アルゼンチン代表のリオネル・メッシが躍動したワールドカップ準決勝。その舞台となったアトランタ・スタジアムは、世界最大級の屋内スタジアムとして知られている。
(文・本文写真=上林功、トップ写真=ロイター/アフロ)
アルゼンチンが決勝進出を決めた世界最大規模のスタジアム
サッカーのFIFAワールドカップ・北中米大会が盛り上がっています。日本代表の熱い戦いもあり、国内でも大会への関心がいっそう高まりました。連日の試合を追いかけながら、改めてワールドカップという大会の規模の大きさやレベルの高さを感じます。
今回は北米地域のアメリカ、メキシコ、カナダを舞台に16のスタジアムを使って熱戦が繰り広げられていますが、最終決戦に向けた舞台となったのが、決勝がおこなわれるニューヨークのニューヨーク・ニュージャージー・スタジアム(メットライフ・スタジアム)、準決勝がおこなわれるアーリントンのダラス・スタジアム(AT&Tスタジアム)、そしてアトランタのアトランタ・スタジアム(メルセデス・ベンツ・スタジアム)です。
アトランタ・スタジアムでは、先般アルゼンチン対イングランドの準決勝がおこなわれ、息を飲む白熱した試合が繰り広げられました。アトランタ・スタジアムは最新の屋内スタジアムとして名を馳せており、観戦、飲食、映像演出など、エンタメ施設として充実していることはもちろん、スポンサー体験、イベント運営、都市インフラを組み込む世界最大規模のスタジアムとして知られています。単純な公設民営施設ではなく、建設から運営まで一貫した官民共同事業としてスタジアムが運用されており、公的組織と民間企業が協力しながらスタジアム事業を進めている点が特徴です。
スタジアムにおいては施設規模や最先端のエンタメ設備だけでなく、公共と民間がどのような役割分担や財源のもとで成り立ち、そこで生まれる人の流れや消費、企業協力を、地域の価値へどうつなげているかが重要となります。そこで今回は、アトランタ・スタジアムの特徴を紹介しながら、その背後にある運営、財源、地域との関係づくりに目を向けてみたいと思います。
スポーツ観戦にとどまらない? 立体都市のような超巨大スタジアム
アトランタ・スタジアムは、NFLのアトランタ・ファルコンズと、MLSのアトランタ・ユナイテッドの本拠地として、2017年に開業しました。サッカー専用ではなく、アメリカンフットボール、サッカー、コンサート、カレッジスポーツなどに使われている屋内多目的スタジアムです。
延床面積は約18万6000平方メートル。
天井高約93メートルとなる大きな内部空間は、複層するコンコースに囲まれており、飲食、スポンサーアクティビティ、観客動線、サービス動線が折り重なる姿はスタジアムというよりまるで大きな吹き抜けを中心につくられた立体都市のように見えてきます。
屋内スタジアムということもあり空調設備は大会屈指で、真夏でも機能する約2万9600キロワット規模の冷房能力によって、室温は常時20~24℃で維持されています。準決勝当日は気温29℃、湿度も77%まで上がったそうで、暑熱対策されたスタジアムのなかでリオネル・メッシら選手たちも快適にプレーに集中できたのではないでしょうか。 あまりワールドカップのなかでは紹介されていませんが、アトランタ・スタジアムのなかでも特に象徴的なのが、カメラの「しぼり」のように開閉する可動屋根です。約12分で8枚の巨大な屋根ユニットがスライドすることで屋根中央の直径100メートルにもおよぶ大きなライトウェル(光の井戸)を開閉できます。
このライトウェルには、360度を取り囲むこれまた世界最大規模の巨大映像装置「ヘイロー・ボード」が設けられています。高さ約18メートル、円周約328メートル、表示面積は約5750平方メートルのビジョンを利用した映像演出は圧倒的な迫力です。準決勝の中継映像のなかでもカメラに映された観客にピッチではなく上を見ている人がいたのを気づいた人はいたでしょうか。これはアトランタ・スタジアムの「あるある話」で、「ヘイロー・ボード」が大きすぎて目を奪われてしまい、ピッチを見るよりも「ヘイロー・ボード」で試合を追ってしまう人が多いとの話です。
この他にも場内全体でリボンビジョンなどのLEDビジョンが合計約7660平方メートルを超え、2500台以上の高精細テレビ、2000以上の無線アクセスポイント、約8050キロメートル以上の光ファイバー網など、大きすぎるスタジアム環境を演出面でも情報面でもうまくメディア設備でまとめています。
また、このスタジアムの巨大さがよくわかる特徴に、観客のコンコースを自動車が自走できることが挙げられます。コンコースには、ネーミングライツホルダーであるメルセデス・ベンツの車両展示などのアクティビティスペースが組み込まれており、いたるところに車両展示がされています。また、施設内の搬入や移動に車が直接出入りできるようになっており、大きな折り返しスロープはこれらの車両の車路として各階のコンコースをつなぎ、各売店への搬入は小型車両でおこなうなど、まさに街の商店のような運用です。なお、これらの車両動線は興行時には観客が各レベルを上下移動する動線となります。
大きすぎて全体を把握できない、施設というより環境そのもの、まるで都市そのものと言っても過言ではありません。ぜひアトランタに訪問される機会があれば、絶対に体験してほしいスタジアムです。
巨大施設を動かす仕組み。“官民共同”というビジネスモデル
アトランタ・スタジアムは、日本で言う単純な公設民営や民設民営のスタジアムに当てはまりません。建設から運営まで一貫して公共と民間が協力する官民共同事業となっていることが特徴です。州の機関であるジョージア・ワールド・コングレス・センター・オーソリティが土地と施設を所有し、建設にはホテル・モーテル税を財源とする公的資金と、アトランタ・ファルコンズ側を中心とした民間資金を組み合わせて建設されています。完成後の運営は、ファルコンズとアトランタ・ユナイテッドを所有するAMBスポーツ&エンターテインメントが担っていますが、公共側が施設基盤を支えながら民間側が興行、飲食、スポンサーサービスなどを展開する官民共同事業として成り立っています。
2025年のスタジアムを含む周辺事業エリア全体の営業収入は約7600万ドル(約122億円)と膨大なものですが、利益そのものは約45万ドル(約7224万円)と収入に対してみると慎ましい規模になっています。
試合やイベントで生まれる人の流れ、飲食消費、企業協力、廃棄物、余剰食品、エネルギー利用を、地域支援や環境負荷の低減など事業化し、食品寄付やリサイクル、地域住宅支援など公共組織と民間企業が協働して、巨大な興行施設の日常運営から生まれる資源を地域に循環させています。
施設面でもエネルギー循環を意識した太陽光発電、雨水管理、水使用量の削減、廃棄物削減などが進められています。雨水管理では、周辺地域の浸水リスク低減に関わる大規模なシステムを備え、環境、防災、地域支援につなげています。
「スタジアム経営」から「都市経営」へ。日本が学べること
こうした官民共同事業のような取り組みはアトランタ・スタジアムに限りません。
決勝会場のニューヨーク・ニュージャージー・スタジアム(メットライフ・スタジアム)では、ホームチームを中心に、学生支援、ユーススポーツ、地域団体との連携などに取り組んでいます。またスタジアム自体もワールドカップを前に、国際環境基準であるLEEDゴールド認証を取得し、環境性能や運用について官民の協働体制をつくっています。
またもう一つの準決勝会場であったダラス・スタジアムは、アーリントン市所有の公設・民営型スタジアムとしてホームチームへの長期リースを通じて、都市の経済基盤として位置づけ、スタジアムを大規模イベント誘致や観光の核とし、ホームチームによる運営や施設投資をもとに地域のスポーツ振興・普及事業に取り組んでいます。
スタジアムで生まれる社会的な効果を地域の実情に合わせてうまく循環させる考え方は、日本国内のスタジアムでも有効な取り組みです。公設民営や民設民営など確立された公共施設の事業スキームは一見整理されているようで、地域のさまざまな課題に対して官民の役割を縦割りにして、肝心の課題解決につなげにくいケースがあります。
スタジアムに多くの人が集まっても、それだけで地域全体に新しい価値が生まれるとは限りません。飲食や買い物、移動、宿泊などの消費も、地域の中で場所を変えて動くだけに終わる可能性があります。だからこそ、人の流れ、企業協力、地域事業者との取引、雇用、税収、環境対応、スポーツ機会を、単なる消費の移動にとどめず、地域に新たな付加価値を生み出す循環へ変えることが重要になります。
世界的規模の超エンタメ施設であるアトランタ・スタジアムが示してくれるのは、施設の巨大さでも、テクノロジーの充実でも、環境配慮や地域貢献でもありません。そうした個別の取り組みを、官民が協力しながら地域へ循環させる仕組みへと昇華していることこそ、日本国内のスタジアムの在り方にも一石を投じてくれるように思います。
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<了>
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[PROFILE]
上林功(うえばやし・いさお)
1978年11月生まれ、兵庫県神戸市出身。日本女子体育大学体育学部健康スポーツ学科教授、株式会社スポーツファシリティ研究所 代表。建築家の仙田満に師事し、主にスポーツ施設の設計・監理を担当。



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