シアトルのオフィスで、議事録の要約を頼む。
ChatGPTへの質問1回あたりの電力消費量は、Google検索の約10倍とされているらしい。複数のエネルギー研究者が推計しており、誇張ではない。これだけなら「へえ、そんなものか」で済む話かもしれないが、問題はそのスケールだ。
IEA(国際エネルギー機関)の報告によれば、世界のデータセンターの電力消費量は2025年に前年比17%増という急成長を遂げ、AI特化型のデータセンターに限ればさらに速いペース(50%増)で伸びている。ローレンス・バークレー国立研究所の予測では、2028年にはデータセンターだけでアメリカの全電力消費の最大12%を占める可能性があるという。
IEAによれば、データセンターの電力消費量は2030年には約950TWhに達し、これは日本の全電力消費量をやや上回る規模になるという。つまりその通過点であるいまの消費量も、すでに日本の電力消費量に迫りつつある。
ぼくたちが画面の向こうのAIに「ちょっとこれ要約しといて」と頼むたびに、日本の全家庭や工場が灯す明かりと同規模のエネルギーが、世界のどこかで追加で消費されている。
■アリゾナの砂漠で、水が消えていく
「電力」だけではなく、実は「水」も消えている。大規模なデータセンターはサーバーを冷却するために膨大な水を必要とする。複数の調査によれば、大型データセンター1施設あたり1日最大500万ガロン(約1,900万リットル)の水を使うケースがある。一般家庭が50年以上かけて消費する量を、1施設が1日で使う計算だ。とんでもない量だ。
Fortuneが2026年5月に報じた記事が、個人的にいちばん刺さった。データセンターの建設ラッシュが続くアリゾナ州タクソンで、住民が「突然、家の水圧が下がってシャワーもまともに出ない」と当局に苦情を入れ、調査の結果、データセンター向けの工事業者が許可なく約65万ガロンの水を無断で使っていたことが発覚したのだ。もともとコロラド川の水不足が深刻なアリゾナで、だ。建設予定地のある自治体が水の供給を明示的に断っていたにもかかわらず、業者は別のルートで水を持ち出していた。
バージニア州でも、コストの跳ね返りは電気代というかたちで現れている。自然資源保護協議会(NRDC)の試算によれば、データセンターが密集するバージニアを含むアメリカ東部・中西部の13州では、2028年までに一般家庭の電気代が月約70ドル(約1万円)上がる可能性があるという。アメリカの平均的な電気代が月140ドル前後だから、ざっくり5割増しだ。
テクノロジーの恩恵はシアトルやサンフランシスコのオフィスワーカーが享受し、コストは砂漠の住民が水圧の低下として払う。この非対称性は、ぼくが思っていたよりずっと露骨だ。
■マスクの「解決策」は宇宙
地上でのデータセンター建設が「どこに建てても誰かが迷惑する」問題になりつつある今、業界の大半は再生可能エネルギーへの切り替えや液冷システムの導入で何とかしようとしている。でもひとりだけ、根本的に違う方向を向いている人物がいる。イーロン・マスクだ。
2026年2月、マスクはSpaceXと自身のAI企業xAIを統合し、衛星軌道上にデータセンターを構築する計画を発表した。最終的には100万基の衛星を打ち上げるというもので、第1世代「AI Sat Mini」はソーラーパネルの展開幅が約180メートルに達する設計だという。国際宇宙ステーション(ISS)の全長が約110メートルだから、それを上回る巨大な板が宇宙をぐるぐると回るわけだ。電力は太陽光から確保し、「2~3年以内に地上のデータセンターよりコスト競争力が出る」とマスクは言っている。
最初にこのニュースを読んだとき、ぼくは荒唐無稽だと思った。
実際、専門家の見方も厳しい。宇宙空間は真空なので、サーバーが発する熱を逃がす手段がほとんどない。
でも、アリゾナの住民が家の水圧低下に苦情を入れ、バージニアの電気代が跳ね上がっていく話を思い返すと、ぼくの見方は少し変わってくる。
宇宙空間のデータセンターには、冷却用の水が要らない。地域の電力網に負荷をかけることもない。砂漠の住民に怒られることもない。電力は太陽光で無限に得られる。「どこに建てても誰かが迷惑する」のなら、地球の外に出てしまえばいい——突拍子もないようで実は根本的な解決策かもしれない、とぼくは思い始めている。技術的な壁はまだ高い。でも少なくとも、発想の方向性としてはこれがいちばんクリーンだ。
■便利さの代金は、誰かがすでに払い始めている
シアトルのテック業界に身を置くぼくの実感として、電力問題はいまやAI成長の最大のボトルネックになりつつある。老朽化した送電網はAIの急成長に追いつけず、電気代は上昇し、クリーンエネルギーへの転換が間に合わない分を天然ガスが補っている。日本にとっても、これは遠い話ではない。スマホでChatGPTに問いかけるとき、そのエネルギーコストは日本の電気代の請求書には載らない。エネルギー自給率が低い日本が、AIというきわめて大食いなインフラを「世界のどこか」に丸ごと外部委託している歪みは、まだほとんど議論にすらなっていない。
「便利さ」には必ずコストがあって、そのコストが誰かの目の届かない場所に押し込められているだけだ。ChatGPTが無料または安価で使えるのは、どこかの発電所と、どこかの地域の水が、その計算を肩代わりしてくれているからにすぎない。マスクが宇宙に解決策を求めているのも、地上でのコストを誰かに押しつける構造から本気で逃れたいからかもしれない。
ぼくはこれを書き終えたら、今日もシアトルのオフィスで、画面の向こうのAIに何十回目かの問いかけをするだろう。ちょっとした後ろめたさを、コーヒーと一緒に飲み込みながら。ただ、スマートな画面の向こう側で、今この瞬間も砂漠の川が干上がっているかもしれないということ。その想像力だけは、手放さずにいたいと思っている。
<文/福原たまねぎ>
【福原たまねぎ】
シアトル在住。
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