全部で30曲、3時間超。その25曲目となる「ベイベイベイビー!」を聴きながら、屈みこんだりょたち(Gt,Vo)がセンターステージの地面へ叩きつけた〈自分を愛せない人が 人を愛せるかな?〉〈でも愛する人の為に 自分を愛してみようかな〉の1行に、思わず膝を打った。ねぐせ。がバンド一大イベントとして、神奈川・横浜アリーナにて開催したワンマンライブ『愛問愛答』。「これまで貰ってきたお客さんからの愛に応えられるようなライブにしたい」という思いから、「愛の問いに愛で答える」なんて題名を冠したこのマイルストーンは、単に4人とファンが紡いできた繋がりを回顧し、ひたすらに感謝を告げるためだけのものではなかった。
先述した1節が言い表している通り、他者を想うことは自身を生かすこと。〈誰かのために生きてみたい〉と記しているように、「あなたを大切にしたい」という願いが、押し寄せる日々と戦う私を逞しくしていく。押し殺した不安や嫉妬、憎しみと対峙して、強引にだって弾けるサウンドで困難を跳ね返さなきゃならない。愛の出発点はどこまでも自らの心臓であるのだから、『愛問愛答(あいもんあいとう)』とは「I問I答」、つまりは「自問自答」にも読み替えられるのだと、ライブ終盤にしてようやく気づく。「力、貸してくれ!」の頼みを打ち返すみたいに、りょたちのキュートで、確かな凛々しさを備えた歌声に重なっていく〈あなたの為に 生きてみたい〉の大合唱。
定刻を少し過ぎた頃、RPGのテーマソングを彷彿とさせるSEが鳴りはためいた。「愛あり、冒険あり、色とりどりの楽曲をお届けします」というテキストが画面に投影されると、ざわめきとクラップに導かれ、時計の針が回りだす。過去の楽曲が少しずつ再生される総決算に相応しいオープニングムービーで始まったこの日の根幹を担っていたのは、ねぐせ。と観客で最良の時間を一緒に作り上げていこうとする一途な姿勢だった。
加えて、フロア中央の舞台で繰り広げた中盤のアコースティックブロックも、りょたちが「遠くないって言ったのは、こういうことです」と話した通り、全員とアイコンタクトを交わそうとする彼らのアティチュードを具現化したものだ。なおや(Gt)のひと際柔らかいストロークも、吐息交じりの歌唱とハスキーな質感のファルセットを往復するりょたちのボーカルも、ねぐせ。のシンボルマークとも呼べる体温に満ちたサウンドメイクを強調。タイトルコールでどよめきが湧出した「サンデイモーニング」のラララの調べもそうだが、洗い物をしている時や新しい靴を履いた時に思わず漏れ出る鼻歌にも似た生活感が4人のミュージックには流れている。
パステルカラーのアイテムが並ぶスペースシャトルの一部屋をバックに「横アリ、声を聴かせてくれますか~!」と煽った開幕曲「タイムマシンにのって」や、「出会いに乾杯しようぜ」と披露した「片手にビール」、背後に星を浮かべ、「もうすぐ七夕の季節ですね」とR&B的な要素を加えたアプローチを提示した「織姫とBABY」に至るまで、ありとあらゆる場所に配置されていたシンガロング。「宇宙に届くまで歌ってください」「ねぐせ。とねぐせ。ファンでどっちがでっかい声を出せるか、勝負しようぜ!」といった手招きも、アンコールで投下した「ずっと好きだから」の最中に呟いた「誰一人として悲しい思いにしちゃいけない。俺たちの音楽で癒されますように」なんて祈りに紐づくものだった。
一方、ねぐせ。の新機軸をありありと開示したナンバーが、「横アリのために作った曲です」とプレイされた「僕 love you」だ。大太鼓とシンセベースを持ち込み、横一列で演奏する4人の様子は、バンドというよりも、サーカスやマーチ隊のよう。ステージでは七色の炎が噴き出し、電子音を基調としたファンタジックな世界観を強調していく。「チャレンジの1曲」と語ったように、音楽的な拡張を存分に盛り込んだニューステージの1歩目であることに疑問はないけれど、決してねぐせ。はここまでの曲たちを塗り替えたいわけではないだろう。2024年に産み落とされた1stフルアルバムのタイトルが『ファンタジーな祝日を!!!』であることからも読み取れる通り、そもそも4人は暮らしの中にささやかな幻想を注入してきた楽団でもあった。ねぐせ。がねぐせ。たる所以も、誰もが余裕のない市井において、最後の最後まで人間の優しさと理想を信じ通そうとする、そのしなやかな強さにある。そう考えると、この進化が5年間の蓄積の上に成立していることは間違いない。もっと言えば、〈君がルンルンで歩けるように 色んなとこ連れてくから〉という歌詞だって、「君の音を貸してくれプロジェクト」と題したレコーディング企画だって、オーディエンスの力を受け取り、もっともっと広大なスケールの場所へと到達するための意思表明ではないか。
ラストスパートを彩った「愛してみてよ減るもんじゃないし」で「ここはゴールじゃないと思っていて、ねぐせ。はねぐせ。なりのゴールを見つけて、良い景色を見せていきたい」と語った言葉を、理想で留まらせないための新曲をドロップしたからこそ、ラストを飾った「恋夜」は殊更強く響き渡った。なんせ、バンドの始まりの歌である。そして、スクリーンに映し出されたのは、彼らのホームたる新栄RAD SEVENの壁面である。そういえば、約2年前、武道館公演にも4人はあのハコの床を連れてきていた。「俺たちが宇宙で1番あったかいバンド。フロム新栄RAD SEVEN。名古屋のねぐせ。でした」。幾度も言い放ったこんな口上は、さらに豊かな夢を編み上げていくねぐせ。の原点だ。
写真:タカギユウスケ・堤瑛史
ねぐせ。 ONEMAN LIVE「愛問愛答」2026.6.28 at 横浜アリーナ セットリスト
1. タイムマシンにのって
2. アタシのドレス
3. キスがしたい
4. あの娘の胸に飛びこんで!
5. 片手にビール
6. めちゃくちゃ好きな人を愛すように世界を愛して!
7. 猫背と癖
8. 独占愛
9. 愛煙家
10. 恋と怪獣
11. ラブソングはとまらないよ (いきものがかり cover)
12. 一生僕ら恋をしよう
13. スーパー愛したい
14. 最愛
15. スウェット
16. 花束が似合う君へ
17. サンデイモーニング
18. 彩り
19. 愛のサブスク
20. デイズ
21. 日常革命
22. 織姫とBABY
23. 愛してみてよ減るもんじゃないし
24. 死なない為の音楽よ
25. ベイベイベイビー!
26. グッドな音楽を
27. 青春バイブレーション
En1. ずっと好きだから
En2. 僕 love you (新曲)
En3. 恋夜
オフィシャルHP:https://neguse.jp/


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