クリスタル・パレスでの2年間は、鎌田大地のキャリアを大きく変えた。フランクフルト時代は、巧みなポジショニングと駆け引きで違いを生み出す攻撃的MFとして評価された。
(文=田嶋コウスケ、写真=ロイター/アフロ)
不屈の「飄々としたクールガイ」鎌田大地
イングランドには、古くから「Lionheart(ライオンハート)」という言葉がある。
12世紀のイングランド王、獅子心王リチャード1世に由来する表現だ。勇敢さ、闘争心、そしてどんな困難にもひるまない不屈の精神を意味する。イングランドのサッカー界でも、激しい競り合いを恐れず、仲間のために体を張り、勝利への執念を見せる選手に対して使われることがある。
「鎌田大地」と聞いて、この言葉を思い浮かべる人は多くないかもしれない。飄々(ひょうひょう)としたクールガイ。そんな印象を抱いている人は少なくないはずだ。
実際に、試合後の囲み取材での鎌田は実に淡々としている。勝利の余韻に浸るわけでもなければ、自らの活躍を大げさに誇ることもない。
昨季のFAカップの戴冠式でもそうだった。
チームメートたちがピッチ上で歓喜の輪を広げるなか、鎌田は誰よりも早くロッカールームへ引き揚げた。ロッカールームでの集合写真では、鎌田はすでにシャワーを済ませ、スーツ姿。周囲を見渡せば、まだ汗だくのユニホーム姿の選手しかいなかった。仲間と大騒ぎするよりも、先に着替えを優先したあたりが、彼らしい。
だが、ピッチに立てば話は別だ。
激しくタックルに飛び込み、ゴールが決まれば雄叫びを上げる。普段の飄々とした姿からは想像もつかない闘志を、鎌田はイングランドで見せてきた。その姿が強く焼きついたのが、2025年12月のフラム戦だった。
敵地クレイヴン・コテージで行われたプレミアリーグ第15節。鎌田はボランチとして先発出場した。
パレスがボールを失い、フラムがカウンターを仕掛ける。危険を察知した鎌田は、一気にスプリントすると迷うことなくスライディングタックルへ飛び込んだ。ボールを力強くかき出し、攻撃の芽を摘む。その瞬間、鎌田は自軍サポーターに向かって拳を突き上げた。
劇的な勝ち方も大きかったのだろう。試合終了の笛が鳴ると、今度は両腕を高々と掲げる。普段は感情を抑えている男が、勝利の喜びを全身で表現していた。
激しく戦い、仲間を鼓舞し、歓喜を爆発させる。この日の鎌田には、「Lionheart」という言葉がよく似合った。
「僕みたいな動き出しをする選手はいなかった」加入直後に感じたギャップ
鎌田はピッチ上での立ち位置や相手のアプローチ、味方との距離感を読みながら、効果的な場所に顔を出す。知性で試合に入り込み、相手の隙を突く選手である。
そうしたイメージが最も強かったのは、フランクフルト時代だろう。オリバー・グラスナー監督の下、鎌田は3−4−2−1のシャドーとして、欧州の舞台で名を上げた。相手の背後、センターバックとサイドバックの間、あるいは中盤と最終ラインの間に生まれるわずかなスペース。そこへ静かに入り込み、決定的な仕事をする。それがフランクフルト時代の鎌田だった。
実際、フランクフルトがUEFAヨーロッパリーグを制した2022年当時、元イングランド代表MFのジョー・コールは、鎌田をアタッカーとして高く評価していた。コールは言う。
「攻撃的MFのカマダは、スペースに入る動きが抜群にうまい。前線でスペースを見つけると体をくるっと半転し、ポケットに侵入して決定的な仕事をする。相手からすれば、彼を捕まえるのが難しい。宝石のような選手だ」
まさに、知性で輝くアタッカーだった。
だからこそ、鎌田がクリスタル・パレスに加入した時、多くの人は同じような役割を期待した。
加入当初の鎌田は、攻撃的MFと守備的MFを兼任する形で起用された。プレシーズンではシャドーとしてプレーする試合もあり、開幕後も攻撃的MFに入る時期があった。ただ、パレスでのシャドーは、フランクフルト時代のそれとは少し性格が違った。
クリスタル・パレスは、もともとカウンター色の強いチームである。前線には、ボールを持って相手を運べる選手がいる。エベレチ・エゼ(現アーセナル)のように独力で前進し、相手を引きつけ、局面を変えられるアタッカー。あるいはイスマイラ・サールのように、スピードと推進力で一気にゴールへ迫る選手。そうしたタイプがシャドーに入ることで、パレスの攻撃はより鋭さを増す。
一方で鎌田は、味方との連係や立ち位置、タイミングで崩していく選手である。彼が良いタイミングで背後へ抜け出しても、そこにボールが出てこなければ、動きは生きない。加入直後の鎌田は、その難しさを肌で感じ取っていた。
「足元でパスを受けるより、できるだけ背後に抜け出そうとした。攻撃的MFのエゼがそういうタイプではないので、その分、僕が裏に抜け出してと考えていた(が、パスが出てこなかった)。良いタイミングで動き出していたところも何回かあったので、そこはチームの選手と話をしていきたい。これまでパレスの前線は、すごく能力が高く、体を預けてキープできるような選手が多かった。僕みたいな動き出しをする選手はいなかったと思う」
チームの習慣やパスが出てくるタイミングはまだ合っていない。鎌田はそこを冷静に見ていた。
10番から6番へ。鎌田大地が見つけた新たな居場所
時間が経つにつれ、鎌田の主戦場は前線ではなく、中盤の底へと移っていった。いわゆる6番、ボランチである。
もっとも、こうした変化はクリスタル・パレスで突然始まったものではない。フランクフルトの最終年にはシャドーとボランチを兼任した。その後に加入したラツィオでも、シーズン終盤になると中盤の低い位置で起用された。すでにボランチとしての才能は示していたのである。
ただ、その役割が完全に定着したわけではなかった。ボランチとして本格的にチームの中心を担うようになったのは、やはりクリスタル・パレスだった。
前線には推進力のあるアタッカーがいる。ならば自分は、その後ろでリスクを管理し、ボールを受け、攻撃の方向を整え、守備ではスペースを埋める。派手な決定的プレーは減るかもしれないが、チームを機能させるうえで欠かせない存在となっていった。
鎌田自身も、パレスではシャドーよりもボランチのほうが合っていると感じていた。
「パレスで僕が10番の位置(シャドー)で出るのは、すごく難しいと思う。今日も6番(ボランチ)でやりながらそう思ってました」
こうして鎌田は、加入1年目の終盤にはボランチに定着。本人も手応えをつかみ始めていた。
「プレミアリーグに慣れたというより、パレスのサッカーにある程度慣れたという考えのほうが強い。例えば、守備であまり行きすぎずにスペースを埋める。攻撃の時もバランスを取る。パレスのサッカーにやっと慣れてきたなと思います」
鎌田は、試合を重ねるごとにボランチとして幅を広げていった。
もともと6番としてプレーできない選手ではない。だが、プレミアリーグの中盤で戦うには、読みや賢さだけでは足りない。相手の圧力を受けてもボールを失わない強さ。セカンドボールに反応する一歩目の速さ。そして、体を張る場面で逃げないたくましさ。そうしたものを、鎌田はクリスタル・パレスで身につけた。
そしてその成果は、大きな舞台で表れた。
シティ撃破。ボランチとしてFAカップを制覇
世界最古のカップ戦であるFAカップ決勝。相手はマンチェスター・シティだった。鎌田は3-4-2-1のボランチとして先発し、チームの決勝点にも絡んだ。パレスは1-0で勝利し、クラブにとって歴史的なタイトルを手にした。
ボールを支配された試合だった。耐える時間は長かったが、鎌田は、その中で崩れなかった。6番としてバランスを保ち、守備で穴を空けず、必要な場面で攻撃に関わった。かつてヨーロッパリーグを制した攻撃的MFは、今度はプレミアリーグのクラブで、ボランチとしてカップ戦の頂点に立った。
試合後、鎌田は自身の変化についてこう語った。
「パレスは自分のプレースタイルと全然違ったが、今はチームに順応できていると思う。それがいいことなのか悪いことなのかわからないですけど、常にボールを持たれるような試合で、6番として90分間試合に出て、勝った。それは、自分の守備力が向上したからだと思う」
決して、自分の得意な形ではなかった。それでも、勝つためのプレーを身につけた。鎌田はさらに言葉を続ける。
「自分の得意ではない部分を伸ばさないと試合に出られなかった。そういう部分で、今までやってきたことが、大きな舞台でしっかり発揮できたのは良かった」
簡単な道ではなかったはずだ。
攻撃的MFとして期待されながら、思うように持ち味を出せない時期もあった。一時期はレギュラーから外れ、ベンチを温めた。プレミアリーグ特有の強度にも向き合わなければならなかった。それでも、鎌田は自分の場所を探し、最後にはタイトルのかかった舞台で先発に名を連ねた。FAカップ戴冠後、鎌田は胸を張った。
「こうやって最後の最後で這い上がってこれるのは、他の人と違うところ。難しい時期にやり続けたのが、この結果につながったと思う」
2度目の欧州制覇。クリスタル・パレスの歴史を変えた男
そして在籍2年目、鎌田の価値はさらに高まった。
クリスタル・パレスはクラブ史上初めて欧州カップ戦に参戦し、UEFAカンファレンスリーグ優勝を成し遂げた。パレスにとっては歴史的な欧州タイトルであり、鎌田にとってもフランクフルト時代の2022年ヨーロッパリーグ制覇に続く、2つ目のヨーロッパタイトルとなった。
2シーズン連続でタイトルを獲得したこと自体も大きい。だが、それ以上に重要なのは、鎌田がその過程でチームの中に深く組み込まれたことだろう。時間を重ねるうちに、味方選手も鎌田がどこに立ち、どのタイミングでボールを欲しがるのかを理解するようになった。今季の鎌田は、まさしくチームを動かす存在であり、不可欠な存在だった。
鎌田もまた、パレスサッカーへの理解がさらに深まった。どこでリスクを取るべきか。いつ試合を落ち着かせ、どこでバランスを取るべきか。 こうした共通認識が、チーム全体に生まれた。鎌田は、周囲との相互理解についてこう話している。
「パスを前につける時に、味方がいるべき場所にいるようになった。チームとしての共通認識や、お互いの理解力が上がったと思う。時間をかけてやってきた成果だと思います」
最高峰プレミアリーグで戦うための土台が完成
フランクフルト時代の鎌田は、知性で勝負する攻撃的MFだった。相手の死角を突き、ポケットへ入り込み、決定機をつくる。ジョー・コールが「宝石のような選手」と評したのは、まさにその能力だった。
その後、ラツィオでは徐々に中盤の低い位置でプレーする機会が増え、クリスタル・パレスでその役割は完全なものとなった。
パレスでの鎌田は、その知性を失ったわけではない。むしろ、ポジションを下げたことで、サッカーIQは別の形で生きるようになった。攻撃の最後に顔を出すのではなく、攻撃が始まる場所で判断する。相手のライン間に潜むのではなく、相手のカウンターが生まれそうな場所を先に消す。ゴール前で決定的なパスを出すだけでなく、チーム全体のバランスを整える。
そこに、プレミアリーグで戦い抜くための力強さとたくましさが加わった。
だから今の鎌田を、単に守備的MFと表現するだけでは物足りない。知性を武器にしていた選手が、本格的にボランチとして生きる道を見つけ、守備力とたくましさを身につけた。ピッチ上で静かに試合を読み、必要な場面では体を投げ出し、勝利のために戦える選手になった。
自身の変化を、鎌田はこう受け止めている。
「これまでは、ゴールやアシストをたくさん取ってきた。だが今のチームでは、なかなかできない。他のことをたくさんやらないといけないし、チームのスタイル的にも難しい。こうした変化は、選手として良くもあり、悪くもある。良くなった部分もあります。(良さを)失ってはないと思いますが、自分の良かった部分が少しなくなったりとか、選手として良くなったのかわからないですけど、プレミアでプレーするには、ある程度できるようになったのかなと思っています」
華やかさは、以前ほどないかもしれない。だがボランチとして試合を支え、守備で体を張り、チームを勝たせるために必要な仕事をこなす。その能力は、間違いなく高まった。少なくとも、世界最高峰のプレミアリーグで戦うための土台を、鎌田はこの2年で築き上げた。
北中米W杯へ。鎌田大地は日本をどこまで導くか
その延長線上に、FIFAワールドカップ・北中米大会がある。
鎌田は現在29歳。キャリアの全盛期で迎える、2度目のワールドカップだ。日本代表は前回のカタール大会で、ドイツとスペインを破った。森保一監督の第2次政権でも、昨年10月のブラジル戦で3-2の勝利を収め、今年3月にはイングランドの「サッカーの聖地」ウェンブリー・スタジアムでイングランドを1-0で撃破。その流れの中で、鎌田は重要な役割を担う。
日本代表もまた、クリスタル・パレスと同じ3-4-2-1を採用している。そこで求められるのは、パレスで磨いてきたボランチとしての判断力であり、リスク管理であり、そしてプレミアリーグで身につけたたくましさだ。
鎌田は、いつも飄々としている。試合後も、感情を大きく表に出すことは少ない。
だが、ピッチに立てば、誰よりも冷静に状況を読み、必要な場面では迷わず体を投げ出す。振り返れば、冒頭に記したフラム戦の終盤、自陣へ戻りながらカウンターを止め、サポーターへ拳を突き上げたあの姿は、今の鎌田を象徴している。
知性を失わず、たくましさを得た。
クリスタル・パレスで進化した鎌田は、北中米ワールドカップでどんな姿を見せるのか。日本代表がまだ見ぬ景色へ進もうとする時、その中心には、「知的なライオン」へと進化した鎌田大地がいる。
<了>
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