可能性を担保するための「パートナー」としての役割を重視しました。
このような一歩踏み込んだ伴走の姿勢こそが、障がい者グループホームを地域に広げていくための、私たちなりの貢献の形なのです。
「真実一路」。誰もが暮らしやすい成熟した社会を目指して
現在、吉住工務店では民間企業や病院、福祉施設、公共施設といった非住宅部門(特建部門)の案件が事業の大きな柱となっています。市況に合わせて中・大規模建築物へと注力分野をシフトしているため、住宅建築で培った丁寧なノウハウを活かしながら、よりダイナミックな仕事に挑戦できます。木造からRC造、S造まで多種多様な構造の建物に携わることができるのは、非住宅案件が多い当社ならではの強みです。大型案件は難易度も高いですが、その分完成した時の達成感は格別です。幅広いスケールの建築に関わり、技術者として大きく成長できる環境がここにはあります。
吉住工務店の社是は「真実一路」です。単に利益や効率を追い求めるのではなく、世の中に本当に必要とされるものを提供し、社会課題を解決していくことが、私たちの誇りであり使命です。
「障がい者が暮らしやすい地域は、他の住民すべてにとっても暮らしやすい地域であり、より『成熟した社会』である」。 このノーマライゼーションの理念を胸に、私たちはこれからも圧倒的に不足する障がい者のための住まいを作り続けます。
真実一路の精神で関わるすべての人との絆を大切にしながら、より良い未来の社会を建てるために、私たちの挑戦は終わることはありません。